ブラバムBT51
写真:: Sutton Images
ブラバムBT52は、従来のコンセプトを引き継いだモノではなく、登場する必要があったマシンだと言えるだろう。
ブラバムチームは、1983年シーズンに向けてグラウンド・エフェクトカーであるBT51を準備していた。しかしFIAは、シーズン開幕直前の82年11月に、83年シーズンからグラウンド・エフェクトカーの使用を禁止する決定を下す。そのためチームは、土壇場でマシンを再設計しなければならなかった。
当然ながら、本質的にはグラウンド・エフェクトカーとしてデザインされたマシンに、ごく短期間で修正を加えるのは、チームにとっては大きなハードルであった。
”さらば”グラウンド・エフェクト
写真:: Giorgio Piola
1981年のグランプリを走った、ブラバムBT49Cを分解し解説した図である。グラウンド・エフェクトカーとは、サイドポッドの下面をウイング形状にし、マシンのフロア全体でダウンフォースを発生させようとする仕組み。簡単に言えば、フロア全体がディフューザーになっているようなものだ。
なおマシンの外側にはパネルが設けられていて、サイドポッド下を流れる気流がマシンの側面に逃げてしまったり、逆に流入してくることを防いでいる。
なおこのBT49Cには、油圧式のサスペンションが搭載され、車高をコントロールすることでより効率的にダウンフォースを手にしようとした。
アロー・シェイプ
写真:: Giorgio Piola
当時ブラバムのチーフデザイナーを務めていたゴードン・マーレイは、新しいレギュレーション下のマシンは、長いサイドポンツーンを持つと悲惨なことになることをすぐに理解したようだ。そのため彼は、矢のような形状のシルエットを選択。ライバルチームとは全く異なるアプローチを選んだ。
ブラバムBT52B ラジエター
写真:: Giorgio Piola
BT52のリヤには、ラジエターとインタークーラーが備えられていた。これにより、ターボチャージャー付きのBMWエンジンを冷却しようとしたのだ。これは、重量バランスを大きく後方にシフトしたためだ。そしてこれにより、強大なエンジンパワーをより活かし、大きなトラクションを得ようとした。
ブラバムBT52B分解図
写真:: Giorgio Piola
マーレイはこのBT52の開発以前に、”モジュール構造”の概念を採り入れようとしていた。これは、マシンの後部全体を、マシンから切り離して組み立てることができるという考え方である。当時ブラバムが使っていたBMWエンジンは、強力だがライフが極端に短く、各セッションごとに載せ替えるという状態だった。そのためマーレイは、エンジン、インタークーラー、ラジエター、ギヤボックス、サスペンションなどをひとつのユニットとしてまとめ、そのユニットを複数用意して、簡単に交換できるようにしたのだった。
現在のF1マシンは……
写真:: XPB Images
このコンセプトは、F1のデザインにとって画期的な出来事であり、すぐにライバルチームによってコピーされることになった。これは現在のF1でも、基礎となっている部分であり、メカニックがマシンのそれぞれの部分でより効率的に働くことを可能としたのだ。
小型燃料タンクの採用
写真:: LAT Images
マーレイは当初から、レース中に給油を行う作戦を念頭に置き、容量の小さなタンクを準備していた。83年シーズンには、他チームもレース中の給油を開始したことを考えれば、先見の明があったとも言えよう。ただ、他チームのタンクはフルサイズのままでおり、その結果エンジンカウルが大型化し、リヤウイングへの気流を妨げた。これも、ブラバムに大きなアドバンテージをもたらした。
”栄光”を支えたパワー
写真:: LAT Images
ブラバムの成功を語る上で外すことのできないもうひとつの要素は、強大なパワーを発揮したBMWエンジンを使用したことだ。その出力は800馬力以上だったとも言われていて、現代でも驚異的な数字と言える。これは、燃料供給メーカーであるウィンターシャルの協力なしでは成し得なかったことであろう。同社は特殊化合物を開発し、出力向上に寄与したのだった。
そしてチャンピオンを獲得
写真:: LAT Images
突如変更されたレギュレーションに対するマーレイの独創的なアプローチと、当時のグリッド上で最もパワフルなエンジン……その組み合わせにより、F1の歴史の中でも印象的なマシンの1台が登場した。
BT52はデビューレースでネルソン・ピケに優勝をもたらすが、信頼性の問題に悩まされ続け、8戦目を終えた段階ではふたつの表彰台を付け加えただけだった。チームメイトのリカルド・パトレーゼに至っては、完走わずか1回という状況だった。しかしイギリスGPでBスペックマシンが投入されると、状況が一変。ピケはアラン・プロスト(ルノー)やルネ・アルヌー(フェラーリ)とタイトルを争うこととなった。このBスペックでは、ピケが2勝+表彰台3回、パトレーゼも1勝を挙げるなど活躍し、ピケがドライバーズチャンピオンに輝いた。
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