分析

【F1分析】ホンダの”サイズゼロ”コンセプトが抱えていた問題点

”サイズゼロ”を謳った小さなパワーユニットと共にF1復帰を果たしたホンダは、今季メルセデスに迫るべく、このコンセプトを撤回するようだ。

2015 Honda engine, side view

2015 Honda engine, side view

Giorgio Piola

ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

Analysis provided by Giorgio Piola

 2015年にF1に復帰したが、その最初の2年は苦戦することになってしまったホンダ。しかし2017年は、彼らの努力が実る1年になるかもしれない。なぜなら、FIAはトークンシステムを廃止し、各パワーユニットメーカーがパワーユニットを1から再設計できるようにして、メルセデスとの差を縮める可能性を生み出そうとしているからだ。

 ホンダが2015年シーズンに持ち込んだパワーユニットのデザインは、非常にアグレッシブなものだった。とても小さく、そして薄くデザインすることで、シャシーデザイナーのパッケージングを手助けすることを目指したからだ。”サイズゼロ”と言われるコンセプトである。

 しかし、逆にその点に無理があった。例えば、パワーユニットを小型化するためにターボも小さくせねばならず、結果として必要とされるブースト圧を実現できなかったばかりか、それに取り付けられた熱回生用のモーター/ジェネレータの効果が制限されてしまったのだ。

 この方向性については、2015年の時点で問題点が指摘されていた。しかし、2016年に向けてはまだトークンシステムが存在していたため、抜本的な解決には至らなかった。

 2017年に向けては、前述の通りトークンシステムが撤廃されたため、パワーユニットの全面的な見直しが行われた。当然、2016年用の開発も行わねばならなかったため、並行して2017年パワーユニットについての作業を行う別のワーキンググループが組織された。そしてシーズンが進むにつれ、多くのリソースが新しいパワーユニットのデザインに注がれていったという。

 結局今年のマクラーレンのマシンには、直近3シーズンでメルセデスが使ったモノに非常に似たデザインのパワーユニットが搭載されるものとみられる。これにより、ホンダはメルセデスに打ち勝つことができると考えているようだ。

 メルセデスのパワーユニットには、3つの特徴があると言われる。ホンダはこれらの特徴を基に、マクラーレンのマシンに乗せる最適なパッケージングを検討していると見られる。

メルセデスが成功した”3つ”の要素

 

Mercedes engine layout, captioned
メルセデスのパワーユニットレイアウト

Photo by: Giorgio Piola

 現在のF1では、エンジンのVバンクの間にターボなどの補助部品を収めるのが重要である。ターボの回転を考慮すれば、欠点がないわけではない。しかしメルセデスは、タービンとコンプレッサーのサイズを調整することで、パワーユニット全体の長さに大きな影響を与えず、パッケージ全体をまとめることに成功した。

 これは非常に重要なことだが、あまり注目されてこなかった。このサイズのターボを実現したことにより、MGU-K(エネルギー回生)とMGU-H(熱回生)の双方で回生される電気エネルギーを、より多く使うことができるようになった。

燃料噴射システム

 ハイブリッド化された現在のF1パワーユニットでは、その電気エネルギーばかりに注目が集まる。しかし現在のパワーユニットが、ERS(エネルギー回生システム)の無い時代のV8エンジンより多くのパワーを生み出し、燃費も30%以上向上していることを考えると、これは驚異的な成果である。

 通常、過給機付きのエンジンは、自然吸気(NA)エンジンに比べて燃費を犠牲とする。しかしメルセデスは、ペトロナスとの協力により、パワーユニットの熱効率を向上させるための燃料と潤滑油を生み出した。

 当初課題となったのが、ノック限界の問題だった。これが起きると、エンジンに損傷を与えてしまう危険があり、ルノーは特にこれに悩まされていた。しかしその後、メルセデスに倣う形で各メーカーはジェットイグニッションシステムを使用し、混合比を希薄にして燃費を改善しようとした。

 これはF1が直噴エンジンを採用したこと、そしてそのレギュレーションにより可能となったことだ。高圧で噴射された燃料は、スパークプラグによって点火される従来の燃焼よりも先に、シリンダーに送られると自動的に点火するようになり、炎自体も小さなものとなった。

インタークーラー

 2014年以降のメルセデスのマシンの特徴は、燃料タンクとエンジン前面の間に置かれたインタークーラーである。他チームも同様のモノを採用したが、メルセデスと全く同じということにはならなかった。奇妙なことに、メルセデス製のパワーユニットを使ういずれのチームも、メルセデスと同じではなく、サイドポンツーン内にインタークーラーを置いたのだった。

 フェラーリのパワーユニットは、エンジンのVバンク内にインタークーラーを取り付けていた。しかし、エンジン本体の熱が影響してしまうことで、ターボチャージャーとの距離が短いというメリットを相殺する形となってしまったようだ。

 しかし2016年、フェラーリは第2段階の冷却システムを採用してきた。これは小さな空冷の冷却器をエンジン後部にあるコンプレッサー上部に取り付け、ブーストパイプが左のシリンダーバンクを通って、メルセデスのように燃料タンクとエンジンに挟まれた位置にあるインタークーラーへと通じている。

 ホンダとマクラーレンも、メルセデスがこれまで数年間使用してきたレイアウトを採用することに合意したとみられる。またフェラーリの手法は賞賛に値するものの、ターボの構造のおかげで妥協を強いられているという。

特効薬はない

 すべてのパワーユニットメーカーは、メルセデスが設定した目標を追いかけることになる。しかしその問題を解決するための確実な方法などない。一方でパワーユニットとシャシー部門が協力し、マシン全体のパッケージを最適化するために調整せねばならないのは間違いなく、つまりワークスチームにとってはより有利な状況になるだろう。

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