【F1分析】”気流の流れ”が一変!? 2017年空力規則を解析
新レギュレーションが導入される来季のF1。1周あたり約5秒速くするためのエアロ/空力をフロントウイングからディフューザーまで徹底解析
写真:: Giorgio Piola
2017年F1のレギュレーションの変更は、ラップタイムを5秒短縮することが主な目標である。そのためにタイヤサプライヤーであるピレリは、今季よりも幅広いタイヤを供給し、マシンのエアロに関する規定も大きく変更されることになる。
今回の規定変更の中で最も注目すべき箇所は、”三角形状”になったフロントとリヤのウイング、そしてサイドポンツーンの前端部分だ。
これらの変更はマシンをよりアグレッシブに、そして未来的な外見にするために導入されたが、各チームのデザイナーは、空力の活用方法を新たに考えさせることになるだろう。
来季のレギュレーション変更がどのようにマシンに影響を及ぼすのかを理解するために、普段はあまり見ることができないマシンの底面から探ってみることにしよう。
フロントウイング
フロントウイングは、マシン全体のパフォーマンスにおいて非常に重要性の高いパーツだ。なぜならフロントウイングは、前方から流れてくる気流がマシンに触れる最初の地点に存在するエアロパーツであり、マシン全体の空力性能にも大きな影響を及ぼすからだ。さらにフロントタイヤにも近接しているため、このフロントタイヤによって生み出される乱流をどう処理するかという点にも関わってくる。タイヤがむき出しのまま装着されるフォーミュラカーの場合、マシン全体の空気抵抗のうち40%をこのタイヤが占めることになるため、これをどう処理するかという点は、デザイナーが最初に取り掛かる作業だと言っても過言ではないだろう。
2009年に実施されたレギュレーション変更(上記写真参照)でも、デザイナーたちは同じようなことを何年も考えさせられた。当時、フロントウイングの中央部分に、平坦かつフラップを装着できない部分を設けられ、その全幅も車幅に合わせて大きくなった。しかし、それよりも重要だったのは、バージボードのサイズが劇的に縮小され、フロントタイヤで発生する乱流の処理に大きな影響を与えたことだ。
つまりこれらの変更はマシンの後部にも影響を与え、ダウンフォースレベルを全体的に引き下げた。しかし、最も影響を受けていたのはシャーシのフロントエンド部分だった。
その後、フロントウイングの幅が再び狭められたことで、デザイナーたちはさらに苦しむことになった。それまではマシンの内側に空気を流すように設定されていたフロントウイングは、一転してマシンの外側に向かって流されるように変更されていき、現在ではそれが主流になっている。
マシンの外に気流を流すのは、フロントタイヤで発生する乱流をマシンの外に向けて流したいからだ。こうすることで、小さくなったバージボードでも、フロアとサイドポンツーンに流す気流を整えることができるようになった。
またY250ボーテックスと呼ばれる、フロントウイング中央の”平坦”な部分がフラップと接合する部分で発生する渦流は、より大きな抵抗を生み出すようになったフロントタイヤ後ろの気流の乱れを整えるために活用されるようになった。
2017年マシンも、フロントウイングの中央部分には、平坦な部分が設けられる。上方から見た際には三角形だが、この部分はこれまで同様Y250ボーテックスを使うことができる。また、ノーズの長さも850mmから1050mmに延長されている。
フロントウイングの幅も1650mmから1800mmに広げられ、245mmから305mmに拡大するタイヤの幅に対応する形となった。
バージボードの巨大化が、アプローチを変える?
ここまでの情報だけを見ると、今後もマシンの外に向かって空気を流す方式が主流になると思われるだろう。しかし、今回のレギュレーション変更で最も重要なのは、バージボードを巨大化出来るという点にある。これによりフロアとフロントタイヤの間を分断出来るということになり、デザイナーがフロントウイングに対して施すアプローチを変更させることに繋がるかもしれない。
上のイラストのマクラーレンのテスト用フロントウイングは、まさに新しい方法を示している。ウイング下のスプリッターは、まっすぐに並べられていて、あたかもマシンのフロア下に向かってダイレクトに気流を流そうとしているように見えるのだ。
今回のレギュレーション変更は、マシンのスピードを回復させようとする、このスポーツ史上初めての例である。近年では2009年に大きなダウンフォースの削減が行われ、2014年に再びスピードが抑制されたことで安全性を向上させることを目指していた。
それを念頭におくと、我々はシャーシがどれほど複雑なものになるかを理解する際、またマシンに流れる気流の上流と下流にどのような影響があるのかという点で、2009年より前のマシンの幾つかをベンチマークとして使うことができる。
上記の2003年と2004年のマシンのイラストは、その時代のマシンの傾向を示している。そして、2009年以前に流行していた、気流を整えるためのソリューションが描かれている。
”レーキ角”
F1マシンの底には、プランク(スキッドブロック)と呼ばれる板が貼り付けられていて、その前端にはスプリッターもしくはTトレイが存在する。また、マシンがノーズを下げた形で走るのは機械的及び空力的にメリットが大きいため、”レーキ”(マシンの車高を後ろ上がりにすること)をつけた状態で走るのはシングルシーターではよくあることだ。
レーキをつけることのメリットは、空力学的な側面から言えば、フロントウイングを地面に近づけることができること、そしてディフューザーの性能を高めることができるという2点である。ただ、レーキ角をつけすぎるとプレートの先端が地上と接触してしまう。プランクが規定以上に摩擦してしまうと失格などの処分を受けることになるため、ここはある程度の妥協が必要になる。
これを回避するため、各チームはフロアの先端を蝶つがいを用いてぶら下げている。これにより、車検をかいくぐりながら、効果的なレーキ角を維持することを目指しているのだ。
しかし2017年には、プランクはフロントホイール中心線からさらに100mm離れた場所に設置しなければならなくなった。これにより規制に引っかかることなくレーキさせやすくなる。つまり、マシンをレーキさせるという点ではその余地が広がったと言える。
ディフューザー
マシン後部のレギュレーションも変更される。この改革はデザイナーにとって、ディフューザー設計の自由度が広がるということを意味する。これまでの規則では、ディフューザーをフロアから立ち上げる位置はリヤホイール中心線からと定められていたが、新レギュレーションではそれが175mm前寄りに移動された。これに加え、幅が50mm拡張されたことで最大幅が1050mm、また高さも50mm拡張され、最大高さが175mmになった。
しかし、プランクはリヤホイールの中心線まで存在しなければならないと規定されているため、ディフューザーの立ち上がる位置は右・中央・左の3つで分割されることになる。
総評
2017年のレギュレーションは、今までとは全く違った方向で大胆な変化を遂げると言える。これによりFIAが求めていた通り、2014年規制と比較して1周あたり約5秒ほどスピードアップすることになるだろう。
新しいマシンは、フロントウイングからリヤウイングに至るまで、これまでとは気流の扱い方が大きく違ってくるだろう。しかしながら、今までのソリューションを元に新たなレギュレーションの枠組みを作成しているため、必然的にデザイナーたちはほぼおきまりのソリューションをたどることになるだろう。たとえそうであっても、この規模のレギュレーション変更は、間違いなくいくつかの重要な開発のヒントになるはずだ。来季は年間を通して、激しい開発の戦いが繰り広げられることになるだろう。
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