ホンダのファクトリー閉鎖は他メーカーとは条件が違った? FIAが詳細を説明
ホンダがF1開幕戦オーストリアGPでPUのアップグレードを導入したことに、一部のライバルメーカーは不満を抱いていたようだ。しかし、ファクトリー閉鎖を平等に適応させるため、最大限努力したとFIAは語る。
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
2020年のF1は新型コロナウイルスの影響で、3月半ばに開催される予定だったオーストラリアGPが中止になって以降、7月のオーストリアGPまで3ヵ月以上シーズンが中断された。
当時はヨーロッパでコロナウイルスが猛威を振るっていたこともあり、各チームはファクトリーを閉鎖せざるを得なかった。またFIAは、当初夏に予定されていたファクトリーの閉鎖期間をこの時期に前倒しし、さらに期間も延長することになった。この間はフェラーリやメルセデス、ルノーのパワーユニット(PU)開発もストップすることになった。
一方、ホンダはそうした期間の一部で研究所を稼働させ、日本でPUの開発作業を続けることができた。
フェラーリのチーム代表であるマッティア・ビノットはハンガリーGPの際、チームが開発を検討していたアップグレードは、ロックダウンの影響でトラックに持ち込むことはできなかったと指摘。暗にホンダを対象にし、彼は次のように語った。
「我々は今季に向けて開発を行なってきたが、今季中には導入できない。開幕前に長いシャットダウン期間があったためだ。ちなみに、これは他のPUメーカーには当てはまらない」
ホンダが他のメーカーが作業できなかった時期に開発を進めていたことは否定できないが、問題の核心はホンダがこの状況から利益を得ていたかどうかだ。
では実際、どのようにして平等化が図られていたのだろうか。
ホンダの”ディレイ・ロックダウン”
Alex Albon, Red Bull Racing RB16
Photo by: Charles Coates / Motorsport Images
FIAのシングルシーター部門技術責任者のニコラス・トンバジスは、コスト削減の過程で重要な考慮事項のひとつは、国の規制が他の国よりも厳しいからといって、チームやメーカーが割を食わないよう保証することだったという。
そのためには、多くの国や大陸にまたがるような企業に対しては、ある程度調整を行なう必要があり、多少の妥協は避けられなかった。
「ホンダの状況は、他のメーカーとは少し異なった」と、トンバジスは説明した。
「それは期間ではなく、いつシャットダウンされたかという点でだ」
「その理由はロックダウンを伴うこの異常な状況下で、たまたまコロナの影響を受けた国にいたことで、他のチームやメーカーと比べて余計なロックダウンを受け入れ、不利な立場に立つチーム、メーカーがいないようにするためだ」
「たとえばイタリアでは早期にロックダウンを行なった一方で、イギリスはそれより状況が遅れていたなど、国によって状況が異なった。すべてのロックダウンは同等である必要があると考えていた。それによって有利不利になるチームやメーカーがあってはいけない」
日本は海外と異なり、ゴールデンウィークとお盆休みを、各企業がしっかりと取るという風潮がある。これはホンダも、そのF1開発部門も例外ではなく、そもそも夏休み期間中だけでファクトリーの閉鎖期間を費やすということにはなっていなかったようだ。
ホンダの山本雅史F1マネージングディレクターは、ロックダウンの件について、DAZNのインタビューで次のように語っていた。
「ミルトンキーンズに常駐している田辺(豊治F1テクニカルディレクター)たちの部隊は、3月末から5月15日まで完全にロックダウンの期間に充て、お休みの期間にしました」
つまり、ホンダのヨーロッパでの拠点は、他のメーカーと足並みを揃えてロックダウンを実施したのだ。
「ただ日本は、ゴールデンウィークだったり、お盆だったり、会社として決めている長いお休みがあります。そこはFIAに理解していただき、ゴールデンウィークの前後と8月のお盆休みをうまく足して、マニュファクチャラーとしてのノルマを達成するようにしました」
「日本のロックダウンの期間は、開発部隊のサーバーを一気に止めてしまって、開発は一切できないという状況を作り出すようにしています」
この日本のスケジュールに、メルセデスやフェラーリ、そしてルノーも合わせてしまうというのも、各マニュファクチャラー間の平等性を保つという面では有効だったかもしれない。しかし、それは良い結果には繋がらなかっただろう。そのためホンダが8月にも開発を停止するということは、理論的であったと言える。
「日本では、新型コロナウイルスの感染拡大と、ファクトリーのロックダウンの状況がまったく異なっていた」
トンバジスはそう続ける。
「4月上旬にこれらの規則に合意した時、日本が夏にロックダウンを行なうかどうかは分からなかった。そして日本で新型コロナウイルスの感染状況がどうなるのか、それも分からなかったんだ。そのため、ホンダがシャットダウンする時期については、ある程度柔軟性を与える必要があったんだ」
「例えば日本では7月にロックダウンしなければならないと、法的な要件があった場合、ヨーロッパのメーカーに対して『日本がロックダウンすることになったので、あなた方ももう1ヵ月ロックダウンする必要がある』と言うのは大変だっただろう」
「それがヨーロッパのメーカーがロックダウンしている際に、ホンダがある程度仕事をすることができた理由であり、現在彼らはそれを補っている」
「人々はそれぞれ、様々な状況に置かれている。そんな時には完全に公平なレギュレーションを作ることなどできない。完璧を求めるのは不可能なのだ。なのでこれが、我々にできるベストな選択肢だった」
なおホンダは開幕戦オーストリアGPに、”スペック1.1”と呼ばれるパワーユニット(PU)を持ち込んだ。ただこれは、テスト仕様のPUから大幅なパワーアップを果たしたものではなく、信頼性の向上が目指されたモノだ。
トンバジス曰く、各メーカーのPUは2月にホモロゲーションが取得されて以降、パフォーマンス向上のための開発を施されていないという。
「コスト削減を達成するために、パワーユニット側で成し遂げられた、ふたつのことがあったという」
そうトンバジスは語った。
「ひとつはテストベンチの使用時間の制限だった。これは、風洞実験時間の制限と同様だ」
「そしてもうひとつは、メーカーが受けることができるホモロゲーションの回数を削減することだ。そのためどのメーカーも、新しいホモロゲーションは取得していないし、大幅なアップグレードは行なっていない」
「エントラントは、2020年のホモロゲーション関連書類によって、ホモロゲーションされた。それは、2月のある時期に提出されたものだ。それ以降は、ホンダも含めて、どのメーカーもパフォーマンスに関する開発を行なっていない」
「今は、多くのメーカーがエンジンの信頼性向上を望んでいる。このホモロゲーションによって、信頼性に問題を抱えるチームがリタイアするということにしたくないんだ」
「信頼性のアップグレードについて承認を受けるためには、非常に特殊なプロセスがあり、他のメーカーもそれを知っている」
「信頼性の変更を行なうと言っておきながら、その間に圧縮比や燃焼室を変更して、20kWのパワーアップを実現する……そんな風に悪用することはできない。信頼性を向上させるためのプロセスがあり、ホンダを含めたすべての関係者が、そのプロセスに従っている」
ホンダはシーズン開幕前に信頼性に関する作業ができたものの、他のメーカーには追いつくための時間がある。したがって、ロックダウンのルールを悪用し、極端に不公平なチームやメーカーが生まれる状況にはならなかった。
その代わり、F1はこの前例のない状況が繰り返されることがないよう願っていることだろう。
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