ハミルトンはメルセデスF1内で軽視されている? 戦略ミスで再燃する“陰謀説”。離脱まで両者は調和を保てるか
陰謀論はないが、ハミルトンがメルセデスを離脱するまで、チームは調和を保つことができるだろうか?
ルイス・ハミルトンが2024年シーズンのF1開幕前に2025年からのフェラーリ移籍を発表して以来、メルセデスでの処遇をめぐって陰謀論が渦巻いている。
2013年にタッグを組んで以降、メルセデスとハミルトンはF1タイトルを6回にわたって獲得。このパートナーシップが成し遂げてきた功績は後々、今世紀初頭にミハエル・シューマッハーがフェラーリと築き上げた黄金時代と同等に語られるはずだ。しかし最終年となる今シーズンは不調和の兆候が見られる。
今季ハミルトンは複数のグランプリで、フリー走行では好調ながら予選で調子を崩すという傾向が見られた。ソーシャルメディア上では、チームがジョージ・ラッセルばかりに肩入れしているというハミルトンサポーターの指摘もある。
ベルギーGPでラッセルは、最終的に失格となりハミルトンが優勝を手にしたものの、戦略の関係もありトップチェッカーを受けた。
今年初めには、メルセデス従業員からと主張する、ハミルトンへの妨害工作を示唆した怪メールまで出回り、チーム主要メンバーを脅したとして警察沙汰となった。
妨害工作の主張もハミルトン自身による主張もないが、X(旧Twitter)やInstagram、Facebookがニュースや意見の主役となる現代において、しばしば真実よりも認識の方が強力であることもある。
もちろん、イタリアGP予選で6番グリッドを獲得した際にハミルトン自身が「良くなかった」と認めたことは陰謀論の疑念を払拭してくれるかもしれない。
Lewis Hamilton, Mercedes F1 W15
Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images
しかし、予選3番手スタートながらソフトタイヤを履くことになったシンガポールGPでは、ハミルトンがチーム内で不当な扱いを受けたとの陰謀論が再燃した。
ソフトスタートはハミルトン含め2名のみ。この判断でハミルトンはレースを不利に進めることとなり、最終的にラッセルの後ろ6位でフィニッシュすることとなった。
大会の翌週、マレーシア・クアラルンプールにあるチームスポンサーのペトロナス本社で、ハミルトンとラッセルがシンガポールGPでの戦略について反応。その様子を観客が映した動画がソーシャルメディアで拡散された。
以下はその時の様子だ。
ハミルトン(LH)「面白くなかった。レース前の朝のミーティングでは……実はその前の夜には既に、2台で(戦略を)分けたいと彼らは言っていた。僕としては少しそれに当惑していた。過去にああいうポジションになった時……通常ならジョージがいつものように予選で好成績を収めて、僕がトップ10圏外なら、戦略を分けることになる」
LH「でも、ここまで接近していた時にやるのは、僕としては理解できなかった。ミディアムタイヤにしようと僕は抵抗したけど、チームはソフトタイヤでスタートすることを提案し続けた。彼らがタイヤブランケットを外して、みんながミディアムタイヤを履いていた時は……」
ラッセル(GR)「それを見た時は『ルイスはハッピーじゃないだろうな』と思ったよ」
LH「とても腹が立った。あの瞬間から既にフラストレーションが溜まっていたし、それから前のドライバーについていこうとベストを尽くした。彼らは速すぎたから、できるだけタイヤを長持ちさせようとした。(ピットストップを終えた時点で)僕のレースは終わったと分かっていた。あの暑さでハードタイヤは苦戦を強いられるからね」
たとえ言葉のチョイスにトゲがあったとしても、ハミルトンは回答の途中で笑っており、メルセデスの状況に反感を抱いている様子はない。
メルセデス代表のトト・ウルフは、チームが戦略を選択する際に「レースを読み間違えた」と説明していたが、テクニカルディレクターを務めるジェームス・アリソンがさらに詳しい見解を示した。
「最初に言っておくと、ソフトタイヤでスタートするべきじゃなかった。あれは間違いだった。もし時間を巻き戻せるとしたら、周りと同じようにミディアムを選択するだろう」
「その理由は、ソフトタイヤではスタートで一気に他を引き離し、レース序盤で1〜2番手にポジションを上げることができる可能性が高いからだ。レース前には、ソフトコンパウンドであのような困難に見舞われるとは全く予想していなかった」
「だからソフトタイヤで1〜2番手を獲得することを予想していたが、そうはならなかった。理由はスタートが上手くいかなかったからだ。そして、これまでのシンガポールでのレースを振り返ってみると、全体的にレース序盤のペースは控えめで、周回を重ねていく中でペースを上げていくから、ソフトタイヤでもピットウィンドウ後半まで全く問題なくて、ソフトは少し壊れやすいというマイナス面も特に悪い結果にもならないと期待していた」
Toto Wolff, Team Principal and CEO, Mercedes-AMG F1 Team, in the garage
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
「スタートでポジションを上げられず、5周目あたりから(周りの)ペースが上がり始めたが、ルイスのマシンは特に満足のいくモノではなかった。ひどいタイヤデグラデーション(性能劣化)に悩まされ、結果として早く(ピットに)戻って来る必要があった。それで彼のレースが台無しになった。明らかなミスだった」
他のチームと同様に、メルセデスは過去のレースデータと週末を通じて得た情報をもとに戦略を決定する。ハミルトンの考えがどうであれ、チームが62周先の結果を最大化するために最適と思われるコンパウンドを選択したことは間違いない。
陰謀説を持ち出し、メルセデスがそうしなかったと示唆するのは著しく不公平なことであり、これまで多くの成功を収めてきたプロ集団に対する侮辱である。
ただ、チームとドライバーの関係にダメージがないわけではない。ハミルトンは現行グラウンドエフェクトレギュレーション黎明期に苦戦したメルセデスのために、2年間にわたってコース上で“モルモット役”を担った。そしてスターリング・モスに倣った“生涯メルセデス”という思いは消え、フェラーリ移籍に踏み切ることとなった。
数年前であれば、メルセデスはレース前のブリーフィングでハミルトンの訴えにもっと耳を傾けていたかもしれない。ウルフ代表は今年、ハミルトンとの個人的な関係は悪化していないと主張したが、フェラーリ移籍には「ショックと痛み」が伴ったと語っていた。
今メルセデスに問われているのは、かつてF1を支配していたこのパートナーシップの調和を、年末の惜別まで保つことができるかどうかだ。
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