分析

アルピーヌが考える、女性F1ドライバーの育成、そして女性F1スタッフ増加のためのプログラム

アルピーヌは、”Race(H)er”プログラムによって、女性F1ドライバーの育成や、モータースポーツ界で働く女性を増やすことを目指している。そのために、彼らは何をするつもりなのか……関係者たちが語る。

Abbi Pulling, Alpine Film day

 今年の6月に、モータースポーツ界に女性ドライバーやスタッフを増やすための試みである”Race(H)er”プログラムを立ち上げたアルピーヌ。同ブランドの関係者は、どのような手法で女性の参加を促そうとしているか、その考えを説明した。

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 現在は女性だけのフォーミュラカーシリーズであるWシリーズが開催されているが、F1のレギュラーシートを獲得したのは1992年のジョバンナ・アマティ(ブラバム)が最後。しかし予選を突破することができず、決勝への出走は果たせなかった。F1の公式セッションで女性が走ったのは、2015年イギリスGPのフリー走行1回目のスージー・ウルフ(ウイリアムズ)が最後だ。

 アルピーヌはそんな中、女性ドライバーがF1に参戦するため、そしてモータースポーツ界で働く女性が増えるための活動”Race(H)erプログラム”の立ち上げを6月30日に発表した。

「このプログラムは、アルピーヌブランドへの変更と同時に生まれたものです」

 アルピーヌ・カーズの人材担当副社長であるクレア・メスナーはそう説明する。

「もし世界チャンピオンになりたいのなら、最高のマシンに最高のドライバーを乗せる必要があります」

「そして明らかに我々は、才能の”プール”全体を調査していません。我々は女性を十分に見ることができていないので、人類の半分を見落としているということです。これがこのプログラムの出発点でした、それがエンジニアリングとレースの両方に関係している理由です」

Abbi Pulling, Aseel Al Hamad

Abbi Pulling, Aseel Al Hamad

Photo by: Alpine

 女性ドライバーを発掘するという面での課題は、カートに挑む子どもたちの中で、少女の割合が圧倒的に少ないことだ。アルピーヌF1のチーム代表であるオットマー・サフナウアーは、その状況を変更する必要があり、多くの少女たちがカートに挑めるような環境を作らなければいけないと語る。

「若い頃、カートをやりたいのか、フィギュアスケートをやりたいのか、それともバレーボールをしたいのか……残念ながら、ゴーカートをやりたいという子の数は十分じゃない」

 そうサフナウアー代表は語る。

「したがって、我々が選択できるプールは非常に小さい。そのプールを大きくすることができれば、より良い才能を得ることができると思う」

「まだ手本となる存在はいない。だから、女性を他の選択肢と同一視することはできないんだ。そして彼女たちも、そんなことができるとは考えていない。計画の一部は、それが可能であるということを示すために、手本となるモノを示すことだ」

 このアルピーヌのプロジェクトの興味深い部分は、科学的な手法を用い、レースにおける男性と女性の違いを調べることにある。特にジュニアカテゴリーにはパワーステアリングが導入されていないため、体力面がそのパフォーマンスを大いに左右することが多い。このことが、女性ドライバーのステップアップを妨げているという側面もあるだろう。

「それが、このプログラムの大きな柱です」

 メスナー副社長はそう語る。

「男性ドライバーであっても、人によって違いがあります。身長も、体重も、そして身体的な機能も同じではないのです。対処すべき身体的特徴、認識力、感情的な問題があるのは確かです。そして男性と女性の間には、やはり大きな違いがあります」

「例えばデータや科学的な事実から、女性は痛みに耐える能力に長けていることが分かっています。しかし反応という面では、女性の方が遅いです。あらゆる側面に違いがあると思います」

「結局のところ、F1ドライバーになるというのは非常に複雑な仕事です。習得すべきことはたくさんあります。率直に言って、ある時点でそれを相殺できるかどうかは分かりません」

「我々は認識力という面で、パリの脳科学研究所と協力しています。そして感情面では、博士号を取得している人物が我々の組織に加わっています。彼はこの感情面に取り組んでいきます。そして身体的な面では、我々は理学療法の医師と協力しています」

「エステバン(オコン)とフェルナンド(アロンソ)も、我々のことを手助けしてくれますし、(Wシリーズに参戦中の)アビ(プリング)とアリス(パウエル)も、様々なテストに参加してくれると確信しています。我々の全ての先入観と固定観念を打ち砕くためには、事実に基づいている必要があります。たくさんの考え方がありますからね」

「ただ今日では、男性でさえドライバーに関するデータがたくさんあるかどうかは分かりません。マシンについては分かっています。しかし、パドックで最高のドライバーについて、科学的要素は身体的な側面で分かっているでしょうか?」

Fernando Alonso, Alpine A522, Esteban Ocon, Alpine A522

Fernando Alonso, Alpine A522, Esteban Ocon, Alpine A522

Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images

 才能についての裏付けが得られた後、アルピーヌはカートから順序立てて、それを積み上げていこうとしている。

「それがこのプログラムの2番目の柱です」

 そうメスナー副社長は言う。

「これは、男の子でも女の子でも同じです。8年間のプログラムで特定のトレーニングを行ない、全てを同じ路線に乗せたいと思っています」

「プログラムは、数週間をかけて女の子をスカウトするところから始まります。そして8年間のプログラムに、4〜5人の女の子を参加させようというものです」

「1回限りのモノではありません。8年待ち、誰がこの過程から育っていくのかを見てみようと思います」

Esteban Ocon, Alpine A522, makes a pitstop

Esteban Ocon, Alpine A522, makes a pitstop

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 女性F1ドライバーを発掘するのは、明らかに長期的なプロセスになるはずだ。しかしチーム内の女性スタッフの数を現在の10%から増やすのは、短期的な目標であると言える。

「アルピーヌF1の観点からすれば、いくつかのことを非常に迅速に達成できると思う」

 そうサフナウアー代表は語る。

「それは、我々が大学にリクルートのために行く時に行なうことだ。通常は一流の大学に行く。その一流大学の工学部の、女性の卒業生が、アルピーヌに興味を持ち、F1にも興味を持ってもらう必要がある。そのために、我々は良い仕事をしなければいけない」

「もっと多くの人と話をすることができれば、工学部卒業の人たちの選択肢が増えることになる。以前はモータースポーツの興味がある人だけしかやってこなかった。それを拡大し、モータースポーツやアルピーヌに素晴らしいキャリアがあるということを理解してくれる女性が増えるようにしたいと考えている」

「女性のインターンシップ生を増やすことが、自動的にF1で働きたい人を増やすことに繋がるというわけではない」

「しかし彼女たちがそれを理解し、気に入ってくれた場合には『モータースポーツでのキャリアを追求させて欲しい』と言ってきてくれる可能性が高くなる。それを拡大していけば、F1チーム内の女性比率は、それほど偏ったモノではなくなるだろう。今は男性が90%で、女性が10%だ。かなり偏っているんだ」

 課題のひとつは、イギリスで大学の工学部の女性卒業生の割合は23%のみであるということだ。これも引き上げなければならないだろう。

「我々がしなければいけないことは、他にもいくつかあると思う」

 サフナウアー代表はそう語る。

「高校時代から興味を持ってもらい、(工学部の卒業生のうち女性の割合が)23%から30%になるようにしなければいけない。そして30%に増えた女性たちに、モータースポーツでのキャリアに興味を持ってもらうことができれば、素晴らしい人材を選ぶことができるだろう」

「F1チームをもっと良くしたいということは覚えておかなければいけない。だからそれは、当然のことながら実力主義になるだろう。卒業生と会い、そのうち2人だけが女の子だったら、それは難しい状況だ。我々が行ないたいのは、女の子が2人だけという状況から、20人にそれを引き上げることなんだ」

 
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