ひとつの“チーム写真”から始まったハミルトンの多様性向上への取り組み「誰かを助けたことで皆の記憶に残っていたい」
ハミルトン委員会による報告書の公表に際し、立案者のルイス・ハミルトン(メルセデス)は委員会の設立はひとつのチーム写真から始まったと語った。
モータースポーツ界における黒人の地位向上を目指すルイス・ハミルトン(メルセデス)は、今回の調査結果と提言をあらゆるレベルで受け止めてほしいと考えている。そしてこの委員会設立は、ひとつのチーム写真から始まったと語った。
F1で働く人たちのなかで、黒人の割合がたった1%しかないという現実を、ハミルトンは6度目のタイトルを獲得した18ヵ月前に身を持って実感したという。
2019年シーズン終了後にチームの集合写真を目にしたハミルトンは、ピットで働くクルーの写真の中に黒人が少ないことに衝撃を受けた。
F1初の黒人ドライバーとして第一線を戦っている彼は、F1の頂点に立った自分の存在が、他の人たちにこのスポーツへの門戸を開いていないという事実が信じられなかったという。
「F1初の黒人ドライバーであり、モータースポーツの世界で育った僕は、周囲を見渡して『どうして僕は数少ない黒人ドライバーのひとりなのだろうか』と疑問に思うことがよくあった」とハミルトンは言う。
「そしてこれはドライバーに限った話ではない。メカニックからエンジニア、広報や経理まで、ここには素晴らしい仕事をする機会がたくさんあると言える」
「年々僕はここで成功を収めるにつれ、最前線にいて好成績を続けることで、才能のある黒人のみんなにもっと(モータースポーツ界の)門戸を開くことができるのではと思うようになった」
Mercedes AMG F1 team celebrate during team photograph
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
「でも、2019年の最終戦アブダビの後の事を、僕はよく覚えている。チーム写真を見つけたので、拡大して見てみると、このスポーツの多様化へ向けた進歩がいかに小さいかを痛感させられた」
そうハミルトンは語る。
「その時、僕がもっと動かなければと気付かされたし、ハミルトン委員会の構想も浮かんできた」
ハミルトン委員会の報告書は、モータースポーツ界、教育界、産業界から幅広い分野の専門家を招集し、10ヵ月かけて作成された。今後は、改革を起こすべく、すべてのモータースポーツチームやF1を含むすべてのレベルの関係者に公開される。
F1のCEOを務めるステファノ・ドメニカリは、F1が近いうちに更なるアクションを起こすと示唆しており、ハミルトン自身も彼の財団やメルセデスF1チームとの共同活動を通じてメッセージを伝えようとしている。
「今月の後半には、もっと沢山のことが明らかになる。これ(報告書)は始まりに過ぎない」とハミルトンは言う。
「僕はこれ以上ないほどにワクワクしていると言えるね」
「変化を起こすなら今しかない。5年後、10年後、15年後に振り返った時、イギリスのモータースポーツ業界が社会を代表するものに成長していれば、キャリアを終えた時、あるいはもっと先の未来でも誇りに思えるだろう」
ハミルトンに話を聞くと、ハミルトン委員会の活動を通じてこの業界がどこで間違った選択をしたかを理解する上で、直接関わっている企業と同様に、彼にとっても目を見張るような経験となったことが分かるだろう。
「特にメルセデスに加入してからは、『どうしてチームは多様性に欠けているんだ?』とチームに対していつも尋ねていたのを覚えている」
Toto Wolff, Team principal Mercedes and Lewis Hamilton, Mercedes
Photo by: Daimler AG
「そして実のある回答が無かったことも覚えている。違和感があったよ。無論、答えは『エンジニアになろうとする人が少ないから』というものだった。でも、僕らがこのプロジェクトを進めた理由は、(モータースポーツ界へ入る)障壁が何かを探ろうとしているからだ」
「だから、ここから全て始まるんだ。学習して、その理解を得られれば、この問題を解決することができる」
「昨シーズン、F1や僕らを始め多くの人たちが『人種差別を終わらせる』などと声を上げていたのを目にしたと思う。例えば、ジャン・トッド(FIA会長)やチェイス(キャリー/当時F1 CEO)が、多様性と包括性のために100万ドル(約1億1052万円)を投じるというのを耳にしただろう」
「でも問題が何なのかを知らなければ、それを改善することはできない。だから、この進展は素晴らしいものだったし、私たちにとっても学びの多いものだった」
とは言え、人種差別問題は一朝一夕で解決できるものではない。黒人学生にSTEM(科学・技術・工学・数学)教科の奨励を行ない、彼らが最高の成績を残すことは、教育システムを含む長期的なプロジェクトとなる。
同じように、特に人種差別撤廃に関しては、今すぐにモータースポーツ界の意識を変えることはできない。委員会が公表した調査結果には、決して良好とは言えない問題点も含まれていた。
イギリスの王立工学アカデミーの理事長であるリース・モーガンはこう述べている。
「エンジニアや、エンジニアリングを学ぶ学生たちから私が聞いた話は、モータースポーツ・エンジニアリングにおける“生の”経験を如実に物語っていた」
「いじめや明らかな人種差別も見受けられた。人種差別的な言葉を投げかけられても、彼らは何となく我慢していて、冗談のように受け流していた。しかし、それらはかなりひどい人種差別的な言葉だった」
サッカーの「ユーロ2020」の決勝戦で敗れたイングランドの黒人選手に浴びせられた人種差別的な誹謗中傷は、問題に対して変革の必要がまだあることを浮き彫りにしたとハミルトンは語っている。
「昨日、ネット上でサッカー選手へ向けられた人種差別的な発言が見られたが、見るに堪えないものだった。これは国家としても、僕らはまだまだ長い道のりを歩んでいることを示している」
「僕の個人的な意見では、(人種差別は)教育に起因するものだと考えている。自分がどこから来たのかということを学ばない教育システムの中で育てられている」
Lewis Hamilton, Mercedes
Photo by: Steve Etherington / Motorsport Images
「だから、これは教育上の問題で、カリキュラム内での変化が必要だ。今日、みんなが声を上げて、より積極的に発言していることを僕はとても誇りに思っている。また、ソーシャルメディア・プラットフォームからの支援も必要だ。確実に、彼らはもっと行動する必要がある」
「年明け早々に(ソーシャルメディアの)ブラックアウト(編注:SNS上で行なわれた黒人差別に対する抗議活動のひとつ)を行なったが、それだけでは十分ではないのは分かるだろう。ネット上で起きている人種差別的な発言を止めなくてはならない。今回の委員会は、僕らが改善すべき点のひとつを明らかにしてくれた。そしてこれが波状効果となって、より多くの変化が起こることを願っている」
ハミルトンは委員会の活動に対しとても意欲的であり、彼に多くを与えたモータースポーツ業界に変化をもたらす良い機会だと考えている。
すべての記録を塗り替えてからF1でのキャリアを終えようとしている彼にとっては、数十年後に最も重要となるものとして、トロフィーを眺めることに加えて”多様性を向上させるための活動”を挙げた。
「何年もの間、自分の功績をどうしたいかと内省してきた」と彼は言う。
「ただ、あまり気にしていていなかったことを覚えている」
「若い頃は、F1ドライバーになりたい、最高のF1ドライバーになりたい、そう評価されたいという思いがあった。僕はこれまでに成功を収めてきたけど、その成功がもたらす喜びはいつも短いものだった」
「この世界は不思議な仕組みで動いていて、2019年の終わりにこの委員会のアイデアを思いついた」
「取り組みを始めた頃に、ジョージ(フロイド/白人警官による殺人事件の被害者)に起きた一連の出来事と、BLM運動が起きた。偶然にも、僕らが既に始めていたことと重なったんだ。だから、自分の目的を見つけたと実感したよ」
「今は、僕の人生において、単にチャンピオンになったということだけでなく、それ以上のことでみんなの記憶に残りたいと思っている」
「もちろん、それ(チャンピオン獲得)だけでも素晴らしいことだけど、実際に人助けをして、業界や考えを変える手助けをしたことで記憶に残りたいと思っているんだ」
「僕らは皆同じだ。僕はそう信じているし、僕らを取り巻く世界と同様に、それ(F1)も多様であるべきだ」
「だからもし僕が何らかの方法で変化を起こせるのならば、羅針盤の少しの変化だけで、長い目で見ると大陸さえも覆う絶大な変化になるかもしれない。僕は、それを目指しているわけだ」
Lewis Hamilton, Mercedes-AMG F1, Sebastian Vettel, Ferrari, George Russell, Williams Racing, and the other drivers stand and kneel in support of the End Racism campaign prior to the start
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
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