人間の反応速度を超えた? 接戦が生んだF1ピットストップ競争
FIAは、第11戦ハンガリーGPからピットストップに規制を設けることを明らかにし波紋を呼んでいるが、チームはピットストップでどんな試みをしているのだろうか。
写真:: Red Bull Content Pool
FIAはF1のピットストップに対して安全上の懸念を理由に、新たな技術指令を発行。F1第11戦ハンガリーGP(8月1日決勝)から人間の反応時間を考慮した制限を設けることを明らかにした。
技術規則第12.8.4条には、ピットストップにおいて『いかなるセンサーシステムも、受動的にのみ作動することができる』 と明確に規定されている。今回出された技術指令は、この部分の遵守をチームに求めているようだ。
ここから推測されるのは、いくつかのチームがこの点でグレーゾーンに足を踏み入れているのではないかということだ。
各チームはすでに、ホイールガンとピットウォールを電子システムでつないでいる。さらにピットでは信号機のようなものを使っているチームも見受けられる。ホイールガンが規定のトルクでナットを締め込んだ際に信号を発し、4輪全ての交換が適切に行なわれたことをピットウォールで確認した上で、信号機を通じてドライバーに発進の指示を出すのだ。
ここで焦点となるのは、これらのシステムが情報を記録するだけの受動的なものなのか、それともその情報を使ってピットストップを次の段階へ進める能動的なものなのかということだ。
人間の典型的な反応速度は0.2~0.25秒だとされている。しかしセンサーがピットストップを助けるような能動的なシステムだった場合、ピットストップの各要素における反応が短縮される。そして、受動的なシステムでは実現できない速度で作業を終わらせることができるのだ。
そのためFIAは、ホイールがマシンに装着されてからジャッキが降りるまで0.15秒、ジャッキが降りてからマシンが発進するまでに0.2秒の最小反応時間を設定した。
これにより、ピットストップの作業時間がわずかに遅くなるのは間違いないだろう。というのも一部のチームは、明らかに新しく設けられた最小反応時間を下回っていたと見られるからだ。
新しい手順によって、最も大きなタイムロスを被るのは間違いなくレッドブルだろう。レッドブルは今季これまでに3回のピットストップで2秒未満の作業時間を叩き出している。レッドブル以外で最も速いピットストップを行なったのはアストンマーチンで、ポルトガルGPでの2.08秒。つまりレッドブル以外は静止時間2秒未満のピットストップを行なうことができていないのだ。
今季は全体的に接戦となっており、ピットストップが戦略的に大きな意味を持っている。そのため、ピットストップの様々な段階での作業がより重要になってきている。
ピットレーン入り口での速度、速度制限エリアへのブレーキング、ピットボックスへの進入・停止、ピット作業、作業完了後の発進、ピットリミッター解除とそこからの加速。これらの手順を適切に行なわなければ、ライバルに差をつけられてしまう。
第8戦シュタイアーマルクGPのFP2でバルテリ・ボッタス(メルセデス)がピットレーンでスピンを喫したが、これもピット作業を早くしたいという思いからのミスだったと言える。
メルセデスは、第7戦フランスGPでルイス・ハミルトンがマックス・フェルスタッペン(レッドブル)に想定外のアンダーカットをされてしまった。チームはその要因として、ピットボックスから出ていく際のホイールスピンが多く、タイムロスをしていたと考えているのだ。
ホイールスピンを減らすため、ボッタスはシュタイアーマルクGPのFP2で2速発進を試みた。結果的にこの試みは失敗しスピン……3グリッド降格ペナルティを受けることになったが、チームは求めていた答えの一部を得ることができたと言えるだろう。
また、ピットボックスに角度をつけて競争力を高めようとするチームも見られるようになった。これにより、ピットボックスへの進入をよりスムーズにこなそうと考えている。
特に複数のチームが同時にピット作業を行なう場合、その小さな差がポジションを決定づける要因となりうるのだ。
各チームの差が少なく、コース上で大接戦が繰り広げられている今季のF1。今回の技術指令で各チームが多少の手順変更を強いられたとしても、ピット作業の速さを追求する手は止まらないだろう。コース上で差を縮めるより、ピット作業において差を縮めた方がはるかに簡単に差がつく要素となっているからだ。
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