不安は慎重さの裏返し……F1王者ハミルトンとのバトルでノリスが得たモノ「経験の積み重ねが僕の自信に繋がる」
ランド・ノリス(マクラーレン)は、オーストリアGPでのルイス・ハミルトン(メルセデス)とのバトルなどを通じて自信がついたと語り、コース外での活動でもハミルトンを参考にしているという。
写真:: Mark Sutton / Motorsport Images
今シーズン、ランド・ノリス(マクラーレン)は2019年のF1デビュー以来最高のシーズンを送っている。しかし、彼はレースを重ね確かな自信をつけているものの、成績に比例して鼻を高くするドライバーではない。
ノリスはレッドブル・ホンダやメルセデスなど上位勢を脅かす走りを見せ、F1第11戦ハンガリーGP以外全てのレースでポイントを獲得しドライバーズランキングでは現在3番手。第2戦エミリア・ロマーニャGP、第5戦モナコGP、そして第9戦オーストリアGPで3位表彰台を獲得している。
彼の走りが光った一番の例は、無論オーストリアGPで同郷のルイス・ハミルトン(メルセデス)と繰り広げた2番手争いだろう。明らかにマシン性能が高いハミルトンに対し、ノリスは寸分の狂いもないディフェンスを見せ7度のF1世界王者を長きに渡って抑え込んだ。
ハミルトンを抑え込み過ぎると、返って自分のレースを失うと判断したノリスは彼を先行させたが、その20周に渡る攻防がノリスにもたらしたモノは大きかった。
2番手に浮上したハミルトンがチーム無線でノリスに賛辞を送っただけでなく、ノリスはホイール・トゥ・ホイールのバトルでも最高のパフォーマンスを発揮できると世界に証明してみせたのだ。
「価値のあるモノだと思うし、将来また同じような状況になった時に必ず僕の役に立つと思う」
そうノリスはハミルトンとのバトルを振り返った。
「将来もし自分がまたその立場にいて、競い合っていても、彼を様々なシナリオで打ち負かせると分かっていると心強いよ」
「だからといって、突然『僕はレースで勝てるぞ』とか『偉業を成し遂げられるぞ』と信じるようになったワケではない。そのようには変わらない。ただ、僕がまたあの立場になった時、ルイスのような相手に何ができるかを理解しているんだ」
Lando Norris, McLaren MCL35M, Lewis Hamilton, Mercedes W12
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
単なるポジション争いではなく、2位表彰台を懸けたバトルという点も、ハミルトンとのオーストリアでの攻防を特徴づけている。だからこそ、“諦めないこと”に意味があったのだ。
そして、彼はハミルトンとのバトルなどを通じ確実に自信をつけているものの、慎重な姿勢を崩さない。その姿は警戒を怠らないハミルトンのレーススタイルにも似たモノがある。
「バトルはメルセデスとのモノだった。そして、プレッシャーが更に高まるルイスが相手だ」とノリスは続ける。
「でも、レースを始めたその日から僕は誰かと戦ってきた。誰かが後ろに来た時でも、それが誰であろうと、自分より速かろうと関係ない」
「常にプレッシャーは感じていたし、ミスをしないようになどと気をつけていた」
「でも、もちろんオーストリアでは3番手や2番手を争っていたことがプレッシャーになっていた」
「相手がルイスだからといって、何もかも違うワケではないし、『困ったな、何をしなきゃいけないかな?』というだけだった。でも、とても小さな違いはあった。彼は世界で、そしてF1で最も優れたドライバーのひとりだからね」
「彼はあらゆるチャンスを絶対に逃さず、どうやって僕を抜くかを考えていたはずだ。だから僕が少しでもミスをすれば、同じ状況で他のドライバーを相手にする時よりも簡単に抜かれてしまう」
「だから更に完璧かつ集中している必要がある。でも、20周ほどバトルを続けていた時に、自分のレースを台無しにしているから彼を先へ行かせなければと気が付いたんだ」
「将来、僕がルイスやマックスなどを相手に順位争いをしていた時に、良いパフォーマンスを発揮できるという自信が持てたんだ。安心感とも言うべきかな」
「プレッシャーに晒された時に、ひとつもミスを犯さないとは言わないよ。きっと僕は(ミスを)するだろうからね。でも、僕はとても良いパフォーマンスを発揮できるし、簡単にミスをしたり、すぐに諦めたりはしない」
Lando Norris, McLaren, 3rd position, and Lewis Hamilton, Mercedes, 2nd position, congratulate each other after the race
Photo by: Steve Etherington / Motorsport Images
前半戦が終了した2021年のF1。ノリスがここまで得たモノは、“トップレベルのドライバーと戦える“という安心感だけではない。自信を伸ばすパフォーマンスが更に良いパフォーマンスを生み出し続ける好循環に身を置くことができたのだ。
ノリスは先述にもある通り、今季既に3度の表彰台を獲得。彼の自信は、昨シーズンから続いた15戦連続入賞にも大きく現れている。しかし、その記録はバルテリ・ボッタス(メルセデス)に起因するハンガリーGP1周目の多重クラッシュにノリスも巻き込まれたことで途絶えてしまった。
「今シーズンの様々な場面で、僕の自信のレベルは確実に上がっている。僕にとってはとても良いことだと思う」と彼は説明した。
「特に開幕から数レースを終えた時点で、ある意味良いステップを踏めたと気が付いた。というのも、イモラの予選やレースなどでも僕は良くやれたし、ペースもあった。それが大きな自信に繋がった」
「加えて、シーズン途中で起きたあの小さな出来事がそれに拍車をかけたんだ。オーストリア(でのバトル)は僕の自信をさらに高めてくれて『よし、僕はあれもこれもできるぞ』と思わせてくれた」
「自分に自信を持てるようになった。いつも僕は不安を感じていたし、経験したことのない状況に陥った時にそう思うことが怖かったからね」
「新たな経験を積むと、自分はそれができるのだと“確認“できる感じかな。それを積み重ねることで、自信に繋がるんだ」
「もちろん、経験を通して学び続けることはできるけど、こうした自信を養っていく段階に来ているんだ」
「F1とか他のカテゴリーに昇格するために、大きなハシゴを登る必要はない。もうここ(F1)にいるんだからね」
「今シーズンはこうしたことが重なっている。まだ僕は自分に自信が100%持てたワケではないけど、昨シーズンやF1での最初のレースと比べても、僕は全く違うレベルにいるし、心持ちも格段に良い」
Fans show their support from the grandstands
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
ノリスが得ている自信はコース上に対するモノだけではない。今シーズンはコース外における自信も養えているという。
彼が初めて表彰台に立ったのは、新型コロナウイルスの世界的な流行により開幕が遅れた2020年の開幕戦オーストリアGPだった。以降もあるはずの観客の姿は久しくなく、彼の人気を計り知ることは叶わなかった。
しかし、収容人数規制が解かれた今シーズンの第10戦イギリスGPは大きく異なった。母国イギリス人ドライバーを応援すべくシルバーストン・サーキットに詰めかけたファンはもはやハミルトン一色ではなかった。観客席はマクラーレンのノリスのグッズを身にまとったオレンジ色で彩られたのだ。
ノリス関連のグッズは完売となり、彼が立ち上げたe-スポーツ・ストリーミングチーム『Quadrant(クオドラント)』のメンバーが詰めかけたグランドスタンドも見受けられた。
ノリスは、影響力をムーブメントにつなげるコース外でのハミルトンの活動を、コース上で走りを学んだのと同じように参考にしたいと考えているようだ。
イギリスGPで大声援を間近で受けてどう感じたかと聞かれたノリスはこう答えた。
「まだ理解できていないよ」
「5、6年前にこうなりたいと思っていたことに加えて、グランドスタンドにいるファンが僕のキャップやTシャツを身に着けてクオドラントの旗を振っているのを目にして、今でも驚いているし、信じられないことだね」
「自分が実際にそうなれるとは思いもしなかった。でも実現した。だからある意味ちょっと信じられないし、まだ理解できていない」
「ルイスがとても上手にやっていることでもある。彼は長い間続けているからね。彼はファンを動かせる。悪い意味で利用しているワケじゃなくて、ファンを通じて変化を起こし影響を与えているんだ」
「クオドラントでの活動や僕が行なってきたメンタルヘルスに関する活動、配信でのチャリティ活動に通じるモノがある。僕も自分のファンを動かし、彼らを率いて物事に影響を与えることができたんだ。より良い理由で役立てたいと思うよ」
「そのためには、どのように最大化すべきか、僕がいるポジションを最大限活かす方法を知る必要がある。ドライバーとして自分のためにベストを尽くすだけでなく、F1以外でもどのようにベストを尽くし、支援してくれる人やファンを動かすかも理解しなきゃいけない」
「でも、とてもクールな感覚だよ。実際にやってみて、成果を見るまでは信じられない気持ちなんだ。とても凄いことだ」
「(F1以外での活動を)このまま成長させて、そこから何かを学べたらいいな。ルイスのように大きな影響を与えるために活用していきたいと思うよ」
2021年シーズン前半をランキング首位で終えたハミルトンは、コース内外において後輩ノリスに道を示している。かつてハミルトンがマクラーレンでF1初優勝を遂げたように、21歳の若者が同じくマクラーレンと共に112人目のグランプリウィナーになる日も近いかもしれない。
Lando Norris, McLaren MCL35M
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
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