分析
F1
【F1分析】メルセデスW11はどのようにして作られたか? “史上最速F1マシン”となる可能性も
2022年の新規則導入に先駆け、2021年はダウンフォース量を削減するレギュレーションを制定したF1。これはつまり、2020年のメルセデスW11が“史上最速のF1マシン”となる可能性が高いことを意味している。

Matt Somerfield
編集: 2021/03/02 9:52
Copy link
Viberでシェア
Google検索でmotorsport.comをお気に入り登録

2021年マシン『W12』を3月2日に発表するメルセデス。彼らは昨年、『W11』で7年連続となるダブルタイトルを獲得した。
元々、2021年には技術規則の大幅変更が予定されていたため、W11は現行世代の最後のマシンとされていた(後に規則変更は2022年に延期)。W11は独自のコンセプトに磨きをかけつつも、革新的な解決策を用いたことでファンや関係者からの注目を集めた。
ここで、2019年マシン『W10』(写真左)と2020年マシン『W11』(写真右)を比べてみよう。
Mercedes-AMG F1 W10
Photo by: Mercedes AMG
Mercedes AMG F1
Photo by: Mercedes AMG
W10と比べて、W11のサイドポッドは開幕前から注目を集めていた。メルセデスはフェラーリが2017年に初めて採用したコンセプトをついに踏襲し、マシンの空力性能を向上させるためにサイドポッド内にある衝撃吸収構造体の位置を低めにしたのだ。
側面からの衝撃を吸収するこの構造体は2014年から導入されていたが、2017年から各チームがそれをどこに配置するのか自由に決められるようになった。フェラーリはそれを活かして衝撃吸収構造体の位置を変更。マシンとマシン付近を通過する気流を改善し、ラジエターのサイズを小さくすることにも成功した。
メルセデスもこれに倣い、サイドポッドの開口部の位置を高くしたことで、ラジエターへと向かう空気の流れがフロントサスペンションなどによってできる限り阻害されないようにした。
W11の革新的デバイス“DAS”
プレシーズンテストは、新しいマシンを細部まで見ることができ、各チームの開発の方向性を知ることができる絶好の機会だ。現在ではテストの様子が視聴者に向けて配信されていたり、車載カメラの映像も見られたりする。2020年のプレシーズンテストでは、その車載カメラによってメルセデスが取り組んできた革新的システムが一瞬にして明らかとなった。
Read Also:
車載映像には、メルセデスのドライバーがストレート上でステアリングホイールを前後に押したり引いたりしている様子が映っていた。彼らはステアリングホイールの押し引きによってトー角を調整する2軸のステアリングシステム“DAS”を開発していたのだ。
メルセデスは以前からトー角をコントロールするシステムの導入を検討していたが、FIAにこのシステムが合法であると認めさせるために、いくつかのハードルをクリアしなければならなかった。例えば、それ以前にメルセデスがFIAに提示したのは、ステアリングホイールのボタンを押して作動するものだった。しかしながらFIAは、ステアリング機能はステアリングホイールを動かすことによって入力されるものでなければならないとして、これを退けた。
そこでチームは、ステアリング・アッセンブリーを一新。重量が増加することにより、DASがラップタイム向上に及ぼす影響が相殺されてしまうことに注意しつつ、ステアリングホイールの押し引きでトー角を調整するシステムを完成させた。
DASはフロントタイヤのトー角を動かせることから、フロントタイヤの熱入れにも役立った。昨季はコロナ禍の影響で変則的なカレンダーとなったこともあってか、荒れたレースも多く、セーフティカーが出動する場面も例年以上に見られた。その際DASは素早くタイヤを温めてリスタートをうまく決めるという点で一役買っていたと言えるだろう。
その他にも、W11には興味深い機能が多数搭載されていた。
空力面でも様々な工夫
W11で特に誇れるデザインのひとつが、リヤサスペンションのロワウイッシュボーン後方アームの形状を変更し、衝撃吸収構造体のはるか後ろに取り付けたという点だ。
その主な理由は空力パフォーマンスを改善させるためであり、ディフューザー付近を流れる空気がより理想的な形で流れるよう取り付け位置が移されている。反り上がったディフューザーの上端に向かう空気をできるだけ邪魔しないような位置となっているのだ。同じような理由から、チームは2019年にプルロッドのマウント位置を引き上げている。
F1は2019年からフロントウイングに複雑なカスケードウイングなどを装着することを禁止。形状を単純化することで、気流をマシンの外側に逃がす“アウトウォッシュ”を制限することを目指した。これを受けてメルセデスは、2020年マシンのフロントブレーキのアッセンブリーにもかなりの注意を払い、空力的なニーズにさらに応える方法を検討していた。
彼らはブレーキローターのデザインを改良し、開口部の形状を変更した。これにより、より多くの空気がホイール表面から外に出ていくことを目指したのだ。さらに吸気口を大きくしたり、クロスオーバーパイプの形状を工夫するなどして、タイヤが生み出す乱流の軌道を変化させようとした。
これらの変更の成果として、バージボードやフロアの効果にも好影響を与えることができただろう。
開幕延期にも助けられ、様々な逆境をクリア
Lewis Hamilton, Mercedes F1 W11
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
2020年シーズンのF1はコロナ禍の影響で開幕が延期に。当初開幕戦として予定されたオーストラリアGPは開催直前でキャンセルとなり、各チームにはそこから数ヵ月、開発の猶予ができた。プレシーズンテストでパワーユニットに問題があることが発覚していたメルセデスは、この猶予期間に対策を行ない、窮地を脱することができた。
7月にオーストリアのレッドブルリンクで行なわれる開幕戦に向け、メルセデスはパワーユニットを修正した。彼らは信頼性の向上を確信していたが、課題はまだ残っていた。
レッドブルリンクは海抜約700mの高地にあり、空気が薄いために空力効率や冷却効率が落ちる。これはブレーキやパワーユニットに影響を与える。そしてアグレッシブな縁石が多く存在することで、フロントウイングにダメージを与える可能性があった。
しかしメルセデスをそれ以上に悩ませたのは、縁石に乗ることによって発生するバイブレーションで、ギヤボックスとそれに取り付けられたセンサーに異常が起きたことだ。
メルセデスのドライバーふたりは開幕戦のレース中、無線で縁石を避けるよう指示されていた。その結果ラップタイムを大幅にロスしてしまい、終盤にライバルからの追い上げを受けることとなった。最終的にバルテリ・ボッタスとルイス・ハミルトンはワンツー体制を崩さずフィニッシュしたが、ハミルトンはアレクサンダー・アルボンとの接触による5秒ペナルティを受けた結果、4位に降格した。
その1週間後には同じくレッドブルリンクで第2戦シュタイアーマルクGPが控えていたことから、メルセデスはギヤボックス周辺のケーブルの配線を一部変更して対処した。
それでもドライバーには縁石に近付かないよう指示が出ていたが、ハミルトンとボッタスは無事ワンツーフィニッシュを決め、3番手以下に20秒の差をつけた。
現行マシンの開発を早々に切り上げ。2022年マシンの開発に向けても準備万端?
Lewis Hamilton, Mercedes-AMG F1, 3rd position, and Valtteri Bottas, Mercedes-AMG F1, 2nd position, congratulate each other on the grid after performing donuts
Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images
開幕から数レースは開発を進めていたメルセデスだったが、相対的に言えばシーズンを通しての進歩は少なかっただろう。一方のレッドブルはRB16にできることは何でもしていたような印象で、メルセデスとの差を縮めていたように見えたが、それはメルセデスが早々にW12に開発にシフトしていたからかもしれない。
メルセデスは2020年シーズン中にW12の開発を前倒しして進めたことにより、来たる2022年の新世代マシン開発に向けても余裕を持つことができた。特に今季からはいわゆる“空力ハンディキャップ”が導入され、王者メルセデスは風洞やCFD(コンピューター流体解析)による空力実験が制限されることになるため、なおさら余裕を持つ必要があったのだろう。
昨年のコンストラクターズランキング5位であるアルピーヌを基準、すなわち100%とした場合、チャンピオンのメルセデスは90%の空力開発しかできない計算となる。一方最下位に終わったウイリアムズは112.5%の開発が許されており、チーム間格差の是正が目指されている。仮にメルセデスが今季もタイトルを獲得した場合、さらに開発に制限がかけられることとなり、彼らの進歩のスピードが鈍っていくのも時間の問題かもしれない。
ダウンフォース削減を目指したフロアの規則変更などにより、W12はW11よりも純粋なパフォーマンスで劣ることになると思われる。2022年には大幅変更された技術規則の下で新世代のF1マシンが作られるため、W11はこれまでタイトルを獲得したF1のマシンの中で最速となる可能性がある。ただF1マシンというのは、度重なる規制をものともせず、どんどんそのパフォーマンスを向上させるものであることは歴史が証明している。2021年シーズンは、W12がW11を塗り替える“史上最速マシン”となるのかという点も注目すべきと言える。
Read Also:
- メルセデスF1の新車W12の”重箱の隅をつつく”ような開発……この怠らない姿勢が最強の証
- 【F1メカ解説】メルセデス強さの秘密。パワーユニットだけじゃない……秀逸・俊敏な空力開発
- F1新車”雑感”解説:アルファタウリAT02”その2”。発表時とはノーズもフロントサスもまるで違う!
あなたの意見が聞きたい!
Motorsport.comで何を見たいですか?
5分間のアンケートにご協力ください。
- Motorsport.comチーム
コメントを読んで投稿する
関連ニュース :
記事をシェアもしくは保存
Copy link
Viberでシェア
前の記事 F1が近い将来アフリカに帰ってくる? 新規開拓のため、既存開催地の持ち回り開催も視野
次の記事 メルセデスの”F1支配”は続くのか。新車『W12』を発表、ブラックアローで8連覇を狙う
Top Comments
コメントはまだありません。 最初のコメントを投稿しませんか?
View More & Comment

More from
Matt Somerfield

F1メカ解説|8種類のリヤウイングと14種類のビームウイングを投入したマクラーレン……2025年ダブルタイトルを目指し「デザイン上のリスク」を冒す
F1
F1 2024/12/24
F1メカ解説|8種類のリヤウイングと14種類のビームウイングを投入したマクラーレン……2025年ダブルタイトルを目指し「デザイン上のリスク」を冒す

F1メカ解説|2026年からの新レギュレーションF1マシン、デザインの自由度が増した? FIAが発表した新たなレンダリングを検証
F1
F1 2024/12/17
F1メカ解説|2026年からの新レギュレーションF1マシン、デザインの自由度が増した? FIAが発表した新たなレンダリングを検証

F1メカ解説|RBがシーズン最終戦に投入した”2025年に向けたテスト”用フロントウイング。その狙いは?
F1
F1 2024/12/15
F1メカ解説|RBがシーズン最終戦に投入した”2025年に向けたテスト”用フロントウイング。その狙いは?
最新ニュース

スーパーフォーミュラ、FCYシステム導入に向けて動き。開発テストで通信面等を検証
スーパーフォーミュラ
SF スーパーフォーミュラ 47 分前
スーパーフォーミュラ、FCYシステム導入に向けて動き。開発テストで通信面等を検証

45歳、枯れない情熱。アロンソ、契約延長を決断した背景「まだチャンピオンになれると信じていなかったら、契約していない」
F1
F1 F1 1 時間前
45歳、枯れない情熱。アロンソ、契約延長を決断した背景「まだチャンピオンになれると信じていなかったら、契約していない」

中上貴晶、左鎖骨を骨折し日本GP欠場。FP1でハイサイドクラッシュ喫する
MotoGP
MGP MotoGP
日本GP
1 時間前
中上貴晶、左鎖骨を骨折し日本GP欠場。FP1でハイサイドクラッシュ喫する

MotoGP日本GP FP1|マルク・マルケスが最速! 中上貴晶、痛恨のクラッシュで負傷
MotoGP
MGP MotoGP
日本GP
2 時間前
MotoGP日本GP FP1|マルク・マルケスが最速! 中上貴晶、痛恨のクラッシュで負傷
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
次の 2 つのオプションがあります。
- サブスクライバーになります。
- 広告ブロッカーを無効にします。
購読中 すでに購読していますか? ここからサインインします
広告ブロッカーを無効にしましたか?
ページをリロード
お知らせの管理
登録