分析

【F1メカ解説】”不安定”だったメルセデスW12に改善の兆し……チームは何をやったのか?

シーズン開幕前テストで遅れを取ったメルセデス。しかし時が経つに連れ、その戦闘力を取り戻しつつある。彼らは一体何をやってきたのか? またメルセデス以外のチームも、アップデートを行ない、戦闘力を向上させている。

Mercedes F1 W12 diffuser detail

Mercedes F1 W12 diffuser detail

Giorgio Piola

ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

Analysis provided by Giorgio Piola

 2021年シーズンのF1は、コロナ禍の影響で各チームが財政的に打撃を受けたこともあり、基本的には前年のマシンをそのまま使うことになった。しかし空力パーツの開発は比較的自由であり、ダウンフォースの増加は可能……そうなれば、ただでさえ高かったタイヤにかかる負荷が、さらに増すことになるのは明白だった。

 その状況を打破するため、レギュレーションの一部が改訂され、フロア面積の縮小、ディフューザーのサイズ変更、さらにブレーキダクトの制限などといった措置が取られた。これにより、ダウンフォース量を昨年比で10%減らすことが目指された。

 ただそうは言っても、チームによって影響の大小は違う。特にレーキ角(マシンの前傾角度)の大きさによる影響の違いが生じ、レーキ角がそもそも小さかったチームは、より大きな影響を受けることになったのだ。具体的に言えば、メルセデスとアストンマーチンが、最も影響を受けたチームであるようだ。

 アストンマーチンは、今もこれに対処するのに苦労しており、入賞できるかどうかがギリギリというポジションになってしまった。しかし一方でメルセデスは、プレシーズンテストの際には大いに苦労したものの、徐々に進歩を遂げている。

 メルセデスのドライバーであるルイス・ハミルトンは今季のマシンW12について「ナイフエッジ」と呼び、非常に不安定であると語る。しかしその悪癖は取り除かれつつあり、トップランナーであるレッドブルのパフォーマンスに、徐々に近づいているように見える。

 チームが集中しているのは、マシンのリヤ部分。先日イモラ・サーキットで行なわれたエミリア・ロマーニャGPの金曜フリー走行では、2種類のリヤウイングを試していた。

 持ち込まれた2種類のリヤウイングは、ダウンフォースレベルが僅かに異なるもの。とはいえ特に注目すべき部分は、そのステーのデザインだ。

Lewis Hamilton, Mercedes W12
Valtteri Bottas, Mercedes W12

 メルセデスはステーが2本になったものと、1本のものと、その両方を使い、効果を比較した。これは、昨シーズンにも行なわれていたテストだ。そしてDRSへの影響も検証されている。

 またマシンの安定性を確保するために、ディフューザーのストレーキ(整流板)にも変更が加えられた。

 今季のレギュレーションでは、ディフューザー内のストレーキの上下長が、50mm短くされた。その分整流効果が削減され、ダウンフォースが減るということに繋がる。

Mercedes W12 diffuser comparison

Mercedes W12 diffuser comparison

Photo by: Giorgio Piola

 バーレーンでは、ストレーキの後端下部が一部切り取られるようなデザインになっていたが、イモラに持ち込まれたモノは後端の切り欠きが排除されていた。

 またディフューザー中央部の形状にも変更が加えられたようだ。これにより、ディフューザー中心部のパフォーマンスを安定させることを目指しているのだろう。

Mercedes AMG F1 W12 diffuser comparison

Mercedes AMG F1 W12 diffuser comparison

Photo by: Giorgio Piola

■レッドブルのノーズ微調整

 レッドブルは昨年、実走行データとシミュレーションツールによるデータの相関関係が合わないことに苦しみ、開発にも影響が及んだ。

 その影響を色濃く受けたのが、ノーズのデザインだと言えよう。レッドブルは、すでに広く使われていたケープのデザインを採用したが、そのデザインを巡っては紆余曲折があったようだ。

 この部分はシーズンを通して変更が行われた。特にフロントウイングのステーは、幅が広く取られたり、狭められたりと、試行錯誤が繰り返されたわけだ。しかし他の部分は比較的変更されず、シーズン後半を迎えることになった。

Red Bull Racing RB16B front wing

Red Bull Racing RB16B front wing

Photo by: Giorgio Piola

 レッドブルは今季開発トークンを使い、リヤに手を加えてきた。しかし、ノーズが変更されていないわけではない。ボディワークに繋がるように、ケープには大きな変更が加えられたのだ。

 ケープの先端は上方に持ち上げられ、前から来る気流をケープの下に送り込むような処理が施された。ケープの前端が上がっているのは昨年と同じだが、その曲線は緩やかになり、さらに途中にはスリットも開けられた。これにより気流をより正確に、マシンのリヤエンドへ向けて流すことを狙っているのだろう。

Red Bull Racing RB16B front nose comparison

Red Bull Racing RB16B front nose comparison

Photo by: Giorgio Piola

 

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