登録

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

Motorsport prime

Discover premium content
登録

エディション

日本
分析

メルセデスのマシンがF1最強であるために……W05〜W07開発ヒストリー

現在F1最強の名を欲しいままにしているメルセデス。しかし2013年までは、年に1勝できるかどうかのチームだった。2014年、現行のパワーユニットレギュレーションが施行されると、彼らは一気に登り詰めた。そして、それには十分な理由が存在する。

Mercedes F1 W07 chassis detail

Mercedes F1 W07 chassis detail

Giorgio Piola

ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

Analysis provided by Giorgio Piola

 メルセデスは、現行のV6ターボエンジン+熱&運動エネルギー回生システムのいわゆるパワーユニットレギュレーションが導入された2014年、圧倒的な強さを発揮してシーズンを席巻した。しかし彼らはそれに胡坐をかくことなく開発を進め、それ以後現在に至るまで、その強さを維持し続けている。

 その結果、2014年の圧勝劇もさることながら、実際にはそれ以後の方がより力強い戦いぶりを披露。メルセデスのパワーユニット開発を手がけるハイパフォーマンス・パワートレイン(HPP)は、燃料および潤滑油サプライヤーであるペトロナスと協力し、パワーアップを惜しまなかったのがその要因のひとつと言えるだろう。

Mercedes AMG F1 W06 exhaust

Mercedes AMG F1 W06 exhaust

Photo by: Giorgio Piola

 そんな中でも2015年にチームが活用しようとした部分のひとつは、可変吸気トランペットだ。しかしこれは最初のターボのレギュレーションでは使用が許されていなかった。

 メルセデスは他に差をつけるべく、吸気マニホールド(画像青矢印の部分)を再パッケージ化。さらに2014年には太くまとめられていた排気管(赤矢印の部分)を、(画像では耐熱シールドに覆われて見えないが……)従来のような細かく枝分かれした形状に戻している。

 この変更により、ドライバビリティと全体的なパフォーマンスの向上に成功。そのDNAは後継のパワーユニットにも活かされている。

 また2016年には、エアボックスのデザインが変更。これも後継マシンに引き継がれている。

Mercedes AMG F1 W07 airbox comparison with W06

Mercedes AMG F1 W07 airbox comparison with W06

Photo by: Giorgio Piola

 エアインテークの形状を見ると、W06ではかなり小さかったものの、W07でははるかに大きな楕円形に変更されたことがわかる。ただこの部分には、ドライバーの頭部を守るためのロールフープを設けなければならない。そのため、エアインテークの内部が三分割されることになった。

 このエアインテークから取り込まれた空気は、エンジンの燃焼にだけ使われるわけではない。パワーユニット、ERS(エネルギー回生システム)、ギヤボックスなどの冷却を司るオイルクーラーでも、この空気が使われている。つまり、オイルクーラーをエンジン上部に配置することができ、車体中心部に重量物を集められるという点、そしてサイドポッド内のパッケージングを整理するという点でも、優位に働くことになった。

 しかしパワーユニットの面では優位に立ったものの、W05の空力面は他を凌ぐモノではなかった。そのためチームは、この領域でも進化を推し進めていくことになった。

 当時、グリッドに並んだ多くのチームが、レッドブルの空力哲学に倣っているように見えた。中でも大きなレーキ角が特徴的であったが、メルセデスはW06以降では他とは一線を画し、独自の方向に進んでいくのが最善だと考えたのだった。

 メルセデスはフロントウイングの開発に注力。その外側に、トンネル状のエリアを設けることになった。これにより、フロントタイヤの後方に発生する乱気流を制御。空力効率を向上させようと考えたのだ。そしてこの処理は、さらなる性能を求めつつ、加速度的に開発が進んでいった。また翼端板にも開発が加えられ、実に複雑な形状へと変化……空気をマシンの”外側”に向けて流す(アウトウォッシュ)傾向が加速していった。

メルセデスW06 フロントウイング

メルセデスW06 フロントウイング

写真:: Giorgio Piola

楕円形の中は、初期のアウトウォッシュ用トンネル。そしてそれが徐々に進化し、メインプレーン〜各フラップに連なるようにトンネル形状が伸びていった。これらによって気流をマシン外側に誘導している。
メルセデスW06 フロントウイング(ロシアGP仕様)

メルセデスW06 フロントウイング(ロシアGP仕様)

写真:: Giorgio Piola

メルセデスはフラップ背面の気流を改善するために、後端が鋸状になったフラップも登場させた。
メルセデスW07 フロントウイングディテール

メルセデスW07 フロントウイングディテール

写真:: Giorgio Piola

翼端板の形状は時を追うごとに複雑になり、W07では後端に外向きのフィンが追加されたりもした。また、フラップの背面に小さなストレーキ(赤い矢印)をつけ、気流を制御した。
3

 2014年シーズンは、レギュレーションによりノーズ先端の高さが低く制限されていた。しかしこの規定を満たすために、多くのチームがその部分だけを長く低く伸ばす”アリクイ”ノーズを登場させることになった。これは、できるだけ多くの乱れの少ない空気を、ノーズ下、ひいてはフロア下に引きこみたい各チームの願望の表れだったと言えるだろう。ただメルセデスはアリクイノーズではなく、ノーズ全体を低くし、レギュレーションを満たす”カモノハシ”スタイルを採用していた。

 しかし2015年には、その”醜い”形状を打破するために、レギュレーションが改訂。これにより、ノーズ下に乱れの少ない気流を取り込みやすくなった。

Mercedes W07 front suspensions

Mercedes W07 front suspensions

Photo by: Giorgio Piola

 メルセデスは、モノコックのバルクヘッドからノーズの先端に向け、徐々に細くなっていくスタイルのノーズを採用。フロントウイングのステーは、ノーズ下に吊り下げられる形になった。これは2016年にはさらに進化し、その上各チームが2012年以降使ってきたSダクトに似た機構を備えていた。

 メルセデスが用いた解決策のメリットは、ザウバーなどがそれ以前に使ったモノとは異なり、気流をかなり前方で取り込むことができた。ザウバーがSダクトを使った2012年には、レギュレーションによりフロントホイール中心線の150mm前方より後ろにしか、ダクトの吸気口を設けることができなかった。しかし2016年のメルセデスW07は、ノーズの先端により近い位置で気流を取り込むことができた。

メルセデスW07 Sダクト吸気口

メルセデスW07 Sダクト吸気口

写真:: Giorgio Piola

このダクト用の吸気口は、フロントウイングのステーの付け根付近に設けられていた。そのため、気流が剥離し始めるポイントで、気流を捕まえていたはずだ。
フェラーリF2008のSダクト

フェラーリF2008のSダクト

写真:: Giorgio Piola

2008年のフェラーリも、これに近いソリューションを採用。このフェラーリも、ノーズの先端により近い位置、その背面から気流を取り入れていた。
ザウバーC31のSダクト

ザウバーC31のSダクト

写真:: Giorgio Piola

2012年にザウバーが復活させたこのアイデアは、S字型のダクトを設けていたため、”Sダクト”と名付けられることになった。そしてフロントホイール中心線の前方150mmまでの間に、この機構が収められていた。
3

 

 フロントサスペンションのレイアウトも熟考され、ステアリングアームは、ロワウイッシュボーンと同じ位置まで下げられ、一体化するようにデザインされた。

 またモノコックの下に取り付けられたターニングベインは、フットプレートで一体化されただけではなく、そのフットプレートにもスリットが入れられるなど、細かな処理が施されている。

Mercedes W06 front wishbone and suspensions design
Mercedes AMG F1 W07 turning vanes

デバイスが禁止されても、ただでは転ばず……

 メルセデスは2014年、FRIC(フリック)と呼ばれるサスペンションシステムを投入した。これは四輪全てのサスペンションを油圧で繋ぎ、車体の姿勢を制御しようとするものである。

 しかしこのシステムは2014年シーズンの途中で使用が禁止されることになってしまう。ただメルセデスは、FRICの使用を諦めるだけでは終わらなかった。FIRCを使ったことで学んだ知識を活用し、次に活かしたのだ。

 メルセデスはFRICが禁止された後も、ドライバーがタイヤを痛めることなく、アグレッシブなラインを走ることができるようにするための油圧システムの開発を続け、同時により効率的な空力開発も進めた。

Mercedes W07 front suspensions

Mercedes W07 front suspensions

Photo by: Giorgio Piola

 FRIC禁止後も、メルセデスは油圧式のヒーブダンパー(サスペンションの上下動を制御するダンパー)を使い続けたが、それ以外の部分では従来のスプリングを使っていたところは興味深い。

Mercedes F1 W07 Bargeboard and sidepod airflow conditioner detail, newer specification inset

Mercedes F1 W07 Bargeboard and sidepod airflow conditioner detail, newer specification inset

Photo by: Giorgio Piola

 メルセデスはまた、バージボードエリアでも多くの開発を行なった。このエリアは実に複雑な構成。垂直のフィンが複数のセグメントに分けられただけでなく、フロアの前端に前後方向のパーツを取り付け、これをフットプレートにようにして他のフィンと接続……フロア下に流す気流を制御しようとした。これにより、ディフューザーの効果も上がったはずだ。

Mercedes AMG F1 W07 rear wing separated wing flap

Mercedes AMG F1 W07 rear wing separated wing flap

Photo by: Giorgio Piola

 リヤエンドでは、サーキットごとに最適な空力バランスを見つけることに取り組んだ。そんな中で、メインプレーンの後端には、前述のフロントウインングのフラップと同じように鋸状の部分を追加。パフォーマンス向上を目指した。

2017年”歌姫”との対峙……開発は未知の領域へ

 2014年に最強チームの座にのし上がったメルセデスは、2015年と2016年もこれらの開発もあってライバルを圧倒。2014年と2015年はルイス・ハミルトンがタイトルを連覇し、2016年にはチームメイトのニコ・ロズベルグが激闘の末チャンピオンに輝いた。

 この間、ハミルトンとロスベルグのライバル関係は加熱し、度々論争を巻き起こした。しかし2016年にチャンピオンを獲った直後、ロズベルグが突如引退を発表。チーム内での緊張状態が緩和されることになった。

 ただ2017年、メルセデスにはある問題が明るみに出た。同年のマシンは、速さはあるもののチームが「わがままな歌姫(ディーバ)」と呼ぶほど扱いにくいマシンとなってしまっていたのだ。

 チームはこれに対処するため、これまでとは全く異なる部分に着手しようとしていた……。

Read Also:

Be part of Motorsport community

Join the conversation
前の記事 アイルトン・セナが獲得した3つのタイトル。彼にとって最高のシーズンは1991年?
次の記事 早くもフェラーリファンの心を鷲掴み。サインツJr.、走行初日を終え直接声援に応える

Top Comments

コメントはまだありません。 最初のコメントを投稿しませんか?

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

Motorsport prime

Discover premium content
登録

エディション

日本