【F1メカ解説】メルセデス強さの秘密。パワーユニットだけじゃない……秀逸・俊敏な空力開発
圧倒的な強さを維持しているメルセデス。確かに優秀なパワーユニットを持っているが、それだけではない。秀逸かつ、細かな空力開発も、彼らの強みと言えるだろう。
写真:: Giorgio Piola
2014年にV6ターボエンジンと熱および運動エネルギー回生システムを合わせた”パワーユニット(PU)”が導入されて以来、圧倒的な強さを誇ってきたメルセデス。ただ彼らは、PUの面だけで強かったわけではない。空力の面でも優れた開発を行なっており、度々行なわれたレギュレーションの変更にも、しっかりと対処してきた。
その最も最近の例は、2019年のレギュレーション変更である。この年、フロントウイングの幅は左右に100mmずつ広げられ、前方に25mmに延ばされた。これと同時にウイングのデザインが簡素化され、使うことができるエレメントは5つだけに規制された上、ウイングの端に取り付けることができる様々なパーツにも規制がかけられた。このウイングの端は、最近のトレンドとも言える”アウトウォッシュ(気流をマシンの外側に向けて誘導する考え方)”に非常に重要だが、このレギュレーション変更により、その効果を発揮させるのが難しくなった。
レギュレーション変更
メルセデスは従来通りの考え方でこの問題に取り組み、開幕前テストの段階で複数のウイングをテストした。しかしフェラーリなどは従来の形を一変。フロントウイング外側のエリアを、ダウンフォース発生ではなくアウトウオッシュを生み出すことに専念させるようなデザインを用いてきたのだ。
さらなる将来のために
2019年に考慮すべき変更はたくさんあった。しかしメルセデスは、その課題に対処するだけではなく、当初は2021年からの導入が予定されていた(現在は2022年からの導入に変更)大幅なレギュレーション変更にも目を向けていた。その主な例がサスペンションだ。
上下のウイッシュボーンを路面と水平に保持すべく、アップライトに設けられた角状のエクステンションは前のモデルから維持されたが、かかる負荷に耐える能力を損なうことなく、重量を削減する努力がなされていた。ただ有機的とも言える非常に複雑な形状になっており、従来の製造技術では実現が不可能なモノだったはずだ。
またプッシュロッドの接続も変更。これは、ドライバーがステアリングを操作した時の乗り心地に大きく影響を及ぼすことになる。
マシンを左右に操舵すると、フロントエンドは路面に向けて沈み込む形となる。しかしその時の姿勢をうまくコントロールすることができれば、空力的には大きなメリットがあるはずだ。
これはフェラーリなどが数年にわたって試してきたものだ。しかしドライバーからすれば、操舵した時の直感が変わることになってしまい、実現に苦労していた。ドライバーはコーナーから脱出する際に、ステアリングを直進するために引き戻すという作業が必要だったのだ。
Mercedes AMG F1 W10 front suspension detail
Photo by: Giorgio Piola
メルセデスは、車体内部のサスペンション機構についても新たな方向に歩み出していた。彼らは長年使ってきた油圧でコントロールする形を廃し、伝統的なスプリング式のヒーブダンパーを採用したのだ。
これは偶然のことではない。現時点では2022年から導入されることになっている新レギュレーションでは、油圧でアシストするサスペンションエレメントは使用が禁止されることになっているのだ。メルセデスはそれを先取りしたわけだ。
ライバルの多くは、この対処のためにコイルスプリングを使用した。しかしメルセデスは、皿バネ(ベルビル・ワッシャー・スプリング)を使ったのだ。これをパッケージ化し、正しくセットアップすることができれば、精度や汎用性、安定性の向上に繋がる。ライバルであるレッドブルは、数年前からこれを採用していた。
一方マシンの後部でも、空気の流れを細かく制御するデザインが様々採用された。そのひとつが、ホイールの内側からマシンの側面に向け、どう空気を流すかということだ。
メルセデスはブレーキダクトの上に、もうひとつ追加の開口部を備えた。ここから取り入れた新鮮で温度の低い空気を、リムとブレーキドラムの間から流したのだ。これにより、ブレーキで発生する熱がホイール内部に伝わるのを防ぐための障壁を作り、タイヤの温度を安定させることに成功したのだ。
バージボードのエリアは、さらに重要度が増した。2017年にもレギュレーションが変更されていたが、その時よりも重要度が増えることになったのだ。
前述の通りフロントウイングの開発が制限されることになったため、フロントタイヤの後方に生じる乱気流を制御しにくくなった。これを解決するためには、バージボードやディフレクター、フロアの前端、そしてサイドポンツーンのデザインがより重要になったのだ。
メルセデスはこの部分で特に積極的なチームであり、パフォーマンス向上のため、シーズン中に複数のアップデートパッケージを登場させた。
最初のアップデートでは、コクピットの横に取り付けられた下向きのウイングレット、バージボード上のブーメラン形状のウイングレット、そして小型のディフレクターなどが取り付けられた。
日本GPではさらなるアップデートを投入。特にディフレクターの部分に焦点が当てられ、バージボード自体の形状変更もさることながら、ふたつのエレメントの間をブラインド・カーテン状のパーツで繋ぐことになった。また当初は逆L字に一体化されていた大きなバージボードは、水平部分と垂直部分に分割されることになった。
ただこれらの変更は、シーズンのかなり終盤になって行なわれたものだ。当時のメルセデスは、タイトル獲得をほぼ手中に収めていた。そういうことを考えれば、すぐにパフォーマンスを向上させるためではなく、翌年用マシンの先行開発だったということだろう。
メルセデスはノコギリが好き?……
メルセデスは、マシンの各所に鋸状の形を採用するのを頻繁に検討してきた。2019年もその例外ではない。
アゼルバイジャンGPの際には、リヤウイングのメインプレーン後端にこの鋸形状を採用してきた。これは、直線スピード向上のための策である。
DRSの作動ポッドの後端も、同じように鋸形状となった。これはボーイング787など航空機のエンジン後端に採用されているデザインを彷彿させる。これは、DRSボットが生み出す乱流が、その直後にあるリヤウイングのフラップに及ぼす影響を削減することを意図したモノのようだ。
ドイツGPにはさらなるアップデートを用意し、リヤウイングを改修して、いくつかの興味深い機能を追加することになった。
Mercdes AMG F1 W10 rear wing detail
Photo by: Giorgio Piola
メルセデスはリヤウイング翼端板の形状を複雑化。後端上部には階段状の切り欠きを設け、さらに後端にも厚みを持たせた。さらに翼端板外側には気流を上向きに変えるストレーキを取り付け、階段状の切り欠きに向けて空気を流している。
Mercedes AMG F1 W10, front brake
Photo by: Giorgio Piola
ブレーキダクトにも細かな開発を行ない、ドラムの外周部に設けられた気流の通り道に小さなボーテックス・ジェネレータの列を設けた。
結局メルセデスは、2019年に開幕8連勝を達成。シーズン後半にはレッドブルやフェラーリも勢いを取り戻したが、メルセデスはさらに7勝を積み上げ、合計で15勝を荒稼ぎし、シーズンを終えることになった。
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