ピットレーンで追い抜き、ペナルティを受けなかったのはなぜ? ラッセル「FIAの常識的な対応に感謝」
F1ドライバーなら、前にスペースがあればそこにクルマをねじ込みたくなるものだ。ジョージ・ラッセルはハンガリーGPのピットレーンでそれをしてしまったが、何とかペナルティを免れた。
George Russell, Williams Racing FW43B
Williams
オープニングラップから多重クラッシュが発生し、波乱の展開となったF1ハンガリーGP。レースは一旦赤旗中断となったが、レース再開後も珍しい展開が相次いだ。
グリッドからのリスタート前にほとんどのマシンがピットインしたのも、めったに見られない光景だった。1周目のクラッシュを生き残った全15台がインターミディエイトタイヤを履いてピットレーンを出たものの、スリックタイヤで十分走行可能だと判断し、グリッドにつく前に続々とピットに飛び込んだのだ。
グリッドについてリスタートを迎えたのは首位のルイス・ハミルトン(メルセデス)ただひとり。当然、他のカテゴリーを含めてもめったに見られないシーンだったが、14台が一気になだれ込んだピットレーンでも様々なことが起きていた。
中でもジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)は、赤旗中断時点で8番手にいたが、スリックタイヤの交換を終え各車がコースに戻った段階で2番手まで浮上した。つまりピットレーンで大きく順位を上げたわけだ。
ピット作業の早さでいくつかポジションを変動する可能性はあるが、ラッセルがポジションを上げたのは、ウイリアムズの作業が異次元に早かったからではなかった。
各車がタイヤ交換を済ませ、ピットレーンのファストレーンに並んだが、ウイリアムズのピットはピットレーン出口に最も近い位置にあった。つまり、作業を終えた頃にはファストレーンにすでに隊列ができており、そこに並ぶことができなかったのだ。先にピット作業を済ませたチームメイトのニコラス・ラティフィは、自身のポジションを主張するようにマシンを左側にあるファストレーンに向けていたが、ラッセルはそのさらに右側にスペースがあるのを見つけた。
ラッセルはチームに「どうすればいい? 列の先頭に行ってもいいの?」と無線で尋ねながら前に進んだ。しかしチームから返ってきたのは「ネガティブ」というシンプルな一言だった。
だが、時既に遅し。ラッセルは他のマシンよりも先にピットレーンを出て、2番手となった。その周の終わりでハミルトンがピットインしたため、ラッセルはレースをリードできると思っていたようだ。
「正直なところ、ある時点で僕はレースをリードしていると思っていた」と、ラッセルは振り返った。
「リスタートの時、みんながピットレーンの出口で並んでいるというとても奇妙な状況になっていた」
「普通の状況であれば、ピットレーンで他のクルマを追い越すこともできるし、レーンからはみ出してレースをすることもできる。だから僕は『チャンスが有るならやってみよう』と思った。リスクとリターンを比較した時、リターンの方が大きかったからだ」
しかしチームからの短いメッセージによって、ラッセルはすぐに自分はそれをやるべきではなく、得られたリターンが長く続くものではないと悟った。
というのも、ピットレーンでの追い越しがルール違反になる可能性があるのは明らかであり、それによりタイム加算やピットスルーなどのペナルティが科されるかもしれないということは、チームだけでなくラッセルも分かっていたのだ。
ラッセルは頭の中で、ペナルティを受けても”リターン”が残るだけのアドバンテージを築く必要があると考えていたようだ。
「僕はいつも前を向いている。終わったことは終わったことだから、それを変えることはできない。ドライブスルーペナルティを受けるだろうから、アクセル全開でプッシュして差をつけようと思ったんだ。20秒のペナルティでも何でもいいから、とにかくやってみようってね」
「そうでなくても、僕はレースのトップに立っていたから、後続を抑えようと思っていた。僕はチャンスを狙っていた。報酬が大きければ、それに見合うだけのことをしなくてはいけないんだ」
当時のラッセルは知らなかったことだが、チームはF1レースディレクターのマイケル・マシに、ミスがあったことを認め、償いをするというメッセージを送っていた。
その時点で、マシはラッセルがピットレーンで隊列を飛び越したことをスチュワードに報告しておらず、ウイリアムズの迅速な判断によって、審議を避けることができたのだ。
マシは「ジョージ(ラッセル)が自分のミスに気づき、チームはすぐに『ミスを犯したのでフェルナンド(アロンソ)の後ろに下がる』と伝えてきた。実際それはチームの発案だったのだ」と説明した。
ラッセルは、アロンソの後ろまで下がるようにというチームの命令を即座に受け入れたため、マシはこの件をこれ以上取り上げる必要はないと納得した。アロンソの後ろ8番手という位置は、赤旗中断時と同じポジションである。
自身のミスや不運によって、これまで何度もウイリアムズでの初ポイント獲得を逃してきたラッセル。しかしチームの素早い対応によってペナルティを免れて9番手フィニッシュ。8番手フィニッシュのラティフィと共に、ダブル入賞でウイリアムズにポイントをもたらした。ウイリアムズのポイント獲得は、2019年第11戦ドイツGPでロバート・クビサが10位になって以来であり、ほぼ丸2シーズンぶりとなる。
レース後、ラッセルは「『ポジションを戻す』と言ったことで、常識的な対応をしてくれたFIAに本当に感謝している」と語った。
「彼らはそれをスルーして、僕にドライブスルー・ペナルティを与える可能性だってあったんだ。その対応は素晴らしかった。(ピット作業を終えた後)僕はどうすればいいのか分からなかった。でも僕はチャンスがあると感じて、それを目指したんだ」
なお、2番手でフィニッシュしたセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)が失格となったことでラティフィは7位、ラッセル8位に繰り上がっている。しかしアストンマーチンは裁定に異議申し立てをしており、さらに結果が変わる可能性も残っている。
Nicholas Latifi, Williams Racing and George Russell, Williams Racing celebrate with the team
Photo by: Williams
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