“強い”ベッテルは帰ってきたか? モナコで見せた復調の兆し「何かが変わるかも、と思っていた」
セバスチャン・ベッテルと所属するアストンマーチンF1チームにとって、2021年シーズンの滑り出しは好調とは言えないものだった。結果が出ず、同じく中団争いをするライバル勢は好成績を残していた。しかし、第5戦モナコGPでは、ベッテルが不調を感じさせない走りを見せた。
写真:: Erik Junius
4度のF1世界チャンピオンであるセバスチャン・ベッテルと今季から所属するアストンマーチンF1チームにとって、2021シーズンは順調とは言えない滑り出しとなった。
ベッテルは開幕から4戦をノーポイントで終え、アストンマーチンとしてもランス・ストロールが獲得した5ポイントのみに留まっていた。
フェラーリ離脱前からの不振で、ドライビングの仕方を忘れてしまったのかと批判されていたベッテル。しかし2011年にレッドブル、2017年にフェラーリで制した経験を持つモナコGPで、そうした批判を一蹴するパフォーマンスを見せた。
予選ではQ3まで進出し、8番グリッドを獲得。さらに決勝レースでは31周目に魅せた。ベッテルの前を走っていたアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーとメルセデスのルイス・ハミルトンよりもピットタイミングを遅らせると、ガスリーとのピット出口直後の“チキンレース“に打ち勝ち、オーバーカットを成功させたのだ。
ベッテルは、レッドブルのセルジオ・ペレスには逆にオーバーカットされるも、ガスリーやハミルトンをそのまま従え、今季最高位の5位でチェッカーを受け、今季初ポイントを獲得した。
モナコGPの初日である木曜日から、ベッテルは“モナコ仕様の”マシンに対し好印象を得ていたという。フリー走行1回目で8番手、2回目では10番手につけ、これまでのグランプリでは先行を許していた、チームメイトのストロールを上回った。
また、ベッテルのモナコでの好成績には、モナコに向けて投入されたフロアの最新アップデートパッケージも寄与している。アストンマーチンは、今季のレギュレーション変更により減らされたダウンフォースを取り戻すことに苦労しており、シルバーストーンにあるファクトリーでは、開発が進められている。
ベッテルは、予選Q1でソフトタイヤを1セットしか使わずアタックするというギャンブルを成功しさせ、15番手で予選Q2に進出する。Q2で9番手、予選Q3ではモナコで苦しむハミルトンの後ろ8番手を獲得した。予選Q3に進出したのは、F1第3戦ポルトガルGP以来今季2度目である。
予選後、motorsport.comの取材に対し「Q1はタイトで、1セットしか使わなかったので少しリスキーだった」と語った。
「最後(予選Q3)は2セットのタイヤを使えたけれど、赤旗が出てしまったから役には立たなかった。全体として、僕らにとっては良い1日だった。今季は既に5回の予選を経験しているけど、常にギリギリでタイトなものだった。今回の予選Q2は他よりもクリアな状況だったけど、全体的にいつも10番手争いをしていて、浮き沈みが激しい」
「ここでは、フリー走行から既に良い感じだった。8番手はポールポジションではないけど、ここまでのレースよりかは格段に良い。この結果を受け入れて、決勝ではポイント獲得を目指したい。レースでどうなるか見てみよう」
ベッテルは予選では更にタイムを削れたはずだと考えているが、それでもより上位のグリッドには手が届かなかったと語った。
「タイム差を見てみると、予選Q3のラップではもう少しだけタイムを削れたと思うけど、前4台を越せたとは思えない。最終的なルイスとのタイム差はかなり大きかったと思う」
「昨シーズン、チームがいたポジションに戻るためには、明らかにやるべきことが残っているが、チームはとても頑張ってくれている。ただ、これまで僕が言っているように、(中団争いは)とってもタイトなんだ」
Sebastian Vettel, Aston Martin AMR21
Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images
フェラーリでチームメイトだったシャルル・ルクレールが、決勝レース直前のマシントラブルでグリッドから姿を消したことにより、ベッテルは実質上7番手でスタートを迎えた。ソフトタイヤを履いた1スティント目では、ガスリーとハミルトンの後方、セルジオ・ペレス(レッドブル)のひとつ前を走行していた。
29周目にピットインしたハミルトンのアンダーカット阻止の為、アルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーが翌30周目でピットに入り、両者ハードタイヤで2スティント目を迎えた。先行する2台がピットに入ったことで前が開けたベッテルは、タイヤライフに余裕があったソフトタイヤを駆使しプッシュラップを重ねた。
「(オーバーカットの為のプッシュラップが)重要なタイミングだったから、楽しんだ」とベッテルは説明する。
「スタートから10周はとてもつまらなかった。セルジオが最初に迫ってきたけど脅威には感じなかったし、その後はタイヤを温存するために攻めないでいた。ピットイン前のラップが重要になるとは思っていたが、実際にそうなった」
「マシンに乗って、重要な時にプッシュできることを楽しんでいた。マシンがそれに応えてくれることは分かっていた」
31周目にピット作業を済ませたベッテルは、ハミルトンに対しては余裕をもって前に出ることができたが、その前を走るガスリーとはピット出口で激しいバトルを展開。ターン1のサン・デボーテから続くボー・リバージュの坂を2台横並びで駆け上がった。最終的にはガスリーがアクセルを緩め、ベッテルに軍配が上がった。
「接近することは分かっていた」とベッテルは言う。
「だが、あれだけの近さだと予見するのは難しい。(ガスリーよりも)少し前に僕は出ていて、彼のことも見えていた。だが、どれだけ僕が前に出ていたかを判断出来るほどではなかった。彼とはほぼ横並びで、1/4か1/2車身程度の差しかなかったからね。そして右、左と蛇行しながら進むんだ」
「僕が彼を見ていたかどうか分からなかったから、ある時点で彼は手を引いたのだと思う。彼にスペースを与えたが、僕のタイヤは新品だったしタイヤカスの上を通ったから、カジノまではあまり快適とは言えなかった」
ベッテルにとって、今回のレースに唯一不満点があるとするならば、彼よりもさらに2、3周ピットインを遅らせたペレスにオーバーカットされてしまったことだろう。しかし、2番手を走っていたボッタスがピットでタイヤが外れずリタイアに追い込まれたことで順位が上がり、5位でチェッカーを受けた。
チームメイトのストロールは大きく異なるレース戦略を採った。ハードタイヤでスタートし1スティント目を長く走る”リバースストラテジー”で、13番手から8位に順位を上げたのだ。ふたりが入賞したことで、アストンマーチンF1チームは14ポイントを稼ぎ、コンストラクターズランキング7番手から5番手に押し上げた。
「見ての通り、僕らにとって良い結果だった」とベッテルは語る。
「今日はピットタイミングが適切だったし、ピットストップを遅らせた時に引き出せるペースにも助けられた」
Sebastian Vettel, Aston Martin AMR21
Photo by: Erik Junius
「ソフトタイヤの感触はとても良かった。最初の方は流しながら前のマシン達を先行させて、そこから徐々に差を詰めていった。あのペースならセルジオを抑え込むチャンスもあったと思うが、彼はそこからさらに1秒を縮めてきたので、それは叶わなかった」
「だがそれよりも、ルイスとピエールを抜くことができたから僕らにとっては良い一日だった」
ベッテルにとって、アストンマーチンへの移籍は簡単なことではなかった。フェラーリでの最後のシーズンも不本意な結果となり、多くの非難を浴びていたベッテルは、自分の評価よりも新体制で苦しいスタートを切ったチームを後押しすることを重視していたという。
「ここ(モナコ)では常に良い結果が得られていたからね」と彼は述べる。
「だからこのサーキットでは、何かが変わるかも知れないと思っていた」
「チームには満足している。チームは昨年好調なシーズンを過ごしたが、今年はいろいろな意味で不本意な出だしになってしまった。だから、これ(モナコでの好成績)は僕らが求めていた結果だし、チームスタッフのみんなにとって相応しい結果だと思っている。本拠地のファクトリーにいるみんなにも良い知らせが出来た。あそこでは多くのことが起きているからね」
「ありがたいことに、今回の結果は僕らの士気を高く保ち、力強いレースが出来るよう勢いをつけてくれるだろう」
ベッテルは、チームがマシン性能を更に引き出し、モナコで見せたようなバトルのチャンスを与えてくれることを望んでいる。
「見るからに中団争いは拮抗している。(マシンの)どこかから更に0.1、0.2秒引き出すことができればそれが大きな違いになるかもしれない。予選Q3進出につながるかもしれないし、レースでは1周遅れになるのを免れることが出来るかもしれないし、アンダーカットをうまく狙えるかもしれないからね」
「最後に週末を振り返ってみると、本当に重要だったのは、予選ラップとレースでの肝心なラップの計5分だけだったかもしれない。ただ、このようなタイトな中団争いでは、全てが思い通りに動かなければならない」
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