コラム

F1

マクラーレン“MP4/8B”に搭載されたランボルギーニ/クライスラーV12……あのエンジンブローがなければ、F1の歴史が変わっていた?

1993年、マクラーレンは翌年に向けてランボルギーニ/クライスラーエンジンをテストした。これがもし実戦投入されたら、どうなっていただろうか?

Gary Watkins

Gary Watkins

編集: 2026/08/09 3:05

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McLaren MP4/8B Engine

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 先月のグッドウッドで、ランボルギーニ(クライスラー)エンジンを搭載したマクラーレンMP4/8Bが走行した。このマシンが轟かせたV12の咆哮を聞いて私はある考えに至った。もしマクラーレンが1993年末にプジョーではなく、アメリカのクライスラーと契約していたら、どうなっていただろうかと。

 F1の歴史は、大きく変わっていたかもしれない。

 そこで私が考えているのは、マクラーレンがプジョーをわずか1年で見限ってメルセデスエンジンにスイッチしていなければ、その後のチームがどんな成績を残していたのか、という話だけではない。むしろ重要なのは、クライスラーがF1に参入していたらF1を取り巻く勢力図そのものにどんな影響を及ぼしていたか、という点である。

 MP4/8に搭載され、テストでもわずか842kmしか走行することがなかったこのV12のことを「ランボルギーニエンジン」ではなく、当時の親会社の名前から「クライスラーエンジン」と呼ぶ方が私はしっくりくる。この短命に終わったプログラムが興味深いのは、まさにその点にある。だからこそ、私はAutosport向けにこの話を書くために手を挙げた。

 そのエンジンは、ラルース、ロータス、リジェなどのマシンに搭載されていた際には、クライスラーとランボルギーニの両方の名前を冠していた。しかしマクラーレンにおいては、間違いなく「クライスラー」だった。1993年秋、シルバーストン、ペンブリー、エストリルでアイルトン・セナとミカ・ハッキネンの手によってMP4/8Bがテストされたとき、エンジンのカムカバーの中央にはクライスラーの名前が堂々と掲げられていた。

 もしこの契約が成立していたなら、1994年のMP4/9の背後に収まっていたのはクライスラー製エンジンだった。そして何より重要なのは、その開発費をクライスラーが相当な規模で負担していたはずだということである。

 そしてそれはクライスラーにとって、F1への初めての本格的な挑戦になっていた。当時は同じくアメリカのフォードもF1への関与を強めていた頃。1994年はベネトン・フォードのミハエル・シューマッハーがタイトルを獲得した年でもある。もしクライスラーがF1に参入していれば、アメリカ自動車メーカーのビッグ3のうち2社がF1のグリッドに並んでいたことになる。

 そして、それこそまさに2026年のF1で起きていることでもある。フォードは20年以上の空白を経て、レッドブルとのパートナーシップによってF1に復帰。一方でゼネラルモーターズ(GM)も、キャデラックのブランドでF1に新規参入を果たした。両ブランドが持つモータースポーツでの輝かしい歴史、そして自動車業界における存在感を考えれば、これはF1の歴史における極めて重要な出来事と言える。

 マクラーレンとクライスラーの提携がどこまで具体化していたのか、その詳細は永遠に分からないかもしれない。マクラーレン側の事情を知るには、ロン・デニスが回顧録を出版するのを待つしかない。一方クライスラー側については、F1チームとの交渉を主導していた同社副社長フランソワ・キャスタンとともに、その話も墓場まで持っていかれた可能性が高い。

写真: Sutton Images via Getty Images

 2023年に78歳で亡くなったキャスタンは、モータースポーツ全般、そして特にF1が持つ価値をよく理解していた人物だった。彼はルノーの1978年ル・マン24時間制覇を技術面で支え、その後同ブランドのF1参入初期にも携わった。そして出世街道を駆け上がり、最終的には当時ルノーが50%出資していたアメリカン・モーターズ・コーポレーション(AMC)へと移籍する。このAMCは後にクライスラーの傘下となるのだ。

 もしF1にフォード、クライスラーが既に存在していたら、GMは3社目として参入していたのだろうか? 確かに、1990年代にはGMがF1に興味を持っているという噂が断続的に流れていた。そして忘れてはいけないのが、GMが90年代末にモータースポーツへの取り組みをより国際的なものへと広げ始めていたことだ。

 シボレーのコルベット・レーシング・プログラムは1999年に開始し、翌2000年にはル・マンへ進出した。同年には姉妹ブランドのキャデラックも、ル・マンのトップカテゴリーでの勝利を目指して参戦を開始した。キャデラック・ノーススターLMPのプロジェクトは結果的には失敗に終わったが、新たな販売市場開拓を狙ったものであった。

 そう考えると、もしF1でクライスラーとフォードが競い合っていたら、GMの経営陣がブランド認知度を高めるという目的のために、さらに上位の舞台であるF1へ目を向けなかったとは言い切れないだろう。

 もしキャデラックなり、GM傘下の別ブランドがF1でクライスラーと戦っていたとしたら、フォードも2004年末にF1から撤退することなく、参戦を続けていたのではないだろうか。彼らとしても、ジャガーでの5シーズンにわたる失敗を挽回したいと考えたはずだ。

 ではメルセデスはどうなっていただろう? もし彼らがマクラーレンと組んでいなかったとしたら、エンジンサプライヤーとしてあれほどの成功を収めていただろうか? そして2009年にブラウンGPがダブルタイトルを獲得した時、このチームを買収するという決断を下していただろうか?

 ここで考慮すべき点がもうひとつある。メルセデスは1998年にクライスラーと合併(正確には買収というべきか)し、“ダイムラー・クライスラー”が誕生した。つまり、私が想像するこのパラレルワールドでは、その時点で同じ企業グループから2種類のF1エンジンがグリッドに並んでいたことになる。

 果たして、そのふたつはともに生き残れただろうか? これもまた仮定の話だ。もしどちらか一方を残すことになったのなら、最も成功していたプログラムに継続のゴーサインが出たはずだ。そして、おそらくそのプログラムとは、マクラーレンと組んでいた方だっただろう……。

写真: McLaren

 モータースポーツの歴史は「もしも」の話に満ちている。だから、もし1993年10月半ば、ミカ・ハッキネンのドライブでシルバーストンのハンガーストレートを走っていたV12エンジン(クライスラーでもランボルギーニでも、呼び方はお好きなように)がブローしていなければどうなっていたかと想像するのは、ちょっとした遊びに過ぎない。

 しかし、私がMP4/8Bプロジェクトについて調べたところによれば、もしこのマシンがある一定の性能目標を達成していたなら、クライスラーとマクラーレンの契約に盛り込まれたある条項が発動し、1994年に向けた提携が実現することになっていたようだ。

 私は、両者の提携はかなり成立寸前まで進んでいたと確信している。そしてもうひとつ、私は確信している。もしレースで勝てるだけの性能を持つマクラーレン・クライスラーMP4/9が誕生していたなら、F1の歴史に大きな影響を与えていただろう。

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