F1

F1チームがカート界を駆けずり回る。若手ドライバー獲得競争の内幕……フェラーリ、メルセデス、レッドブルの担当トップに訊く

F1チームは、次世代のチャンピオンドライバー候補を発掘するためにカートシーンを探し回り、熾烈な獲得競争を展開している。

Filip Cleeren

Filip Cleeren

公開日時: 2025/01/28 10:35

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Andrea Kimi Antonelli, Mercedes-AMG F1 Team, Oliver Bearman, Reserve Driver, Ferrari and Haas F1 Team

 2025年シーズンのF1に向けて、メルセデスが7度のF1世界チャンピオンであるルイス・ハミルトンの後任として“秘蔵っ子”のアンドレア・キミ・アントネッリを起用し注目が集まる一方、フェラーリの育成ドライバーであるオリバー・ベアマンはハースからフル参戦を果たす。

 またアルピーヌの育成プログラムからはジャック・ドゥーハン、レッドブル育成のアイザック・ハジャーはレーシングブルズから、ザウバーではマクラーレン育成下でFIA F2王者となったガブリエル・ボルトレトがデビューを果たす。

 この5名の新人F1ドライバーたちの共通点を挙げるとすると、類まれなる才能を持ち合わせていることに加え、ジュニアプログラムや若手ドライバー育成プログラムのサポートを受けながら、フォーミュラカテゴリーの階段を駆け上がってきたということ。そうしたプログラムの重要性はドライバーだけでなく、彼らから恩恵を受けるチームにとっても高まっている。

 モータースポーツには多額の資金が必要であり、裕福なバックグラウンドやキャリア初期から支えてくれるスポンサーを持たない子どもたちにとっては大きな参入障壁となることは言うまでもない。F1を目指す上では、チームやメーカーから注目を浴びるかどうかが幼少期のキャリアを左右しかねない。

 チームにとっても、ジュニアプログラムが大きな利益をもたらすことが示されている。マクラーレンのランド・ノリス、メルセデスのジョージ・ラッセル、フェラーリのシャルル・ルクレールといったドライバーは、それぞれチームからサポートを受け、幼少期から結果を残してきたのを見れば分かるだろう。

 各チームはジュニアプログラムにおいて独自の方法、ターゲット、フィロソフィーを持っているが、近年はほとんどがボトムヘビーのアプローチに収束しつつある。レッドブルがかつて抱えていたようなF3やF2で大量にドライバーを抱えるという問題を避け、より若い子供たちをバックアップすることを好んでいる。

Isack Hadjar, Red Bull Racing

Isack Hadjar, Red Bull Racing

Photo by: Red Bull Content Pool

 その結果、F1チームのドライバー獲得競争はカートのミドルクラスまで及んでいる。

 ここ数ヵ月だけでも、マクラーレンはベルギー出身の14歳でジュニアカート世界チャンピオンのドリース・ヴァン・ランゲンドンクと契約し、既に14歳の松井沙麗などを抱えるウイリアムズはさらに11歳のウィル・グリーンや10歳のルーカス・パラシオといったカートドライバーをアカデミーに加えた。

チームが求めるモノ

 F1チームはライバルよりも先にダイヤの原石を手に入れようと、ジュニアフォーミュラからカートへと踏み入れた。しかし機材の違いや体格差など様々な要因が絡み合い、その若手が熾烈なカートシーンを切り抜けることができるか、そしてジュニアフォーミュラでも才能を発揮することができるか、資質を見極めるのは簡単ではない。

「毎年、全てのジュニアフォーミュラとカート界をかなり深く掘り下げる必要がある」

 そう語るのはフェラーリのシニアパフォーマンスエンジニアとしての仕事と並行して、フェラーリドライバーアカデミー(FDA)を率いるジョック・クレアだ。

「全てのカートチームやカート選手権の関係者に話を訊く必要がある。そのレベルには沢山の子どもたちがいて、誰が(最も有望か)知るのは絶望的に難しいからね」

「最も速いドライバーが最も才能があるとは限らない。カートの世界にはまだ歪みが残り、一部の子どもたちは人よりも良い機材を手にして、もっと良いチームへ行き、毎週末テストに行く余裕がある。一方で中には、ただ糸を掴もうとしているドライバーもいる」

「そこから見つけ出す必要がある。次世代のルイス・ハミルトンになるかどうかは、たとえ劇的に目立っていたとしても、その年齢では分からない。でも少なくとも、我々は重要な素質を見ているんだ」

 クレアと同じく、メルセデスでドライバー育成アドバイザーを務めるグウェン・ラグルーは、ダイヤの原石が全てF1レベルまでに磨かれるというわけではないと認めている。そして若手ドライバーを評価する際には、天賦のスピードだけでなく、才能を伸ばしていける性格的な特徴にも注目していると言う。

「もちろん、我々はスピードを見ている」

 メルセデスの育成プログラムを通じてエステバン・オコンやラッセル、アントネッリをF1に送り込んだラグルーはそう語った。

「しかし私は一貫性、ディフェンスの仕方、仕掛ける前の準備といったところを見るのが好きだ。だが彼らの態度や家庭環境、学歴も重要視していて、彼らがどう育ってきたかを理解しようとしている」

「というのも、我々がやっていることは、おそらく他のプログラムとは違って、ドライバーひとりひとりに合ったプロジェクトであり、オーダーメイドのサポートが必要だ。彼らがカートでレースをしている時に理解しようとしているのは、そこだ。カートのキャリアを終えてフォーミュラに上がる前に、彼らの周囲に適切な人材を配置し、全てを正しく行なうことができるようにする」

Andrea Kimi Antonelli, Reserve Driver, Mercedes-AMG F1 Team

Andrea Kimi Antonelli, Reserve Driver, Mercedes-AMG F1 Team

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

「我々は人間と仕事をしているのであって、彼らはロボットではない。彼らが必ず成功するという保証はない。この(若い)世代のチャンピオンと会うことに慣れていると、ある質問に対する答え方で、彼らが他とは違う存在か、より成熟しているかに気づくことができる。しかし最初のうちは本当の答えを知ることはできない」

 フェラーリはFDAワールドスカウティングキャンプをイタリア・マラネロで開催し、前年にスカウトしたドライバーを招いて徹底的に評価を実施している。

「4〜5日間、彼らと一緒に過ごすことになる。精神的な評価、身体的な評価、話を聞いたり、一緒に昼食を取ったりする」とクレアは説明した。

「事実上、面接の延長のようなモノで、一緒にいる間は何かしらの評価を行なっている」

「フィオラノ最速を目指すかどうかだけではない。たとえ最速ではなくても、3〜4日かけて彼らと関わることで、才能があるかどうか分かるんだ」

 チームと契約するドライバーがまだ幼い場合、アカデミーは相応しい形でプレッシャーを与えつつ、自己表現ができる環境を確保するという絶妙なバランスを取る必要がある。

「私はおそらく、カートや非常に若いドライバーとの取り組みを最初に始めたひとりだと思う。例えば我々はキミが11歳の時に契約を結んだ」とラグルーは言う。

「私はジュニアクラスに上がる直前のミニクラスの国際戦を見るのが好きだ」

「彼らが12歳の時には、我々は彼らにやっていることを楽しませるのも大切だ。(育成プログラムを)色々と実行に移す前に、自分らしさを表現させるようにしている。彼ら自身に失敗を経験させ、自分自身のことをやってもらい、そこから徐々に回りの組織を整えていくのだ」

「12歳の子どもと契約する時、彼らは我々と共に成長し、人生の困難に直面する。それはとても興味深く、やりがいのあることだ。このような状況を乗り越え、なおかつ好成績を残すにはどうすればいいのか? 言ってみれば、親友になっているんだからね」

 またクレアはこう語った。

「子どもから成熟した若者への移行は、我々の専門分野ではない。我々は彼らの家族でも学校でもない。また他の重要な要素だが、我々は家庭からの強力なサポート体制と両親の適切な態度を見ている」

「色々と教えることができるのは、彼らが見せる成熟度次第で、それも学習プロセスの一部だ」

育成プログラムに入っても甘くない

Oliver Bearman, Reserve Driver, Ferrari and Haas F1 Team, speaks with Jock Clear, Senior Performance Engineer, Scuderia Ferrari

Oliver Bearman, Reserve Driver, Ferrari and Haas F1 Team, speaks with Jock Clear, Senior Performance Engineer, Scuderia Ferrari

Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images

 適切な装備やコーチングが与えられ、F1エリート集団の後ろ盾があるからといって、ジュニアドライバーたちは決して甘やかされているわけではない。それどころか、自らスキルを上達させ、キャリアを前進することが期待され、優秀なドライバーから偉大なドライバーになるために積極的な姿勢とコミットメントを示す必要がある。

「その通りだ」とクレアは頷いた。

「自分のキャリアを管理する能力、積極的かつ客観的な姿勢、現実的な期待感を即座に行動に移すことができる若い子が必要だ。そして、彼らには『全てで勝つ。それだけだ。私はウィナーだ』という強い願望がある」

「そう言われると私も既に『厳しい人生を送ることになる。全てで勝つことはできないから、望み通りにはいかない』と考える。彼らはカートではどのカテゴリーでも全て勝ってきたが、F3になると同じくらい速い人たちに出会うこととなる」

「彼らが思っているように、常に最速のドライバーになれるわけではない。純粋なペースだけではないという事実を、彼らはどれだけ早く受け入れることができるだろうか? それは彼らにとって、精神的にかなり難しいことだ」

 こうしたクレアの考えは、セバスチャン・ベッテルの“相棒”を務めるなど、F1シニアエンジニアとしての長いキャリアを経て、レッドブルの若手ドライバーの面倒を見るギヨーム・ロッケランも同じだ。

 “ロッキー”として知られるロッケランはチームの公式ポッドキャスト『Talking Bulls』で次のように語った。

「より良いドライバーになりたいと常に思うことは、我々が育てたい資質だ。それがドライバー側から出てくるのが本当に重要だ」

「我々は彼らを教育し、可能性や解決策を提示するためにいる。しかし彼らを甘やかすためにいるわけではない」

「誰かに教えてもらわなければ分からないことがあるから、我々はそれを提示するためにそこにいる。しかし、そこまでだ。良い例として、我々は年始にドライバーの身体テストを行ない、『これでは不十分だ。半年後にはこうなっている必要がある』と伝える。それでおしまいだ」

「もちろん、そのドライバーに理学療法士がいない場合は、トレーニングプログラムを提案することもある。しかし結局のところ、我々は彼らに腕立てを10回やれと言うわけではない」

「栄養面であれ、技術的なサポートであれ、我々が提供できることは多岐にわたる。それが我々の提案で、選択するのはドライバーだ。最終的には、目標を達成したかどうかで判断される。レッドブルの信条は『個人を求める』ことで、過保護にはしたくないが、枠組みは提供する」

「結局のところ、若手ドライバープログラムは結果によってのみ信頼されるモノで、2024年シーズン開幕に向けてルーキー不在となったことをひとつ取り上げると、シリーズに新しい人材を入れることに問題があると思ったかもしれない」

Oliver Bearman, Haas VF-24

Oliver Bearman, Haas VF-24

Photo by: Andrew Ferraro / Motorsport Images

 5名のニューフェイスが到来し、2025年シーズンのグリッドは大きく入れ替わる。そしてアントネッリやベアマンのような存在は、以前のラッセルやルクレールのように、F1への道筋が多くのチームから伸びていることを世界中の若いドライバーに示している。

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フェアな戦いの場を作るために

 本格的なジュニアプログラムを展開するチームが増える中、次世代を担うドライバーを発掘し、契約を結ぶための競争は軍拡競争のような様相を呈しており、クレアはフェラーリがライバルの動向を注視し、それに応じてアプローチを再考していることを認めた。

「ちょっとした軍拡競争だ」とクレアは言う。

「カートをやっている若い子供たちの話を聞いたり、マクラーレンが既にこのドライバーを指名したと聞いたり、ということが起こりがちだ。そうなると『もしかしたら我々は逸材を逃したのかもしれない』と思うだろう。この年齢で獲得する子どもたちが良く育つかどうかはこれから分かるだろう」

「彼らは若く、より多くの問題に直面する。脱落するまでの時間は十分にあるし、12歳から投資するのであれば、より多くのお金を使わなければならなくなる。真実はやってからでないと分からない」

「我々はマクラーレンの動向を見ているし、メルセデスの動向も見ている。(CIK-FIA最高峰の)OK-JクラスやOKクラスの前年、もしかしたらさらにその前の年を振り返る必要があるかもしれない」

「基本的に、際立った才能を見極めることを主な目的としている。我々は単に数レース勝った子どもたちをピックアップするのではない。そうなると浅く広くという感じになってしまう。だから、そのレベルで本当に優秀な才能をどれだけ見極められるかということになる。それができないと思えば、やらない」

 ラグルーはクレアの軍拡競争という考えには同意していない一方、カートレベルに多くのチームが参画していることは健全だと考えている。

「我々は他のチームが何をしているか考えていない」とラグルーは言う。

「あの子やその子と契約しようという競争ではない」

「第一、我々は全員を獲得することはできない。そして第二に、我々の戦略上必ずしも誰かを逃したとは考えてはいない。私は少数のドライバーに集中し、彼らを必ずトップに導くことを好んでいるからね。F1に到達しないのであれば、彼らがプロになれるようにする」

Frederic Vasseur, Team Principal and General Manager, Scuderia Ferrari, Gwen Lagrue, Mercedes Driver Development Advisor, Laurent Mekies, Team Principal, RB F1 Team

Frederic Vasseur, Team Principal and General Manager, Scuderia Ferrari, Gwen Lagrue, Mercedes Driver Development Advisor, Laurent Mekies, Team Principal, RB F1 Team

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

「私はメルセデスに9年間在籍し、エステバン、ジョージ、そしてキミを育ててきた。パスカル・ウェーレインやアレクサンダー・アルボンについても言えることだ。もちろん、ランド・ノリスやオスカー・ピアストリのようなドライバーもいたが、彼らの(F1昇格の)準備が整った時に我々は機会を与える状況が整っていなかった」

 F1チームは大きな予算を持ち、頂点へと続くルートを手にしていることから、強力なバックグラウンドを持たない子どもたちに機会を提供したり、女性限定フォーミュラに10チームが参加し女性ドライバーのキャリアをサポートしたりと、フェアな競争の場を作り出さんとしている。

「ドリアーヌ・ピンや、より多くの女の子をモータースポーツに参加させようという取り組みは、我々にとって重要なプロジェクトだ」とラグルーは強調した。

「また、少年少女を問わず、できるだけ多くの若いドライバーにモータースポーツへのアクセスを開放することにも力を注いでいる」

「直近の例では、カート世界選手権を制したケンゾー・クレイギーと、オーストラリアから無一文でやってきて(カートをより身近なモノとすることを目的とした)昨年のチャンピオンズ・オブ・ザ・フューチャー決勝で優勝したジェームス・アナグノスティアディスにチャンスを与えた」

「我々はジェームスと契約し、彼は世界選手権でケンゾーに次ぐ2位となった。資金的に余裕がなくても、F1プログラムに参加することは可能だということを示している」

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