【F1特集】日曜日の朝からシグナルライトオフまで、グランプリの決勝日には何が起きている?
シグナルのレッドライトが5つ消えるとレースが始まるのはなぜ? スタート前にグリッド上の人たちは何をしている? レース週末の決勝日に何が起きているのかを紐解いていこう。
写真:: Jerry Andre / Motorsport Images
F1の決勝レースが始まる時、既にF1チームは何時間もの準備を終えている。ここがレース週末の本番であり、チームとドライバーが最高の状態でレースに臨むためには、正確なタイミングがカギになる。
そのためには何が必要で、F1チームはどのようなタイムスケジュールで決勝レースを迎えるのかを紐解いていく。
F1 trucks in the paddock
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
朝:レースへ向けた事前準備
チームクルーは午前7時30分頃にサーキットへ到着し、各チームのモーターホームで朝食を取る。決勝レースに向けた戦略会議は午前9時頃に行なわれ、土曜日の夜遅くまで様々なレースシナリオを検討していたストラテジストが理想的なレース戦略を提示する。
こうしたレース戦略は、過去のデータ(セーフティカー導入率やピットストップのロスタイム、ガレージの位置など)やフリー走行から得られたデータ、決勝グリッド、天気予報などを組み合わせて作成される。
ドライバーは決勝レース当日、ホテルで軽いウォーミングアップを行ない、スポーツマッサージを受けてからサーキットへ向かうことが多い。サーキットに到着してから決勝レーススタートまでの時間が長いため、FIA F2などのサポートレースを観て走行ラインやコースコンディションを確認したり、モーターホーム内の個人部屋で静かに過ごしたり、レースシミュレーションを頭の中で行なったりするドライバーもいる。
ドライバーは通常、決勝レースの2時間半前までに食事を済ませ、その後は水や電解質を含む飲料水で空腹をしのいでいる。
フォーメーションラップ開始90分前:レースブリーフィング
決勝レースの1時間半ほど前になると、チーム全員がガレージ内に集合。機密情報の保護と聞き取りやすさを確保するためにヘッドセットを装着し、決勝レースに向けたプランの説明を受ける。これには、スタート進行やピットストップのシナリオ、詳細な天気予報、F1やFIAなどによる組織的な変更等が含まれる。
開始60分前:ドライバーのウォームアップ/グリッド上での準備
この頃、ドライバーは自らの精神状態をリラックスしながらも”自信”という面でも仕上げることが重要になる。
それぞれが独自のルーティンを取っているものの、目の筋肉の運動に加えストレッチや垂直跳び、ボクシング、拍手腕立て伏せ、手足そして指に焦点を当てた反射神経の運動などといったアクティブなエクササイズが含まれる。
一方、グリッド上では各チームがスタート進行に向けタイヤや機材を搭載した台車を運び込み、発電機や冷却ファン(ドライアイスを用いてグリッド上に来たマシンを急激に冷却する)を準備する。
F1 generator on the grid
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
開始40分前:ピットレーンオープン
ピットレーンがオープンになると、マシンはピットを離れ“レコノサンスラップ”(もしくはインスタレーションラップ)を行なう。レコノサンスラップという名前は、予選と決勝の間にマシンを分解して組み立て直していた過去の名残だ。
かつてはフォーメーションラップが、マシンが正常に機能しているかを確認するために使われていた。現代F1では、予選Q1開始から決勝レース終了まではパルクフェルメルールが適応されるため、マシンのセッティングを変更することができない。そのためレコノサンスラップは、ドライバーがマシンやコースのコンディションを確認するためのモノとして使われている。
ドライバーは通常、マシンやコースコンディションのチェックのための周回を行ないピットへ。問題がなければ再びピットを出て、グリッド上で待機しているメカニックやエンジニア(1台につき最大42名)の元にマシンを届けることになる。
ドライバーはレコノサンスラップ終了後にグリッド後方にマシンを止める。待ち構えるメカニックがマシンをジャッキアップし、“ウィリーボード”をマシン底部に滑り込ませ、ダミーグリッドまでマシンを移動させる。
ダミーグリッドに着くとドライバー達は一度マシンから降り、傘を差したり、氷入りのタオルを肩にかけたりして身体を冷やす。緊張感を失わないようにグリッド上でのインタビューを断るドライバーもいれば、喜んでインタビューに応えるドライバーもいる。
多くのドライバーはヘッドホンやイヤホンで音楽に耳を傾け、決勝レースに向けた鋭気を養う。その中のひとりであるダニエル・リカルド(マクラーレン)はレース前に聞くプレイリストを公開している。彼のプレイリストでは、ヒップホップやワークアウトミュージック、ロック、EDMなど、最新のラップから90年代のエレクトロまでを網羅している。
ドライバーが好みの音楽を聞いている間、チームクルーはレース無線のチェックを行なう。レース無線には全員が聞くことのできるメインチャンネルと、チームごとに異なるグループチャンネルが存在し、チームマネージャーはドライバーと直接言葉を交わしながら、競技規則やスタート前の準備プロセスなどを逐一伝えている。
レース無線では、風の強さや角度などの最新の気象情報やレース戦略の変更点、タイヤ温度に関する指示やトラブルなどの情報が共有される。
グリッド上にいるクルー全員にやるべき仕事がそれぞれ割り当てられている。すべてが予め決定されているのだ。各マシンにはナンバーワン・メカニックとシニア・レースエンジニアが同伴し、そのふたりが共同責任者としてグリッド上でマシンに携わるチームクルーをまとめ上げる。
冷却ファンやタイヤブランケットをマシンに装着し、マシンの状態を確認するためにノートパソコンを繋ぐ。その他では、エンジニアはステアリングホイールのスイッチ類が決勝レースのスタートに向けて正しく機能するようにセットされているか、フロントウイングの角度が正しいかをチェックする。一方、パワーユニット(PU)を担当するエンジニアは、スタートシーケンスの準備を行なう。
誰もいないガレージ内には、決勝レース中にピットストップを待つメカニックが座る椅子が並べられている。
On the F1 grid
Photo by: Charles Coates / Motorsport Images
開始30分前:ピットレーンクローズ
チームはフォーメーションラップ開始30分までにマシンをピットアウトさせなくてはならない。これを超過した場合、ドライバーは予選順位によるグリッドではなくピットレーン出口から決勝レースのスタートを迎える事になってしまう。レコノサンスラップなどでのクラッシュにより直前までマシンを修復しなければならない時や、天候が不安定ながらもコース上にウエット宣言が提示されていない場合にレインタイヤを履くというギャンブルに打って出る時などに、こうした事態が実際に発生する。
ドライバーは一度ピットに戻ってトイレに行くなど、最後の支度を行なう。その様子は、時々テレビクルーに撮られることもある。その後はグリッド前方へ移動し、国歌斉唱や#WeRaceAsOneなどのセレモニーに出席する。
ここからサイレンとシグナルで、フォーメーションラップ開始10分前と5分前、3分前と1分前、15秒前の5段階で開始までのカウントダウンを行なわれる。
開始10分前:グリッド上クリア
特別ゲストやテレビクルー、ジャーナリストなどでごった返していたグリッド上の喧騒がウソのように、フォーメーションラップ開始10分前になると、多くの関係者がグリッド上から退場する。残るはドライバーとスタートクルー、FIAのオフィシャルのみだ。
ドライバーはレース前のルーティンを終え、マシンに乗り込む。例えば、セバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)はマシン左側から乗り込み、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)はマシン前方で祈りを捧げる。
エンジニアは、ミラーの位置を確認するなどの最後のシステムチェックを行なう。
Russian GP grid cleared
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
フォーメーションラップ開始5分前からフォーメーションラップまで:レッドシグナルのカウントダウン
グリッド前方の電光掲示板に吊り下げられた5つのレッドライトが、決勝レースに向けたカウントダウンを開始する。
フォーメーションラップ開始5分前の時点では、既にタイヤが装着され、それを温めるタイヤブランケットは電源から切り離されていなくてはならない(ただしタイヤに覆い被せておくことは許されている)。これが完了していないと、チームとドライバーはスタート手順違反としてペナルティを受けることになる。
残り3分となったところで、マシンスタートに不要なチームクルーと機材を積む台車はグリッド上から排除され、1台あたり16名以下のクルーがマシン周辺に残る。ピットウォールに設置されたタイミングモニターとラップトップの前には、ストラテジストたちが集結する。
開始1分前の合図が出されると、各マシンのPUが始動。タイヤブランケットがタイヤから外され、マシンがジャッキから降ろされる。
全てのチームクルーは、フォーメーションラップ開始15秒より前に、ドライバーとマシンを残し、全ての機材を持ってコース脇へ離れる必要がある。仮にマシンの周囲にチームクルーが残っていた場合、そのマシンはピットスタートを宣告される。
グリーンシグナルが点灯しフォーメーションラップが開始されると、全車は1番手グリッドを通過するまでピットレーンと同じ制限速度で走行する。
マシンがダミーグリッド上から走り去ると、コース脇にいたチームクルーはピットへ戻り、オープニングラップに起こりうるアクシデントに備える。
ガレージ内では、大勢のエンジニアがデータグラフやドット表示されたマシンが動くサーキットトラッカー、使用しているギヤ、国際映像やピット内のチームカメラからの映像が移し出された膨大な数のスクリーンや、それぞれのノートパソコンに目を向けている。
ここはチームのレースコントロールの中枢であり、まもなく始まる1時間半の決勝レースに向けて緊張感も高まってくる。
フォーメーションラップ
フォーメーションラップ開始時点で準備が全て完了したワケではない。この1周の準備が決勝レースのスタートへ向けた重要なカギになる。ドライバーは隊列に従い、オーバーテイクやスタート練習は許可されていない。しかし、タイヤを正常に機能する温度まで温めるためのウィービングは可能である。
エンジニアからの合図でドライバーはブレーキを温めるセッティングに変更したり、タイヤを温めるためにバーンアウトしたりと、グリッドに着く前までに一連の準備を行なう。
Bahrain F1 start
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
レーススタート
全車がグリッドに並んだことを知らせるグリーンフラッグがグリッド後方で振られると、5つのレッドシグナルによるスタートシーケンスが開始される。F1では、フライングのリスクを低減するために、このレッドシグナルのみでスタートを知らせるシステムが1996年から導入されている。レッドシグナルからグリーンシグナルへと変わる従来のシステムでは、レッドシグナルが消え、グリーンシグナルが点灯する前にフライングを犯すドライバーが多々見受けられた。
スタートシーケンスは自動化されており、FIAのレースディレクターを務めるマイケル・マシが各マシンに搭載された応答機からの全車整列完了を確認した後に始動される。1秒間にひとつずつレッドシグナルが点灯し、ドライバーにスタートが近づいていることを知らせる。
最後となる5つ目のシグナルが点灯するとフライングを検知するシステムが起動される。決勝レーススタートを知らせるシグナル消灯は、ドライバーに悟られないよう事前に設定されたランダムなタイミングで行なわれる。
5つのレッドシグナルが一斉に消えると、レースの火蓋が切って落とされる。
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