F1

成功に近道なし。苦労人マクニッシュがセナとアウディ重鎮から得た学び……F1レーシングディレクターの職務に活きる

アウディF1のレーシングディレクターを務めるアラン・マクニッシュ。アイルトン・セナやアウディのヴォルフガング・ウルリッヒ博士らから得た重要な教訓が今に活かされているという。

Filip Cleeren

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公開日時: 2026/08/17 10:46

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Allan McNish, Racing Director of Audi F1 Team

 ドライバー、そしてチーム首脳陣のひとりとして長年アウディを支えてきたアラン・マクニッシュにとって、アウディF1チームのレーシングディレクターに就任することは、これまで積み重ねてきた輝かしいキャリアの延長線上にあると言える。

 マクニッシュは若くしてF1テストドライバーを務めるも、実際にトヨタのドライバーとしてF1デビューを果たしたのは30歳を過ぎてから。その前後にはル・マン24時間制覇を3度経験した。引退後はアウディファミリーに残り、フォーミュラEのチーム代表を務めると、今季から参戦をスタートしたF1プログラムにも関わることになった。

 彼はmotorsport.comの独占インタビューの中で、マクラーレンで共にテストに参加したアイルトン・セナ、そしてアウディのレース部門責任者であるヴォルフガング・ウルリッヒ博士といったレジェンドから学んだかけがえのない教訓について語った。

motorsport.com:あなたのキャリアを振り返ると、アウディのF1レーシングディレクターになることは、これまで歩んできた道の集大成のように感じられます。アウディではドライバーとしてル・マンを3度制し、トヨタからF1にも参戦。その後はマネージャー業なども挟み、フォーミュラEではチーム代表にもなりました。

マクニッシュ「その通りだ。ドライバーというのは、あらゆる分野に関わることになる。エンジニアリング、戦略、タイヤ……プレスリリース作成に関わるという点では広報面にも関係があるし、スポンサーとの付き合いもある。ただドライバーの視野は、個人的な成功だけに向いている。チーム全体に関わるようになると、当然もう少し広い視野を持って物事を見る必要がある。もちろん、レースが終わればこれまでと同じ成功の尺度(つまり結果)で測られることになるが」

「ハイレベルなドライバーとしてのキャリアを歩んだ人間は非常に幅広い経験を持っているが、優れたサッカー選手が必ずしも優れた監督になるわけではないのと同じで、ドライバーの経験が必ずしもマネジメントにうまく生かせるとは限らないと思う。ただ私は幸運にも、フォーミュラEで非常に良い経験を積むことができたし、アウディで長年にわたっていろいろな仕事をしてきた。アウディではヴォルフガング・ウルリッヒ博士やディーター・ガス、そしてF1ではここでマッティア・ビノットからも学んだ。そういう意味で私は素晴らしい教授たちから教えを受けたと言える」

キャリア初期の話をすると、あなたは1989年のイギリスF3でランキング2位となり、マクラーレンのテストドライバーになりました。そしてエストリルで、ほかならぬアイルトン・セナとともにマクラーレンF1のテストを行ないましたね。19歳の青年がセナと一緒にF1マシンをテストするというのは、かなり衝撃的な経験だったのでは?

Allan McNish, McLaren

Allan McNish, McLaren

Photo by: Pascal Rondeau - ALLSPORT - Getty Images

「マカオGPに出る直前だったね。でも当時はそんなことを考えていなかった。確かに世界チャンピオンのアイルトン・セナがいて、マクラーレンも当時の世界チャンピオンだった。でも自分はとにかくそこに行って走っただけ。覚えているのは、『なんだこれは、速すぎるだろ!』と思ったことだ」

「アイルトンはエンジンのフリクションや、その他いろいろなことについて話していた。そこで僕はすぐに気づいたんだ。この世界で成功したいのなら、レベルが上がるたびに、自分自身も一段階上へ行かなければならない、とね。才能だけでは限界があるから、仕事への意欲と細部にこだわる姿勢が必要なんだ。これはドライバーとしての経験だが、人生のどんなことでも同じだと思う」

「あれは僕にとって大きな学びになった。今でもエストリルでのデータをプリントアウトして持っている。当時は今みたいにデータを比較できるわけじゃなくて、2枚の紙をつなぎ合わせて、光にかざして見るようなものだったんだ。それになんてたって、当時はクラッチペダルがあったんだから!(笑)。ステアリングのボタンもふたつしかなかった。当時のマシンはさながら恐竜のように昔のモノだ」

Allan McNish, McLaren

Allan McNish, McLaren

Photo by: Sutton Images via Getty Images

あなたのキャリアはモータースポーツ界では異例でしたね。ル・マンで初優勝した4年後、32歳でトヨタからF1デビュー。

「いやはや、間違いなく王道なルートではなかったよ。しばらくは真っすぐ進んでいたんだけど、そのあと少し左に曲がったり、右に曲がったりしてね……。でも面白いことに、そういう経験があったからこそ、違ったレベルの経験値を得られたと思っている。調子の悪い日やシーズンを経験したときに、そこから立ち直る力が身についた。誰だって毎年勝てるわけではないから、そこからどうやって立ち直るかが重要になる」

「キャリアの中で、そういう逆境を跳ね返す力に頼らなければならない時が何度もあった。そしてそれは、チャンスが巡ってきた時にそれをしっかり掴み取って活かすという点でも役に立った。確かに、1989年10月に19歳で初めてF1のテストをしたときから、2002年3月にF1のグリッドに並ぶまで13年もかかったんだ……」

ただその間、あなたは多くのF1ドライバーの一生分の走行距離よりも長くF1マシンで走り込んでいるわけで。

「間違いない。ベネトンも含めると、2万kmか3万kmはテストしたんじゃないかな。振り返ってみると、F1にたどり着くのが10年遅かったかもしれない。その間に色々なレースで勝ったけど、32歳でF1に初参戦するのは理想的ではなかった」

Allan McNish, Toyota Racing Team

Allan McNish, Toyota Racing Team

Photo by: Rainer Schlegelmilch / Getty Images

アウディでル・マンを戦うのはどんな経験でしたか? 先ほどウルリッヒ博士から受けた影響についても話していましたが、彼と仕事をする中で何を学びましたか?

「ウルリッヒ博士は、レースというのはテクノロジーだけでなく、人が大きな意味を持つものだということをよく理解していた。彼はヒトに長けたチームを作ることに力を注いでいて、それぞれの人間が持つ特徴や性格が、どう組み合わさるのかを理解していた。それは自分にとって、間違いなく大きな魅力だった」

「F1の後にアウディに戻ることはかなり早い段階から明らかだった。何かが紙に書かれていたわけじゃない。でも、そういう形で自然とまとまったんだ。そして(ル・マンは)勝ったか負けたら、白黒ハッキリつく。負けたら家に帰って、誰かのせいにすることもない。ただ、次に勝つための解決策を見つけるために、仕事を続けていた」

Dr Wolfgang Ullrich and Allan McNish, Audi

Dr Wolfgang Ullrich and Allan McNish, Audi

Photo by: Jean-Francois Monier / AFP via Getty Images

「これは実際、私がキャリアを通じて一緒に仕事をしてきた優れた人たちのほとんどに共通していたことだと思う。長期的なビジョンを持って、大きな努力を積み重ねることなしに、短期的な成功を手にすることはできない。アウディのル・マン・プログラムは、その完璧な例だった。そしておそらくそれが、今の僕の仕事にもつながっている最大の教訓だと思う。特にF1は、競争がものすごく激しいから、近道なんてない」

私の記憶では、確かあなたは以前チーム代表になることに興味がないと言っていましたよね。コクピットにいる、あの自分勝手な連中を相手にするのが嫌だったから、と。

「正直に言えば、僕みたいな人間のことだよ!(笑) 実際、その通りなんだ。チームを運営するというのは、かなりの時間と労力を費やす仕事だからね。ドライバーだった頃、自分がチームにどれだけ多くのことを要求していたかは自分でも分かっている。だから、こう思ったんだ。『おいおい、俺はこれまでドライバーとして生きてきたのに、今度はその反対側に立つっていうのか?』って。ただそれも、何事にも絶対はないという教訓になった」

「フォーミュラEでチーム代表の話が出てきたときは、実際かなり驚いた。私は当時、ウルリッヒ博士とディーター・ガスのために、フォーミュラEについて調査をしていた。どうやれば参戦できるのか、どんなチャンスがあるのか……それをとある場所でプレゼンした。壁には表が書かれていて、いくつか空欄があった。その中に『チーム代表』という項目もあったが、彼らが『そこはアランだ』って」

「自分のほうからドアをノックして、チーム代表の仕事を求めたわけじゃない。むしろ逆だった。彼らが、僕自身が気づいていなかった何かを見つけてくれた。それはすごく嬉しいことだった」

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