【特集】F1のオーバーテイク史:そもそもオーバーテイクって何だ? 最多回数を記録したレースやドライバーは?

オーバーテイク回数が最も多かったF1レースは何? 最もオーバーテイク回数の多いドライバーは誰? データを振り返ってみよう。

【特集】F1のオーバーテイク史:そもそもオーバーテイクって何だ? 最多回数を記録したレースやドライバーは?

 オーバーテイク回数は“良いレース”の指標のひとつとしてファンに親しまれている。その是非は置いておいても、オーバーテイクが多いということは、コース上でのアクションが多いということ。つまり、刺激的なレースになるということだろうか……?

 2021年のF1には新たに「オーバーテイク賞」が設置され、シーズン中で最もオーバーテイクの多かったドライバーが表彰される。接近したバトルの多い中団グループのドライバーが必然的にリスト上位を占めることになり、賞の新設によりオーバーテイクが格段に増大することもないが、ここからF1がコース上でのアクションをよりフィーチャーしたいという意図が見て取れる。

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 ただ、必ずしも「オーバーテイクの多いレース=良いレース」ではない。一体誰が、2018年のモナコGPで、ダニエル・リカルド(当時レッドブル)がパワーユニットに大きなトラブルを抱えながらもトップを守りきったシーンを見て、面白くなかったなどと言うだろうか? 同じことが、タイヤの性能劣化が限界に達しながらもルイス・ハミルトン(メルセデス)が勝利を飾った翌2019年のモナコGPにも言えるだろう。

 そして、時にディフェンスはオーバーテイクと同じくらい刺激的になるモノだ。2005年サンマリノGPでのフェルナンド・アロンソ(当時ルノー)とミハエル・シューマッハー(当時フェラーリ)との攻防はもはや伝説と化している。

 とはいえ、F1では順位に全く変動がないレースほど忌み嫌われるモノはない。だからこそ、リヤウイングのフラップを稼働させ空気抵抗を軽減するドラック・リダクション・システム(DRS)が2011年からF1に導入されたのだ。DRS導入後、すぐさまオーバーテイク回数は上昇。導入から4戦目の2011年トルコGPでは、58周のレースで79回のオーバーテイクが展開され、当時の最多オーバーテイク回数を塗り替えた。

 DRSについてオーバーテイクを簡単にし過ぎていると捉えている人も少なくない。2022年からF1に導入される新たな技術規定は、走行するマシン後方に流れる乱気流を低減することで、前車への追従を容易にすることを目標に据えている。マクラーレンのマシンデザインを担うテクニカル・ディレクターのジェームズ・キーは、規定変更により「DRSの影響力が小さくなる」と考えている。

George Russell, Williams FW43 overtakes Romain Grosjean, Haas VF-20 whislt he overtakes

George Russell, Williams FW43 overtakes Romain Grosjean, Haas VF-20 whislt he overtakes

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

そもそもオーバーテイクとは?

 オーバーテイクは単純に、あるマシンが他のマシンを追い越すことだと捉えている人もいるかもしれないが、データとして回数を数える上でのオーバーテイクは定義が異なる。まず、オーバーテイクはフライングラップ(コース上のコントロールラインを通過したラップ)でのみであり、オープニングラップでの順位変動が技術的にカウントされることはない。

 また、オーバーテイクは抜いた状態をそのラップのゴールラインまで維持しなければ記録されない。例えば、あるマシンが他のドライバーを抜いたものの、そのラップを完了する前に抜き返されてしまうと、記録されるオーバーテイク回数は2回ではなく0回になってしまう。

 そして、オーバーテイクは順位変動に関する動きでなくてはならない。バックマーカーを周回遅れにしたり、逆にバックマーカーが周回遅れからリードラップへ戻ったりしても、オーバーテイクとしてはカウントされない。加えて、オーバーテイクはコース上のアクションを前提としており、アンダーカットやオーバーカットなどピットストップによる順位変動は対象外だ。

 この理由は、1周ごとに順位が記録されるラップチャートを作成することで、過去のレースとの比較が容易になるからだ。ラップチャートを見ることでいつ順位変動が起きたかをひと目で把握することができるのだ。

Daniel Ricciardo, Red Bull Racing RB12 leads

Daniel Ricciardo, Red Bull Racing RB12 leads

Photo by: Red Bull Content Pool

ドライコンディションでの最多オーバーテイク回数- 161回:2016年中国GP

 非公式ではあるが、ニコ・ロズベルグ(当時メルセデス)が勝利を飾った2016年の中国グランプリでは161回のオーバーテイクが見受けられた。回数がこれほど多くなった要因のひとつに、上位勢がグリッド後方からスタートしたことが挙げられる。予選でMGU-Hのトラブルに見舞われたハミルトンは後方からのスタートを強いられ、キミ・ライコネン(当時フェラーリ)はチームメイトであるセバスチャン・ベッテルとの接触によるフロントウイングの破損でピットインを余儀なくされた。接触したベッテルも順位を落とし、トップを走っていたリカルドもパンクにより17番手へと転落した。

 また22台すべてのマシンがチェッカーフラッグを受けたこともこの数値を押し上げた要因だろう。2016年の中国GPはリタイヤゼロで終わった数少ないレースのひとつだ。全員が最後まで走りきったことで、相対的にオーバーテイク回数も増えることになった。

Fernando Alonso, Ferrari F2012, leads Sebastian Vettel, Red Bull RB8 Renault

Fernando Alonso, Ferrari F2012, leads Sebastian Vettel, Red Bull RB8 Renault

Photo by: Andrew Ferraro / Motorsport Images

ウエットコンディションでの最多オーバーテイク回数- 147回:2012年ブラジルGP

 タイヤサプライヤーのピレリによると、2012年シーズンの最終戦ブラジルGPでは147回ものオーバーテイクが展開され、ウエットコンディション下では最多オーバーテイクを記録したレースとなった。

 ドライとウエットが入り交じる複雑な路面コンディションがインテルラゴス・サーキットで行なわれたこのレースをスリリングなモノへと変えた。ドライバーズランキング首位のベッテル(当時レッドブル)はレース1周目でスピンを喫し、最後尾からの挽回を強いられた。その年のタイトルを争ったアロンソ(当時フェラーリ)はジェンソン・バトン(当時マクラーレン)の後ろ2位でフィニッシュしたものの、ベッテルが6位まで猛追したことで、わずか3ポイント差で3年連続の戴冠を果たした。

 このレースでは、ニコ・ヒュルケンベルグ(当時フォース・インディア)がラップリードを記録したことでも知られている。ヒュルケンベルグは18周目でバトンから首位を奪ったものの、そのチームメイトであったハミルトンに30周後その座を明け渡した。ヒュルケンベルグは54周目に再び首位を奪うべくハミルトンの前を伺うもマシンコントロールを失い、ふたりは接触しリタイア。ヒュルケンベルグとしてはF1初優勝&初表彰台の夢が潰えた瞬間でもあった。

 チェッカーフラッグ目前の残り3周という時点で、ヒュルケンベルグのチームメイトだったポール・ディ・レスタが最終コーナーでクラッシュ。レースとチャンピオンシップ争いはセーフティカー先導で終わりを迎えることとなった。

Jackie Stewart, BRM P261, leads Jim Clark, Lotus 33-Climax at the 1965 Italian Grand Prix

Jackie Stewart, BRM P261, leads Jim Clark, Lotus 33-Climax at the 1965 Italian Grand Prix

Photo by: Motorsport Images

オーバーテイクによる最多首位交代- 41回:1965年イタリアGP

 モンツァ・サーキットで行なわれた1965年のイタリアGPでは、76周のレース中に41回もトップが入れ替わり、F1史上最も多くの首位交代が行なわれたレースと言われている。

 ジャッキー・スチュワートとグラハム・ヒル(共にBRM)、ジム・クラーク(ロータス)、ジョン・サーティース(フェラーリ)と4人のイギリス人ドライバーが、高速サーキットでのスリップストリームを活かし首位を争った。

 最終的には、スチュワートがチームメイトのヒルに3秒以上の差を付けてトップチェッカー。クラークとサーティースはマシントラブルによってリタイアとなった。

The start of the race with only six cars

The start of the race with only six cars

Photo by: Steve Swope / Motorsport Images

レース中の最小オーバーテイク回数- 0回:2003年モナコGP、2005年アメリカGP、2009年ヨーロッパGP

 F1が世界選手権として発足した1950年から、レース中に1度もオーバーテイクが展開されなかったレースはたった3つである。それも2003年のモナコGPからバレンシアで行なわれた2009年のヨーロッパGPまでの6年間の間の出来事だ。

 インディアナポリス・モーター・スピードウェイで行なわれた2005年のアメリカGPはたった6台のみが決勝グリッドに並ぶという”インディゲート”で知られている。ラルフ・シューマッハー(当時トヨタ)のクラッシュを始めフリー走行からミシュランタイヤを履くマシンにタイヤトラブルが続発。ライバルであるブリヂストン勢とミシュラン勢、そしてFIA間での政治的軋轢にまで問題は発展し、フェラーリとジョーダン、ミナルディ以外のチームはフォーメーションラップ後にマシンをピットへ戻した。ドライバーの安全を確保すること、そしてブリヂストン勢との折り合いをつけることもできず、ミシュラン勢はレースを棄権することを選択したのだ。この中途半端な対応は、会場に詰めかけた多くのファンを激怒させた。

 また、バルテリ・ボッタス(メルセデス)がF1初優勝を遂げた2017年のロシアGPで記録されたオーバーテイクは、52周でわずか1回に留まった。

Max Verstappen, Red Bull Racing, 1st Position, celebrates on the podium

Max Verstappen, Red Bull Racing, 1st Position, celebrates on the podium

Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images

ひとりのドライバーによるシーズン最多オーバーテイク回数- 78回:マックスフェルスタッペン(2016年)

 マックス・フェルスタッペンにとって2016年は大きなターニングポイントになった。シーズン序盤に姉妹チームのトロロッソ(現アルファタウリ)からレッドブルへと昇格し、レッドブルでのデビュー戦となったスペインGPでF1初優勝を遂げた。ロズベルグとハミルトンの1周目の同士討ちもあったが、当時18歳のフェルスタッペンはベテランに引けを取らない走りを見せ、2ストップ戦略を採ったキミ・ライコネン(当時フェラーリ)を振り切った。

 2016年シーズン終了時にピレリがまとめたデータによると、フェルスタッペンは全21レースで78回のオーバーテイクを記録した。78回のうち18回がトロロッソで残り60回がレッドブル。レース毎に平均3.7回のオーバーテイクを展開したことになる。当時のチームメイトであったダニエル・リカルドも年間61回を記録しており、もしフェルスタッペンの躍進がなければ彼が最多オーバーテイク回数のレコードを持っていただろう。

 フェルスタッペンがレコードを破る前は、2012年のベッテル、2003年のミハエル・シューマッハー、1984年のニキ・ラウダ(当時マクラーレン)の3人がシーズン通算60回のオーバーテイクを記録しトップに君臨していた。2013年にはフェリペ・マッサ(当時フェラーリ)とマーク・ウェバー(当時レッドブル)が59回を記録し、惜しくも記録更新には届かなかった。

 2012年にはジャン-エリック・ベルニュ(当時トロロッソ)が58回を記録。2016年にはセルジオ・ペレス(当時フォース・インディア)が56回を記録し、ライコネンが2013年に記録した数字に並んだ。

 2021年シーズンは22戦へと開催数が拡充された上、タイトル争いに加えて中団グループ内での争いも激化している。暗号通貨を扱うCypto.comのバックアップにより新設されたF1オーバーテイク賞の受賞争いでは、第18戦メキシコGPを終えた段階でベッテルとアロンソが既に100回の大台を突破。フェルスタッペンの記録が破られることは確実となっている。

Sebastian Vettel, Red Bull Racing RB8, leads at the start of the race at the 2012 Japanese GP

Sebastian Vettel, Red Bull Racing RB8, leads at the start of the race at the 2012 Japanese GP

Photo by: Motorsport Images

シーズン毎の最多オーバーテイク回数- 870回(2012年)

 フェルスタッペンがシーズン最多オーバーテイク回数記録を更新した2016年は、21レースの間にグリッド全体で866回のオーバーテイクが行なわれた。

 ただこの記録が最多記録に及ぶことはなかった。全20戦で行なわれた2012年はグリッド全体で870回のオーバーテイクが展開され、1レース毎の平均オーバーテイク回数は43.5回と、DRS導入初年度の平均43.2回をわずかに上回った。

 1レース毎の平均オーバーテイク回数は、レース中の再給油が解禁された1994年に顕著に低下し、18.1回と前年の24.5回を大幅に下回っていた。そこから、1レース毎の平均オーバーテイク回数は10台前後を推移していたが、2010年に給油が廃止されると2009年の平均13.2回から平均23.8回へと一気に回数は上昇した。

 2022年のF1には大きく変更が加えられたテクニカル・レギュレーションが導入される。F1は”グランド・エフェクトカー”の復活によりマシンの後方乱気流の発生を低減させることで、より接近したバトル、そしてオーバーテイクの増加を目指している。F1の思惑通りにことが進めば、上記の最多記録が過去のモノになるかもしれない。

 
 
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