コラム
F1 アブダビGP
海外F1記者の視点|角田裕毅を起用するのが、レッドブルにとって最も理論的な結論……しかしそうなりそうもない理由は何なのか?
【オレグ・カルポフのコラム】通常は速いが、時には激昂する……角田裕毅をF1トップドライバーと呼ぶには、現時点ではおそらく少し誇張しすぎだろう。しかし現在の状況では、レッドブル・レーシングの次期ドライバーとして相応しいのは彼だけであり、他の誰でもない。

Oleg Karpov
編集: 2024/12/07 1:24
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本当にセルジオ・ペレスがレッドブルを追い出されたら、あるいはペレス自ら身を引くことを決断すれば(後者になる可能性は低いと思われるが)、F1アブダビGP決勝翌日の月曜日にチーム代表のクリスチャン・ホーナー、モータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコ博士、そして同チームの株主の間で行われる会議で後任として指名されるのは、現RBのリアム・ローソンである可能性が高いと思われる。
確かにローソンは堅実なドライバーである。パドックでは、レッドブルの幹部たちは、ローソンがプレッシャーがかかった時に力を発揮する能力を高く評価しているという噂が流れている。実際、昨年も今年も、ローソンはシーズン途中からのF1参戦だったが、しっかりとパフォーマンスを発揮してみせた。ローソンはどんな状況に置かれても、考えすぎたり無理をしたりはしない人物だという印象であり、マックス・フェルスタッペンのチームメイトを選ぶならば、確かに素晴らしい資質を持ったドライバーであるように思える。自信に満ち、冷静で、良い意味で単純なのがローソン……そう言うことができるかもしれない。少なくともレッドブル陣営からは、そういう声が聞こえてくる。
「正直に言うと、僕はいつものようにレースに臨む。彼らに何かを見せるために何か特別なことをしたり、特別な形で行動したりしようとしているわけではない」
ローソンはアブダビGPの木曜日にそう語った。
「僕はただ、マシンに乗ってベストを尽くそうとしてるだけだ。いつもそうだ。それが気に入るかどうか、それは彼ら(レッドブル)が決めることだ」
「長い間、ジュニアチームに所属している。レッドブル陣営での6年目が、終わりを迎えようとしているんだ。プレッシャーは、このチームに加わった瞬間からあった。当時僕は16歳で、それまではそういうプレッシャーを感じたことはなかった。レースシーズンが始まる時に、そういうプレッシャーを感じるとは思ってもいなかった。レッドブル陣営に長く在籍したことのメリットのひとつは、ある意味ではそれがF1への準備、F1へのステップアップに繋がるということだと思う。若い頃からそういうプレッシャーを経験するのは大変だけど、長い期間にわたってそれを経験できたことに感謝している」
しかしそれでも、今回のアブダビGPはローソンにとってF1で11回目のグランプリでしかない。ドイツツーリングカー選手権(DTM)でランキング2位、スーパーフォーミュラでランキング2位、FIA F2の2年目でランキング3位という成績を残しているものの、これはまずまずという実績。しかし率直に言って、まずまず以上とは言えない。
一方、今季のローソンのチームメイトである角田裕毅のジュニアカテゴリーのキャリアも、他のドライバーと比べれば特に輝かしいものではない。ただ、FIA F2でのランキング3位という角田の成績は、ローソンのように参戦2年目ではなく、参戦1年目で達成したことというのは、特筆すべきである。しかも角田は、渡欧2年目での成績だったのだ。それまで過ごしてきた日本とは全く異なるコース、全く異なる文化の中でそういう成績を残したことは、より印象的だったと言えるはずだ。
Yuki Tsunoda, RB F1 Team, Liam Lawson, RB F1 Team
Photo by: Red Bull Content Pool
さらに角田は、レッドブルのジュニアチーム(つまりアルファタウリやRB)で4年目のシーズンを終えようとしている。そしてチームメイトとなった直近の3人(ニック・デ・フリーズ、ダニエル・リカルド、そしてローソン)を、獲得ポイントと予選順位の両方で上回っているという事実もある。
しかしF1のパドックでは、チームメイトよりも速かった角田よりも、F1でわずか10戦しかレースの経験がないローソンが、レッドブルのドライバーとして指名される可能性が高いという声が大きい。
角田にとってそのことは、本当に不可解で、苛立たしいことだろう。特にメディアと向き合う時には、困惑し、苛立っているように見えた。
アブダビGPの木曜日にメディアの取材に応じた際、彼はいくつかの質問に答える前に、本当に真剣に考え込まなければいけなかった。
「パドックの外で語られているのは、あのチームへのあなたの道は閉ざされているということだ」
「それは公平な評価だと思う?」
あるジャーナリストは、彼にそう言う。
そして角田の答えは、彼自身も外部の人たちよりもそれほど多くのことを知っているわけではないことを示唆していたように感じられた。
「僕は……つまり第一に、僕らはあまり頻繁に話していたわけではないということです」
彼はそう答えるしかなく、困惑しているようにさえ聞こえた。困惑しているのはその質問に対してではなく、4シーズンにわたって着実に進歩してきたにも関わらず、レッドブルへの道が”妨げられている”とうことを信じている人が、実際にいるということについてであろう。
「僕らは、あまり会うことはなかったんです」
そう角田は言う。
「でもわかりませんが、そう(レッドブルへの道は閉ざされている)とは思いません。クリスチャンに会った時、彼は『君のことを見ているよ』とか、僕のことを忘れていないというようなことを言っていたと思います。だから僕は……その道が完全に閉ざされているとは思いません」
そして彼はこう付け加えた。
「そうであることを願っています」
Yuki Tsunoda, Visa Cash App RB F1 Team, talks to Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing and Red Bull GmbH co-owner Mark Mateschitz
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
角田に関しては、感情のコントロールが課題だと語られてきた。無線で叫び声を上げ、感情に任せてコントロールを失う……そう言われ続けてきた。確かに1年目は、そういう側面もあったかもしれないし、今も無線の一部でそういう面が垣間見えることも否定できない。
しかし、そういうのは彼だけなのだろうか? レッドブルの首脳陣が全ての基準だとしているフェルスタッペンは、今年のハンガリーGPの際にほとんど我を失ったように無線で叫んでいた。レースエンジニアに暴言を履き、ハミルトンと接触したではないか。
ドライバーが感情に支配されてしまうのは、時々あることだ。そしてそれは、誰にでも起こり得ることだ。しかし角田の場合だけは、それは許されていないようにも見える。無線のボタンを押し、実際に声を荒げる頻度に関係なくだ。
「その部分で僕は確実に進歩しました」
角田はそう言う。
「去年そう言われたのなら納得できます。でも、今年はかなり進歩したと思うんです。そして正直に言って、感情を完全にコントロールできなくなったことはあまりありません。そう言われたとしても、僕はそうだとは思いません」
「何人かのドライバーが感情をコントロールできなくなったのを見ましたが、それは放送ではあまり取り上げられませんでした。だからそうですね……多くのレースで自分がコントロール不能だったとは、必ずしも感じていないです」
角田が怒りのせいで好成績を失ったのは、昨年のメキシコGPまで遡らねばいけない。角田本人が後に明かしたように、そのレースでは自分の能力を証明したかったのだ。彼は当時、PU交換のペナルティによりグリッド最後尾からスタート。しかしハイペースで飛ばし、マクラーレンのオスカー・ピアストリにプレッシャーをかけた。
しかし角田はクラッシュし、無線で叫んだ。しかしそのミスは、当時のリカルドが「角田にコンスタントに勝てば、再びフェルスタッペンのチームメイトになるだろう」と言われ続けてきたことに対する怒りから来たものだったと言える。当時は、角田がリカルドに勝ち続けた時のことは、ほとんど何も触れられなかったのだ。そして実際に角田がリカルドを打ちまかした時、世界は「もう以前のリカルドではないね」と決めつけ、角田を評価することはなかった。
Yuki Tsunoda, RB F1 Team VCARB 01
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
角田はそれ以前にデ・フリーズを打ち負かした。しかしパドックでは、「デ・フリーズはF1に向いていなかった」と結論づけられた。デ・フリーズは、ウイリアムズからのデビュー戦でいきなり入賞したり、F2でチャンピオンになったドライバーなのにだ。さらに言えば、フォーミュラEの世界チャンピオンである。
そして今も角田は、予選での直接対決でローソンをはるかに上回り、獲得ポイントでも上回っている。
ローソンの場合は、”軌跡”とか”潜在能力”という面で語られることが多い。確かに、改善の余地はあるだろう。彼の能力がが全て見えたということはあり得ない。しかし同じ理論で言えば、彼の最大能力が、フェルスタッペンに匹敵するものだという保証もない。
しかしローソンは、落ち着いていて自信に満ちている。プレッシャーに悩まされることはないだろう。しかし単に遅いだけならば、心配する必要はそもそもないだろう。
結局のところ、感情的すぎるという評価だったとしても、そして不安定だったとしても、とにかく角田はチームメイトを予選で上回り続け、獲得ポイントの面でも上回っている。チームメイトを”完膚なきまでに叩きのめす”わけではないが、完全に打ちまかしてきた。
「チームメイトとのパフォーマンスを比較すると、それは明らかです。僕の今年の実績から、僕がチャンスを得るべきだということは明らかだと思います」
角田はそう言う。
「でも、分かりません。それは彼ら(レッドブル)次第です。F1は政治的なスポーツでもありますから、何が起きるか分かりません、ここでの最終戦がかなり重要であることは確かですが、僕にとってはこれまでの全てのレースが非常に重要だったと感じています。最初のレースからダニエルと戦い、もしダニエルに負けていたら、今頃はソファに座ってゆっくりしているような人になっていただろうと思います」
もちろん角田にはミスもあった。メキシコの予選Q2ではクラッシュし、その週末に大量ポイントを獲得するチャンスを台無しにした。チームにとってもこれは痛手だった。このことは、チームメイトとシニアチーム昇格に向けて争っている段階では、痛恨であった。
この事例は、角田がプレッシャーに対処するのがあまり得意ではないことの証拠とも言える。そして決勝では好スタートを決めたが、他車とクラッシュして即座にリタイアとなった。この動きも、未熟さの現れだとみなすことができる。
しかしその週末に起きたことは、まだ角田には、F1のトップチームで戦うだけの準備が整っていないということ以上のことは語っていない。そういう意味で彼は、今年レッドブルのマシンを走らせる最善の選択肢ではなかったかもしれない。ただ、レッドブルが本当に実績のあるドライバーを求めていたのなら、フェラーリを離れるカルロス・サインツJr.がウイリアムズと契約することなどなかったのではないか?
Carlos Sainz, Scuderia Ferrari
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
「6ヵ月もの間、レッドブルは僕を起用できる立場にあった。でも、彼らは僕を選ばなかったんだ」
サインツJr.は最近、F1のポッドキャストでそう語った。
「それはレッドブルが、今必要としているタイプのドライバーに、僕が合わないと判断したからだと思う。それは全く問題ない。むしろ彼らは、僕に恩恵を与えている」
それこそが、レッドブルが解決しようとしている問題だ。理想的なセカンドドライバーは、多くの条件を満たす必要がある。速くなければならないが、同時に速すぎてもいけない。フェルスタッペンにプレッシャーをかけたり、たとえ年間数レースだけであったとしても、フェルスタッペンからポイントを奪うようなことはあってはならないのだ。野心的でなければいけないが、フェルスタッペン陣営を動揺させるほど野心的であってはならない。そして冷静で自信があり、一貫性もなければいけない。
そういう意味では、サインツJr.は彼らが求めているようなタイプのドライバーではないし、角田もそれには当てはまらない。ローソンもそうではない……経験不足であることを考えればなおさらだ。そういうドライバーは、おそらく実際には存在しない。
しかしホーナー代表とマルコ博士が、RBのドライバーのうちいずれかをレッドブルに昇格させることを選択しなければならないとしたら、それは角田でなければならない。ローソンをフェルスタッペンのチームメイトとして放り込むことは、これまで彼らが何度も犯してきたのと、同じ過ちになりかねない。2015年にダニール・クビアトをシニアチームに昇格させたが、その時点ではF1で1シーズンと、経験があまりにも不足していた。ピエール・ガスリーも、1シーズンと少しでレッドブルのドライバーとなったが、それでは十分ではなかった。アレクサンダー・アルボンの事例も同様だ。
角田は4年以上にわたってF1を学び、常に向上できることを証明してきた。そして、過去2年にわたってチームメイトを務めたドライバー全員に勝ってきた。そういう人物を陣営の中に抱えながら、ローソンを起用して以前と同じ道を辿るのは、まったく意味をなさないことだ。
角田のこれまでの努力に報いることこそ、間違いなく現時点で唯一の理論的な選択だと言える。そしてもし角田がレッドブルのシートを手にできなかったのならば、それがその理由なのかもしれない。
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