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実は大きな可能性を秘めていた……フェラーリF92Aが”駄馬”と言われた本当の理由

フェラーリは現在、タイトルを争うトップチームの一角を占めている。しかし約30年前、同チームが置かれている立場は、今とは全く異なるモノだった。F92Aは高いパフォーマンスを発揮できず……その理由は何だったのか?

Ferrari F92A flows

 F1世界選手権初年度から参戦を続けている唯一のチームであるフェラーリ。その歴史の中には困難な時期も度々あった。

 そんな中でも最も厳しいシーズンだったのは、1992年だった。この年のマシン”フェラーリF92A”は、パフォーマンスを全く発揮できなかった。サーキット以外での混乱、信頼性不足……そういった様々な要因もあり、表彰台はわずか2回。獲得ポイントもわずか21だった(当時の入賞は6位まで。1位は10ポイント)。

 しかし、マシンは意欲作だった。ダブルフロアを始めとした各所の空力処理は、実に独創的なものだった。ただ当時はパフォーマンスを発揮できなかったことで批判の的となった。

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 F92Aのドライバーだったジャン・アレジにインタビューをしたところ、当時何が起きていたのか、その新しい視点が明らかになった。そこでデザイナーのひとりであるジャン-クロード・ミジョーの助けも借り、F92Aの実情を振り返ってみようと思う。

 簡単に言えば、低いパフォーマンスの原因はシャシーにあったのではなく、V12エンジンにあったと言える。アレジはmotorsport.comに対し、次のように語った。

「エンジンはブローバイに悩まされていた。つまり、燃焼室のピストンリングから、オイルが漏れていたんだ」

「これにより、40〜50bhpが失われていた。しかしフェラーリの伝統によって、それがV12エンジンのせいだとは言えなかった。代わりに、問題はクルマに起因するモノとされていたんだ。コンセプトは面白かったのに残念だ」

Ferrari F92A (644) 1992 exploded detail view

Ferrari F92A (644) 1992 exploded detail view

Photo by: Giorgio Piola

Ferrari F92A double floor

Ferrari F92A double floor

Photo by: Giorgio Piola

 フロアの上、つまり2階部分にはジェット戦闘機のようなサイドポッドが取り付けられているF92A。この新しく、大胆な空力パッケージが、失敗の原因であると考えるのはあまりにも簡単だ。しかもその考え方と外観は、グリッド上の他のマシンとは大きく異なっていた。

 当時、ダウンフォースが発生した際にフロアがたわんでしまうことで空気抵抗が不安定になり、マシンのコントロールが難しくなると示唆された。しかしミジョーはそうではなかったと語る。

「このマシンは新しいV12と新しいシャシーを備え、非常に革新的なモノだった。しかし問題は機械面にあった。ブローバイによって引き起こされた、エンジン出力の不足が問題だったのだ」

 そうミジョーは語る。

「レースを走り切るための十分なオイルを搭載するために、追加のオイルタンクを使う必要があった。それは新しいモノショックのフロントサスペンションのセットアップを、さらに困難なモノにするだけだったのだ」

Ferrari F92A mono shock

Ferrari F92A mono shock

Photo by: Giorgio Piola

 同年、スクーデリア・イタリアは1年落ちのフェラーリV12を手にし、最高速向上に繋げた。そのシーズンの途中で、気付きのタイミングが訪れたという。

 ミジョーは語る。

「我々はジャン・アレジと共に、高速サーキットでテストを行ない、なぜ最高速が優れなかったのかを調べた」

「チームは前の年のエンジンをマシンに取り付けた。そしてアレジは、そのマシンがよりパワーがある、別のマシンのように感じられることをすぐに理解したんだ……」

Ferrari F92A -F93A section comparison

Ferrari F92A -F93A section comparison

Photo by: Giorgio Piola

 F92Aを翌年用のF93Aと比較すると、ダブルフロアを実現した関係上、エキゾーストパイプの位置を高くする必要があったことが分かる。そしてラジエターは、高さの不足を補うために幅が広くなっていた。

 しかしミジョー曰く、マシンは実際に、かなりのダウンフォースを発生していたという。

「マニ・クール(フランスGP)で雨が降り始めた時、マシンの能力を発揮することができた。誰もがスリックタイヤで走っていたが、レインタイヤに交換するためにピットインしたのは、ジャンが最後だった。F92Aはウエットコンディションの中でも、グリップ力が高かったんだ」

Ferrari F92B bottom

Ferrari F92B bottom

Photo by: Giorgio Piola

 ミジョーはまた、フェラーリはF92Aにかなりのダウンフォースがあることを理解していたものの、マシンを開発するための試みは、事態を悪化させただけだったと説明した。

 例えば、ダブルフロアの確認を行なったが、その難しい挙動にもかかわらず、マシンの不安定さは問題なかったという。

 その後F92Aはギヤボックスが縦置きから横置きに変更され、F92ATと呼ばれるようになった。しかしミジョーからすれば、これは過ちだったという。

「そのギヤボックスは非常にコンパクトだった。しかし幅が広かったため、ふたつの気流の流れを台無しにしてしまった。つまり、どんどん遅くなっていったんだ」

Ferrari F92A gearboxes comparison

Ferrari F92A gearboxes comparison

Photo by: Giorgio Piola

Ferrari F92A - F92AT comparison

Ferrari F92A - F92AT comparison

Photo by: Giorgio Piola

「私がマネジメントできない状況下で、私はスケーブゴートにされてしまった。大きな失望だったよ。そしてF92Aはとても長いフラットボトムを持っていたため、大きなダウンフォースを手にしていたから、すごく残念だった。それは開発を進めるべきコンセプトだったが、レギュレーションの変更により翌年禁止になった」

「フェラーリは常に、エンジンの神話にとらわれていた。だからV12エンジンに対する批判はできなかったんだ。まるで教会の呪いのようだったよ。エンジンがF92Aの最大の問題であることは、誰にとっても明確だと思った。しかし、低迷の原因は空力にあるというように言われてしまったんだ」

Gallery:

フェラーリF92Aのサイドビュー
フェラーリF92Aのサイドビューイラスト。フロアとサイドポンツーンの間にはボディワークが存在しないことが示されている。
フェラーリF92Aのギヤボックス の比較
フェラーリF92Aは、シーズン後半にギヤボックスを横置きにし、F92ATへと進化。全長は短くなった(黄色がF92A、緑がF92AT)ものの、その分横幅が広がり、元々の空力コンセプトの良さをスポイルしてしまった。
フェラーリF92Aのエキゾーストパイプレイアウト
フェラーリF92Aのエキゾーストパイプのレイアウト。ダブルフロアとなったサイドポンツーンの中に、どのように内包されていたのかがよく分かる。
フェラーリF92Aの空力コンセプト
フェラーリF92Aは、実は空力面では非常に優れていたという、ハイノーズ化されたことで、乱れの少ない気流をフロアに送り込み、フロア下と”ダブルフロア”の間を通ってリヤまで流れるようになっている。これにより、ダウンフォースを増した。
トロロッソSTR6のダブルフロア
トロロッソが2011年シーズンに投入したSTR6。約20年の時を経て、ダブルフロアがF1に帰ってきた。
トロロッソSTR6のサイドビューイラスト
トロロッソSTR6のサイドビューイラスト。ダブルフロアが確認できる。
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