【独占インタビュー】サインツJr.、“フェラーリ・ライフ”を語る。パジャマ姿でドライバー契約、情熱的なファン、そして彼が掴んだ速さ
フェラーリのF1ドライバー契約書に筆を下ろす……これほどまでに象徴的な瞬間があるだろうか。今季からチームに加入したカルロス・サインツJr.がその瞬間やフェラーリの一員として過ごす日々について語った。
写真:: Ferrari
フェラーリとのレギュラードライバーの契約書を前に、ペンを取り自分の名前をサインする……これ以上にアイコニックな瞬間が果たしてあるだろうか。
しかし、今季から“跳ね馬”のレギュラードライバーとして採用されたカルロス・サインツJr.にとって契約の瞬間は、想像とは少し異なるモノになった。
そこには、フェラーリの本拠地マラネロでの盛大なセレモニーや、チーム代表やCEOらとの祝賀会もなかった。
それどころか、フェラーリのレギュラードライバーとしての契約書にサインした時、サインツJr.は寝起きのパジャマ姿だったのだ。
「長い交渉の末って考えると、ちょっとおかしな話なんだ」と、motorsport.comの独占インタビューでフェラーリドライバーになった瞬間について、サインツJr.は答えた。
「新型コロナウイルス(ロックダウン)の間だったから、Zoomや電話を通じて話を進めていた。これが色々と厄介だった」
「僕らはこういう状況に適応する必要があった。僕はここマドリードの自宅にある小さなオフィスで、今インタビューを受けているのと同じ机で契約書にサインをしたんだ」
「僕らは、ロックダウン期間中ずっと家族と生活していた。ある朝突然8時に目が覚めて、その時、僕はまだパジャマを着ていた」
「僕はこの部屋に入って、ペンを持っている父を見つけた。それで彼はこう言ったんだ。『ここにサインするんだ。フェラーリとの契約だ。サインすれば完了だ』ってね」
「朝8時にパジャマ姿のまま僕はサインしたんだ。起きたばかりだよ! 『OK、おはよう自分』って感じだったよ」
Carlos Sainz Jr., Ferrari SF21
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
2020年5月にこの契約が発表されて以降、サインツJr.が後悔することはなかった。
今年初めにイタリア・フィオラノで行なわれた2018年型マシンを使った初テストには、大量のティフォシがサインツJr.をひと目見ようと集まり、彼を驚かせた。しかし様々な経験から、サインツJr.は自らが置かれた状況を十分に理解している。
無論、それまでのF1シーズンと同様に、成績の浮き沈みやマシンの競争力に不満を抱く部分はあるだろうが、フェラーリドライバーとしての生活は充実しているという。
「僕が経験した限りでは、イタリアのファンがとても情熱的で親切だというのは本当だ」と彼は説明する。
「触れたり、握手したりするだけで、彼らにとってはとても特別なことになる。彼らはとても尊敬してくれるし、お立ち台に立たせてくれる。とてもインパクトのあることだよ」
「近づいていくと、彼らはとても緊張してしまうんだ。『近づくとこんなに(ファンは)緊張するんだ』って、ドライバーになってからこんな感覚を抱いたのは初めてだ」
「彼らの背中を叩きながら『なあ僕も君と同じ27歳だよ。落ち着いて写真を撮ろう』って言うんだ。よく僕は彼らから携帯を受け取って、自分から写真を撮るんだ」
「クレイジーだけど僕は好きだよ。彼らの話すこともかなり面白いから、生活は少し変わったけど、同時にバランスは保てている」
サインツJr.を“アイドル”のように捉えるのは、ファンだけではない。イタリアでは特に顕著だが、フェラーリドライバーは他チームに比べてもメディア露出が多くなり、それが彼の行動に変化をもたらしているのだ。
サインツJr.は、よく考えてから発言しなければならないと理解している。たったひとつの軽率なコメントが、尾ヒレをつけあらぬ方向へ暴走していくのは容易だからだ。
Carlos Sainz Jr., Ferrari SF21
Photo by: Charles Coates / Motorsport Images
「フェラーリドライバー、その一員というだけで、小さなニュースが大きなニュースに変わっていくのは面白いことだ」と彼は言う。
「イタリアではかなり顕著にそれが起こるし、これは僕が扱う術を学んでいることでもある」
「ある意味、僕はまだ話し方を学んでいる最中で、『あの言い方ではなく、この言い方なら、もっと大きな見出しになるかもしれない』と気づくことができた」
「ドライバーとして、状況にどう対処すべきか、自分自身で学んでいるところだけど、簡単じゃないね」
そしてサインツJr.は、唯一F1が世界選手権となった1950年から参戦し続ける名門フェラーリのドライバーになることが意味するモノを理解している。
「他チームにはない特別な責任を負うことになる」と彼は認める。
「国そのもののためにレースをしているということ自体、異なっている」
「レアル・マドリードでプレーしながら、同時にスペイン代表としてもプレーするようなモノだ。フェラーリでレースをするということは、フェラーリとイタリアのためにレースをすることを意味している。それに気がつく必要があるし、責任が伴う」
「でも僕にとっては、光栄なことなんだ。僕はイタリアが好きだし、長い間過ごした国だ」
「子どもの頃、僕はイタリアでカートレースをしながら育った。イタリア国内のフェラーリに対する情熱を知りながら、僕が相手にしていたカートドライバーの多くが将来フェラーリドライバーになりたがっていたと知って育ったんだ」
「(彼らが憧れる)対象になれたことは、とても名誉あることだし特権でもある。誇るべきことだよね」
そしてフェラーリでレースをするということは、新たな国に慣れるということでもある。サインツJr.はイギリス・エンストンにファクトリーを構えるルノー(現アルピーヌ)から同じくイギリス・ウォーキングのマクラーレンを渡り歩き、フェラーリのファクトリーがあるイタリアへ渡った。
フェラーリはイタリア色が強く他チームとは文化が大きく異なると言われてきたが、実際のところ他チームと似た形でチーム運営がなされているとサインツは言う。
「異なる文化や物事の進め方ではある」と彼は語る。
「でも同時に、現代のF1チームは仕事への取り組み方や倫理観、プロフェッショナリズムという点においてはかなり似たモノになっている」
Carlos Sainz Jr., Ferrari, 3rd position, lifts his trophy
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
「実際、多文化的なチームが今はたくさんある。フェラーリでさえ、イギリス人やアメリカ人がたくさんいる。僕のエンジニアグループでも、アメリカ人やスコットランド人、スペイン人にイタリア人がいる。僕はそのグループで毎日ディナーに行っているよ」
「F1が修練されていることを表している。でももちろん、フェラーリには知っておかなきゃいけない独自の文化や、どう動くかを見て適応しなきゃいけない独自の方法がある」
フェラーリドライバーとしての責任や注目度が増し、生活を変える必要があったにも関わらず、彼自身は変わっていないことを今シーズンここまで示してきた。
彼は相変わらず、親しみやすく知的で快活なドライバーのままであり、慎重さも忘れていない。
フェラーリドライバーになれるほど幸運な人間は数少ない。しかし、サインツJr.としては普通のことだと捉えているようだ。
「本当のことだと思えているよ。それにようやく気がつけたら、ただそう思って過ごすだけだ」と彼は説明する。
「ある朝起きて『よし、フェラーリドライバーになろう』って言うのは不思議な状況だろう」
「どう感じているかって? 僕はカルロスのままで、無論同じ人間だ。同じ情熱や才能を持って仕事をこなす同じドライバーのままだ」
「フェラーリのためにやっているというだけだ。かなり大きな責任を追うことになる。特にイタリアで走る時は、最大級だ」
「モンツァに行くと突然、フェラーリドライバーが何たるかを知ることになる」
「世界中で体感できることではあるけど、モンツァに行ってそこで開かれるイベントに出た時、『OK、こいつはすごいことだ!』って突然気がつくんだ」
「僕の想像以上のことだった。でも僕は同じカルロスのままだし、その意味では何も変わっていないよ」
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