F1

移管されたレッドブル株式”2%”が、ホーナー解任の要因だった? しかしグループ内の権力闘争は落ち着きを見せる

クリスチャン・ホーナーがレッドブルのチーム代表を解任されたことを受け、チームを所有するレッドブル社の権力を誰が握っているのかが話題になっているが、譲渡されたとされる2%の株式は、権力闘争の結果というわけではなさそうだ。

Christian Nimmervoll

編集: 2025/07/18 9:28

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Oliver Mintzlaff, Managing director Red Bull GmbH, Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing

Oliver Mintzlaff, Managing director Red Bull GmbH, Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing

写真:: Red Bull Content Pool

Christian Horner évincé de Red Bull

Red Bull a écarté Christian Horner du poste de directeur qu'il occupait depuis la création de l'écurie de Formule 1, en 2005.

 先日、クリスチャン・ホーナーがレッドブル・レーシングのCEOとチーム代表の職を突如解任された。この理由については、様々な憶測が持ち上がっている。

 その中には、レッドブル・グループ内の権力構造が関与しているという見方もある。2022年には、同社の共同創設者であるディートリッヒ・マテシッツが死去。これにより、グループ内での権力バランスに多くの変化があったとされる。

 5月31日には、レッドブルGmbHの株式の2%が、タイのレッドブル共同創設者の息子であるチャルーム・ユーウィッタヤーから、スイスの信託会社であるフィデス・トゥルスティーズSA(Fides Trustees SA)に移管されたことが、オーストリアの商業登記簿に記録された情報から明らかになった。このフィデス・トゥルスティーズSAの取締役会長は、マーティン・クリストファー・ボーエンという人物である。

 それから僅か5週間後にホーナー代表が解任されたため、この株式の移管が、大きく関係しているのではと見る向きも多い。つまり、権力がタイからオーストリアに移ったことが、ホーナーの代表解任に繋がったという憶測が広がったのだ。

 これについてコメントを求められたレッドブルGmbHは、簡潔な声明を発表するに留めた。

「このような信託契約は、成功を収めた大企業において長期的な継続性を確保するための一般的な慣行である。それ以外の、社内事情や家族の問題については、これまで通り公にコメントいたしませんので、ご理解ください」

 このことが様々な憶測を呼ぶことになった。現在2%の株式を管理しているフィデス社の背後には一体誰がいるのか? そして議決権という観点から、この株式を実際に支配しているのは誰なのか? この2%という数字は非常に重要だ。残りの株式の49%ずつをユーウィッタヤー家と、ディートリッヒ・マテシッツの息子であるマーク・マテシッツが保有しているため、まさに議決権を握る2%なのである。

Daranee Yoovidhya, Geri Horner, Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing, businessman Chalerm Yoovidhya celebrate with Sergio Perez, Red Bull Racing, 2nd position, in Parc Ferme

Daranee Yoovidhya, Geri Horner, Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing, businessman Chalerm Yoovidhya celebrate with Sergio Perez, Red Bull Racing, 2nd position, in Parc Ferme

Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images

 ただmotorsport.comの姉妹サイトであるMotorsport-Total.comの調べによれば、フィデス社はユーウィッタヤー家の委任を受けて、レッドブルGmbHの株式2%を管理しているということのようだ。つまり依然としてユーウィッタヤー家が、レッドブルGmbHの株式51%を実質的に支配しているということだ。ただこれは、まだ公式に確認されたものではない。

 分かっているのは、レッドブルGmbH唯一のマネージングディレクターを務めていたディートリッヒ・マテシッツが亡くなった後、当初はユーウィッタヤー家はレッドブルGmbHの業務運営の中核的な役割を担っていたということだ。これに伴い、本社をオーストリアのフシュル・アム・ゼーから、ドバイもしくはアムステルダムに移転するという話も持ち上がった。これはおそらく税制上の理由によるものだと考えられるが、経営陣とスタッフが強く抵抗した。

 同じ頃、ホーナーの将来をめぐって緊張が高まった。女性従業員に対する不適切行為があったとして、訴えられたのだ。この事案に伴い、レッドブルGmbHの経営陣は、ホーナーの解任を望んでいたという。しかしその後、内部調査によってホーナーのの不適切行為はなかったと結論づけられたが、ユーウィッタヤー家は一貫してホーナーを支持する姿勢を崩さなかった。

 マテシッツの死去から2年半以上が経過したが、後を受け継いだ3人のマネージングディレクター、アレクサンダー・キルヒマイヤー(財務担当)、オリバー・ミンツラフ(F1チーム運営含むプロジェクト&投資担当)、フランツ・ヴァツラウィック(飲料担当)のリーダーシップの下、レッドブルGmbHは厳しい世界の経済状況にもかかわらず繁栄を続けた。

 この3人のマネージングディレクターは、マテシッツが生前自ら後継者として指名した3人だ。彼らはマテシッツの遺志を着実に継承し、2023年にはレッドブルの売り上げが初めて100億ユーロ(約1兆7270億円)を突破。2024年には全世界で127億缶を販売し、売上高は112億ユーロ(約1兆9340億円)に達している。

 この成果は、ユーウィッタヤー家にふたつの重要な認識をもたらしたとされている。ひとつ目は、当初の取り決め、すなわちこれまで通りオーストリアが業務の主軸を担い、持ち株に応じて引き続き利益を得るという形は、実に妥当なモノだったということだ。経営陣は、マテシッツ亡き後も、非常に優れた業績を上げられることを証明したのだ。そしてふたつ目は、オーストリアから本社を移転させるのは、もはや議論すべきではないということだった。

Max Verstappen, Red Bull Racing, Dietrich Mateschitz, CEO And Founder Of Red Bull

Max Verstappen, Red Bull Racing, Dietrich Mateschitz, CEO And Founder Of Red Bull

Photo by: Red Bull Content Pool

 ユーウィッタヤー家の株式2%をフィデス社に移管するという決定は、戦略的な決定が行き詰まった場合に、株主に公平な助言を与える中立的な機関が設立されたということを意味する。

 フィデス社の存在は、株主の意見が長らく分かれていた、例えばホーナー代表の去就に関する状況について、決定的な浮動票として機能する可能性がある。もちろん、ホーナーの代表解任にフィデス社が実際に関与したかどうかは不明だが、その可能性は確かにある。前述の通り、株式の移管が行なわれた僅か5週間後に、電撃的に解任されたのだから。

 関係者によれば、マテシッツが死去した後には、波乱に満ちた時期もあったという。しかしそれも収まり、今ではマーク・マテシッツとチャルーム・ユーウィッタヤーは良好な関係を築いているという。

Christian Horner, Red Bull Racing

Christian Horner, Red Bull Racing

Photo by: Red Bull Content Pool

 元F1ドライバーのラルフ・シューマッハーはホーナーについて、マテシッツが亡くなった後から以前とは異なる行動を取るようになったと、Formel1.deのYouTubeチャンネルで語っている。そしてそれが裏目に出たと指摘しているのだ。

 昨年ホーナーのスキャンダルが報じられた時、前述の通り内部調査で問題なしと判断された。この判断については、取締役会の中でも意見の不一致があったようだ。しかしその後、チームのパフォーマンスは低迷。巨額の資金を投じながら、何の成果も得られていないことを株主が最終的に気付き、今回の解任に繋がったのではないかと、シューマッハーは考えているのだ。

 結局のところ、2%の株式が譲渡されたのは、クーデターではなく、レッドブルGmbHの新たな秩序に関する、株主同士の静かな合意だったのかもしれない。そして今回の件の中で浮かび上がってくるのは、突然どちらかが権力を掌握したということではなく、駆け引きを安定化させたという構図だ。

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