白亜紀の新種ハチに”ピアストリ”の名が付いたその理由……命名者に尋ねてみた「大ごとになって驚き!」 アイルトン・セナとの繋がりも?
ミャンマーで発見された白亜紀後期のハチの一種に、オスカー・ピアストリの名前がつけられたことが話題となった。これは発見した学者のパブでの議論が発端だったらしい。発見者のコランタン・ジュオー氏に話を聞いた。
ミャンマー北部・フーコン渓谷にある白亜紀後期(9800万年前)の地層から発掘された琥珀の中に、小さな昆虫の化石が封じ込められているのが見つかった。研究の結果この昆虫は新種のハチであることが分かり、グウェスペド・ピアストリイと名付けられた。
このピアストリイという名前は、マクラーレンのF1ドライバー、オスカー・ピアストリに由来したものであり、このことは大きな話題となった。
このグウェスペド・ピアストリイの発見者は、オックスフォード大学研究員のコランタン・ジュオー氏、そして同大学のディイン・ファン教授、セルソ・O・アゼベド教授の3人である。研究結果は科学誌『Palaeoworld』に掲載され、その新種のハチの命名権はジュオー氏に与えられた。
ジュオー氏はフランス出身の27歳。こういう名前をつける人だから、当然生粋のF1ファンである。しかしただピアストリのファンだからといって名付けたわけではないという。話を聞いてみよう。
「私は子供の頃から、F1にどっぷりと浸かってきました」
ジュオー氏はmotorsport.comに対してそう語った。
「祖父も長年のF1ファンでした。私は祖父ほど熱心なファンではないかもしれません。研究のための世界中を飛び回ったり、時には熱帯雨林のど真ん中で、ひとりで過ごしたりすることが多いですからね」
「でも、仕事中にはできるかぎりF1をBGM代わりに流していますし、週末にはレースを観たりしています。少なくとも、結果だけは必ずチェックしています」
「オックスフォードに着任した時、同僚の中に熱狂的なF1ファンがいることに気づきました。我々はよくシーズンについて語り合い、ビールを飲みながらレース結果について議論しました。昨年はどのドライバーがタイトルに相応しいかで大騒ぎになりましたね」
「その議論に決着をつけるために、私は冗談混じりにオスカー・ピアストリにちなんだ名前を動物につけると宣言したんです。彼のことは、ルーキーの時からずっと応援してきました。彼のドライビングテクニックや冷静でプロフェッショナルな態度、どちらも素晴らしいと思います」
Scientist Corentin Jouault (27) pledged to name his next discovery after Oscar Piastri as the McLaren driver contested the 2025 world championship.
Photo by: Jayce Illman / Getty Images
新種の動物を発見するなど、そうそうあることではない。だからジュオー氏は冗談半分だった。それが実現するとは思っていなかったらしい。
「新しい種を発見するなんて、よくあることではありません。だから、本当にチャンスが巡ってくるかどうか、想像もつきませんでした」
ジュオー氏はそう語る。
「私が理解していたのは、専門とするハチの仲間、おそらくスズメバチの仲間になるだろうということでした。オスカーのファンコミュニティ”ピアストリ・ハイヴ”とも、興味深いつながりがあったので。ハイヴというのはミツバチの巣という意味もあり、ミツバチもハチの一種ですからね」
その数ヵ月後、ジュオー氏は研究のために中国に渡り、南京地質古生物研究所に滞在した。その研究所は、琥珀の中に封じ込められた昆虫化石の世界的なコレクションを誇る。そこでジュオー氏とファン教授は、ミャンマーで採取された9800万年前の琥珀に閉じ込められた、非常に珍しい化石化したハチを発見した。
9800万年前と言えば、中世代白亜紀後期。恐竜が地球上を支配し、海には首長竜やアンモナイトが泳ぎ回り、空は翼竜が飛翔していた、そんな時代である。
「当初からこれは、全く新しい種なのではないかと疑っていました」
そうジュオー氏は語った。
「詳細な分類学的な研究を行ない、琥珀を切断・研磨して重要な解剖学的特徴を明らかにし、化石化したハチの種を識別するために用いる構造を撮影しました。研究を進めるにつれて、この標本が恐竜時代にまで遡る、完全に絶滅した系統に属することが明らかになってきたんです」
「既知の近縁種全てと比較した結果、他のどの既知の種とも明確に区別できる、独特の特性の組み合わせを特定しました。その時、『これだ! ピアストリ属の種を見つけた!』と確信したんです」
「オスカーの2025年シーズンの素晴らしい活躍と、プロジェクトが並行して進んでいたので、タイミングは完璧でした」
なおこの新種のハチは”グウェスペド・ピアストリイ”である。グウェスペド・ピアストリではない。これはスペルミスではなく、学名の命名法によるモノなのだと、ジュオー氏は言う。
「この化石のハチはピアストリイ(piastrii)と名付けられました。末尾は”i”がふたつです。これはスペルミスではなく、動物命名法の規定によるものです」
そうジュオー氏は説明した。
「種名が人名にちなんで名付けられる場合、姓に接尾辞”-i”がつけられます。ピアストリはそもそも”i”で綴りが終わっているので、結果的にピアストリイとなるんです」
ちなみにフタバスズキリュウという日本で化石が発見された有名な首長竜がいる。このフタバスズキリュウという名前は通称であり、学名は発見者の鈴木直氏にちなんでフタバサウルス・スズキイとなっている。これも今回のグウェスペド・ピアストリイと同じ命名方法に則っている。
The Gwesped piastrii species
Photo by: Corentin Jouault
さて今回のハチにピアストリの名が付けられたのは、ジュオー氏がピアストリのファンだったからというだけではない。グウェスペド・ピアストリイが封じ込められていた小さな琥珀は綺麗なオレンジ色をしており、マクラーレンのパパイヤカラーを彷彿とさせたのだ。
「琥珀自体が美しいオレンジ色をしていて、マクラーレンの特徴的なパパイヤカラーを思い出させたんです」
そうジュオー氏は言う。
「マクラーレンを連想させたのは、(このハチの研究を共同で行なったもうひとりの教授である)セルソ教授がブラジル出身だったということもありました。マクラーレンとブラジルは、F1の歴史において特別な位置を占めていますから。それは主にアイルトン・セナのおかげであり、彼の功績は世界中の多くのファンにとって今もなお非常に重要な意味を持っています」
今回のことがこれほど注目を集めたこと、そして自身の職業とF1への情熱がこれほどまでに結びついたことには、驚きを隠せないという。ジュオー氏は現在、日本の沖縄科学技術大学にいて、このニュースが広まった後には、彼の携帯電話には次々にメッセージが届いたという。
そのうちのひとつには、マクラーレンがソーシャルメディアに投稿した動画が添付されていた。その動画ではピアストリが、同チームのSNS撮影隊が繰り出すスズメバチを題材にしたダジャレに、困惑した様子で反応していた。
「正直に言って、F1のコミュニティからこれほど注目を集めるとは思っていなかったです。携帯電話は通知やいいね、リツイート、あらゆる方面からのメッセージでなりっぱなしだし、友人たちからは新種の発見を知らせる記事やスクリーンショットが次々に送られてきました」
「特にマクラーレンやオスカー本人の反応を見ることができて、素晴らしい1日の始まりになりました」
ジュオー氏は、次の新種を発見したら、またF1スターの名をつけるのだろうか? そう尋ねると、どうなるかは分からないと語った。
「そんなことはもう当分ないでしょうね」
そうジュオー氏は笑った。
「F1界からもう十分に注目を浴びていますから。真面目な話、種に人の名前をつけるというのは特別なことであって、日常的なことではないと思います」
「とはいえもしまたF1ドライバーの名前を学名につけるとしたら、少し前の世代の人、例えば同じフランス人のアラン・プロストのような人を称えたいと思うかもしれないですね。彼はF1の歴史に名を残す、偉大な人物のひとりですからね」
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