ダウンフォース”10%削減”レギュレーション……対策できたかは実際に走るまで分からない??

今季のF1に課された、空力面のレギュレーション変更。これによりF1チームは、大きな課題を抱えることになった。

ダウンフォース”10%削減”レギュレーション……対策できたかは実際に走るまで分からない??

 実走行テストの量が著しく制限されている現代のF1。これに対応するため各チームは、ファクトリーで風洞実験に多くの時間を費やしたり、CFD(計算流体力学)研究で細かな検証を行なうなどし、開幕前のテストを迎える。しかし今年の場合では、今週バーレーンで行なわれる”唯一”の公式テストの大半が終わるまで、風洞やCFDでの結果が正しかったと確信することはできないだろう。

 チームは、実車と実験のデータの相関関係を追求することに熱心である。そのため最初のテストは、空力データの収集に集中することが多い。

 ただ今季はレギュレーションで、リヤタイヤ前の領域に大きな変更が加えられている。このエリアは気流が複雑に流れ、モデルで再現するのが実に難しいことでよく知られている。そのため、実際に走行するまで、各チームは懸念を抱いている。

 すでにシェイクダウンを済ませたチームは、ある程度のデータを収集できているだろう。しかし走行距離は100kmに限られており、そのデータ量は満足いくものとは言えないはずだ。特にそのシェイクダウンがウエットコンディションだったチームにとってはなおさらだ。

 さらにシェイクダウンを行なわず、ぶっつけで公式テストに臨むメルセデスとハースは、実走行データがゼロ。公式テスト初日の前日となる木曜日にバーレーンでシェイクダウンするフェラーリにも、同様のことが言える。

 今季のレギュレーション変更により大きな影響があるのは、各チームが発表したマシンの画像でも明らかだ。メルセデスのテクニカルディレクターであるジェームス・アリソンも指摘した通り、同チームが発表会で公開したマシン”W12”のフロアは、本番仕様とは大きく異なるモノだった。

「我々が明らかにしていないモノは、フロアの端に多くある」

 アリソンはそう語った。

「そのエリアは、マシンのパフォーマンスを落とすために、フロアのレギュレーションが変更されたことにより、最も大きな影響を受けた部分だ。そこには、みなさんにお見せする準備ができていない、空力的な細かい部分がたくさんある」

「まだ出来ていないというわけではなく、ライバルに見られたくないからだ。彼らが、我々と同じようなモノを作って、風洞で実験してしまうということを避けたいのだ。それは我々にとっては、数週間を無駄にしてしまうということになる」

「我々は常に、ライバルの行動を注意深く見ている。ここに、ライバルが注目することは分かっているんだ。だからそれを示す必要はないと思ったので、今回はお見せしなかった」

Mercedes AMG F1 W12

Mercedes AMG F1 W12

Photo by: Mercedes-Benz

 FIAがこのレギュレーション変更を実施したのは、マシンのダウンフォースを10%削減し、タイヤにかかる負荷を削減しようとしたからだ。とはいえチームは手をこまねいているわけではなく、レギュレーション変更が決まってからの数ヵ月間、その”失われたダウンフォース”を取り戻すために多くの努力を費やしてきた。

「誰もが隠そうとしているフロア面積の削減、ブレーキダクト形状の変更、そしてディフューザーフェンスの変更の組み合わせは、確かにダウンフォースを大幅に削減することに繋がる」

 アルピーヌのテクニカルディレクターであるパット・フライはそう語る。

「従って、これは開発における主要な部分のひとつになると思う。ひとつの解決策だけではなく、その変更を乗り越えるためにテストするモノが無数にある。確かに多くのダウンフォースを失った。まだその全てを取り戻すことはできていない。その作業はまだ進行中である」

「最初のテストで、それが本当に興味深いモノになると思う。風洞やCFDと、マシンから得られた実際のデータとの相関関係を確認した時にね」

 実際に走行してみなければ分からないとフライが認めたことは、これまでにどれだけの努力が必要だったのかということ、そしてそれがどう機能するかということについて、まだ不確実な部分があるということを示していると言えるだろう。

 ただチームは、自分たちのマシンのデータだけを見ればいいというわけではない。他のチームが行なったこと見極め、自分たちが見逃したことがないかどうか、それを確認しなければいけないのだ。

 そういう意味で、アリソンの言葉通り、できるだけ自分たちの手の内を隠しておきたいのだろう。

「それは、原則に過ぎないと思う」

 フライはそう語る。

「ライバルに対して何も与えない。それを30年間教え込まれてきた。だから今それを変えるのは難しいと思う」

「各チームが秘密にしていること……今見せている部分、手を入れた領域、フロアの端、リヤタイヤの前、ブレーキダクト、そしてそれらの部分にどんな開発を行なったのか……それは誰もが準備を万端に整えているのだと思う」

「我々は皆、自分たちが賢いと思っている。だから、自分がしていることを隠そうとしているんだ。バーレーンのレースで、どれだけ速いのかが分かるだろう」

Sebastian Vettel, Aston Martin Racing

Sebastian Vettel, Aston Martin Racing

Photo by: Aston Martin Racing

 アストンマーチンのテクニカルディレクターであるアンドリュー・グリーンは昨年、空力レギュレーションの変更が非常に重要であると語っていた。そしてそれが事実であったことが証明されたと言えるだろう。

「レギュレーション変更の決定が遅れたため、それが大きな課題となった」

 そうグリーンは語った。

「ふたつの変更があった。最初の変更はマシンの性能を一歩後退させるモノ。そしてもうひとつも、それをさらに進めることだった」

「失われたモノを取り戻すのは、冬の間における我々の挑戦だった。我々は今、望んでいたような場所にいるとは思わない」

「しかし、全ては相対的なモノなので、待ってみるしかない。これまでに行なったことには満足しているが、まだまだ先がある。しかし我々は、しっかりとした基盤を築くことができたと思う」

 2021年の空力レギュレーションには、もうひとつ追加された要素がある。これは空力開発ハンデキャップと言えるようなモノで、前年の成績に伴い、各チームが風洞やCFDに費やすことができる時間に差が設けられているのだ。この結果、昨年王者のメルセデスの空力開発時間が最も少なく、逆に最下位だったウイリアムズがもっとも多くの時間を費やすことができるようになっている。

 それと並行して、空力レギュレーションが根本から変更される2022年に向け、開発を集中させたいという各チームの思惑も重なる。ハースは早々に、2022年マシンに開発の中心を移すことを決定。その他のチームも、シーズンの早い段階で来季に向けた開発に、重点をシフトすることになるだろう。

 今、各チームにとって必要な最後のことは、バーレーンで自分たちが見逃していた”トリック”を発見すること、そしてさらに努力を要する部分がどこにあるのかを明確にすることだ。

「現時点で我々が直面している最大の課題は、2022年用のマシンのことだと思う」

 そうグリーンは語る。

「コンセプトの段階的な変化だ。本来ならば今シーズンのマシンに費やすはずの開発リソースの、かなりの部分を奪っている」

「しかし2021年のマシンには、まだ引き出すべき多くのパフォーマンスが残っていると思う。我々の最大の課題は、とても限られた時間の中で、それを引き出すことだと思う」

 フェラーリのチーム代表であるマッティア・ビノットも、チームの優先事項がどこにあるのか、それを既に明らかにしている」

「2021年に我々が集中すべきことは、2022年用マシンの開発だ」

 そうビノット代表は語る。

「それが主な目標になる。だからシーズン開幕後は、2021年用のマシンの開発に多くの時間を費やすことはない」

 ビノット代表は、風洞やCFDでの数値と、実車の数値の相関関係がとても重要になると強調する。

「風洞の力により、どれだけ進歩したのかは分かっている。しかしそれ以上に重要なのは、コース上でどう機能するのかということだ。予想していたのと比較して、コース上のマシンがどれほどの性能を発揮するのかということだね」

「過去の経験から、風洞とコース上のマシンの間で差が生じることがある。それは、我々だけではない」

「すべてのチームにとって、それは重要なポイントになると思う。マシンのリヤのレギュレーションが変更されたため、何らかの形で相関の作業が必要になるだろう。それが、今シーズンの重要な要素になる」

 今季のシーズン開幕前テストは、バーレーンでの3日間ただ1回しかない。つまり、開幕戦の前にアップデートを試す機会はないのだ。ただメルセデスは、テスト終了後の3月16日にバーレーンでフィルミングデーを実施予定。ここでニューマシンを100km走らせることができる。

 つまり今週末のバーレーンテストで、空力面にさらなる作業が必要だということに気付かされたチームは、シーズンに向けて大変なことになる。開幕後も走行機会が減っているため、その遅れを取り戻すのは簡単なことではない……のだ。

 

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この記事について

シリーズ F1
執筆者 Adam Cooper