イギリスGPの“フェルスタッペン×ハミルトン問題”はついに決着。しかし未だ残る大きな謎
F1イギリスGPでのルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンの接触について、FIAはハミルトンにこれ以上の制裁は下さないとしたが、この件には少しハッキリしない点もある。
Alexander Albon, Red Bull Racing RB15
Red Bull Content Pool
F1第11戦ハンガリーGPを前にして、前戦イギリスGPで起きたルイス・ハミルトン(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の接触に関する問題がついに決着した。レッドブルはハミルトンに科された10秒ペナルティが甘すぎるとして再審を要求したが、FIAはこれを却下。ただこの決定に関して、多くのF1関係者の間はあまり驚いていない。
結局のところ、ハミルトンは映像とテレメトリーデータを踏まえた制裁を既に受けており、レッドブルがここから新たに「重要」で「関連性のある」証拠をFIAに提出できる可能性はほとんどなかったと言っていい。
2019年のカナダGPでセバスチャン・ベッテル(当時フェラーリ)がペナルティを受けた際、フェラーリが再審を求めるため、SkyのTV放送でのカルン・チャンドックの発言を利用して痛い目にあったことは記憶に新しい。FIAの求める基準は決して甘くないのだ。仮にトップチームがそれを新たな証拠だと感じていたとしても、FIAは再調査を開始するにあたってかなり厳しい要求をしてくる。
今回のケースでは、レッドブルがいくつかの映像を用意した。ハミルトンがフェルスタッペンとの接触の後にシャルル・ルクレール(フェラーリ)をオーバーテイクした際の映像を比較資料として提出したり、アレクサンダー・アルボンによるハミルトンの走行ラインの再現映像を提出したが、それらは再調査をさせるのに十分なものではなかった。
この結果は関係者に衝撃を与えるようなものではなかったが、FIAの声明を見てみるといくつかの謎が浮かんでくる。
Alexander Albon, Red Bull Racing RB15
Photo by: Red Bull Content Pool
■なぜフィルミングデーを実施したのか?
今回スチュワードによって明らかにされたことの中で重要なポイントのひとつは、レッドブルが証拠を“発見する”というよりは、“作り出す”ことに奔走していたことだ。彼らはレース後、シルバーストンで1台のマシンを走らせることによって、接触が起きたコプスでの走行ラインを文字通り再現したのだ。
スチュワードによると「レッドブルはシルバーストンで行なわれたレースの1周目においてハミルトンが通ったラインを、2021年7月22日に他のドライバー(アルボン)の走行ラップを基に再現した」とされている。
アルボンはイギリスGP終了直後、ピレリのタイヤテストに参加して2021年マシンのRB16Bをドライブ。そのテストは7月20日に終了したが、22日にはレッドブルが“フィルミングデー”を設け、2019年マシンのRB15を走らせた。その際の映像はチームのSNSでも公開されていた。
RB15は2年落ちのマシンとなるため、レッドブルは走行距離の制限なく、いくらでもプライベート走行を行なうことができる。またリザーブドライバーであるアルボンを走らせること自体も特筆すべきことではなかったが、このテストは、ハミルトンの走行ラインを再現するために行なわれた重要なテストだったのだ。レッドブルとしては、ハミルトンが曲がりきれないほどのオーバースピードでコーナーに進入していたことを示したかったのだろう。
レッドブルが年間で限られた数しか行なえないプロモーションイベントを利用してまでフィルミングデーを実施し、証拠映像の作成を行なったことは、レッドブルがどれほどの労力とコストをかけてこの件に臨んだかを示している。しかし、このフィルミングデーは果たしてただ証拠映像を作るためだけに行なわれたものなのだろうか?
アルボンがどんなにリアルにハミルトンの動きを再現したとしても、レッドブルがコース上で事故を再現することは、「重要かつ関連性のある証拠の提出」とはみなされなかっただろう。スチュワードが指摘したように、これは再審プロセスを進めるために必要な“発見”ではなかったのだ。声明でも、今回提出された証拠が「“発見されたもの”ではなく、再審請求をサポートするために作り出されたもの」だったと述べられている。
それにしても、今回再現映像の作成に協力したのが、レッドブルのレギュラードライバー時代に2度もハミルトンに接触された(2019年ブラジルGP、2020年オーストリアGP)アルボンであることは何とも皮肉な話だ。
Max Verstappen, Red Bull Racing RB16B is loaded onto a truck after his crash
Photo by: Sutton Images
■レッドブルの主張に対する“懸念”とは?
おそらくさらに大きな謎なのは、レッドブルがFIAに提出した書簡について、FIA側が「懸念」を表明したことだ。
レッドブルがイギリスGPのインシデントの再審を要求した際、彼らは強い表現を用いた主張をしていたようだ。
FIAの声明文には次のように書かれている。
「スチュワードは、当該競技者の書簡に書かれたいくつかの主張に懸念を感じている」
「仮に再審請求が認められた場合、スチュワードはこの主張に関して何らかの形で関与した可能性がある」
「スチュワードはこれらの主張に関して、直接取り上げた可能性があった。しかし訴えが却下されたため、スチュワードがこの件についてコメントすることはない」
レッドブルがどのような言葉で主張をしたのかは明らかになっていないが、彼らが攻撃的な言葉を使ったことは想像に難くない。
メルセデスはハンガリーGP前の木曜日に声明を発表し、レッドブルがこれらの書簡において「ハミルトンの名声と誠実さに傷をつけようとした」と言及している。
そういった背景から、ハミルトンのドライビングに対するレッドブルの怒りが文章に表れてしまったとも理解できるが、FIAのスチュワードがこのようなコメントをするということは、その批判がFIAそのものにも向けられていた可能性の方が高いとも考えられる。
レッドブルはFIAのハミルトンに対する制裁の甘さに納得しておらず、ハミルトンとフェルスタッペンの間で起きた事故の責任が、“全面的”ではなく“大部分”ハミルトンにあるとしたFIAの判断にも同意できていない。
FIAが再審請求を却下したことにより、少なくともイギリスGPの事故に関する論争はひとまず終わりを告げ、週末に行なわれるハンガリーGPに注目が移ることになる。しかし今回出された諸々の声明を見る限り、メルセデスとレッドブルによる論争はこれで今季最後とはならないだろう。
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