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F1エンジニアも納得の精度……F1のTVグラフィック推進は“ネタバレ”のためではない

アマゾンのデータ分析によるF1マシンやタイヤなどのグラフィックスは、度々ファンの批判の対象となってきた。しかし、プロジェクトを主導するロブ・スメドレーは、そのデータは正確であり、テレビを通じて観戦するファンのユーザー体験を向上させることが目的であると考えている。

TV graphics, Braking performance

写真:: Formula 1

 F1ファンにとって、グランプリレースのライブ映像を楽しむための情報はかつてないほど充実している。

 レースの順位やトップとの差、ピットストップによる大まかなロスタイムの目安を示すTVグラフィックスのみが画面に表示されるのは過去の話。今のF1の中継映像には、テクノロジーを活用した統計やデータなどが次々と表示されるようになっている。

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 F1とアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の協力により、膨大なデータの機械学習や分析から算出されたバトルや戦略の予測、マシンやタイヤパフォーマンスの数値化、各車のコーナリング分析がグラフィックスとして視聴者に提供されている。

 2021年は計18種類の新グラフィックス導入が予定されている。次戦のイギリスGPでは、初採用されたスプリント予選レースを盛り上げるべく、更なるグラフィックスの追加も予定されている。

 しかしこうしたグラフィックスの表示が、批判も受けているのも事実だ。一部からはデータの信頼性を疑問視する声も上がり、特にタイヤの摩耗具合を示すグラフィックスは、その正確性という点で数年前に話題を集めていた。

 また、オーバーテイクのタイミングやその成功率、予選セッション前に決勝グリッド順を予測したグラフィックスを表示させることで、テレビを通じてF1を観戦する際のエンターテインメント性が損なわれるのではないかという議論も見受けられる。

 予測の精度が高くなればなるほど、次に何が起こるか分からないワクワクやドキドキはなくなる。しかし、そのグラフィックスが正確でないとしたら、果たしてそれを表示する価値はあるのだろうか?

 F1側もこうした葛藤を抱いており、常に全ての人々を満足させることはできないということも認識しているが、AWSのデータ活用を主導するF1データシステム部門の責任者を務めるロブ・スメドレーは、F1が用いるデータモデルは強力であると主張する。

 AWSによる統計やデータは、登場した当初から元F1エンジニアのスメドレーの想像を覆すものであり、視聴者に届けられるグラフィックスは、人々の想像以上に的確であると断言している。

Rob Smedley

Rob Smedley

Photo by: Jean Petin / Motorsport Images

 当時、多くのファンが提供された統計やデータに対して否定的な態度を取っていた一方、F1のエンジニアの多くは、その情報が現実と近いことに感銘を受けていたという。

「最初我々がこれ(AWSグラフィックスの表示)を始めた時は、『どうしてこんなことが出来るのさ?』というコメントが沢山寄せられて、実際とても興味深かった」とスメドレーはmotorsport.comに語った。

「でも、タイヤパフォーマンスのグラフィックスを登場させた後は、多くの友人、特にF1チームで技術スタッフとして働く友人から『これどうやってるの?(実際のデータを)見返してみたら、とても正確だったよ!』というメッセージが沢山届くようになったんだ」

「(グラフィックスは)常に正しい訳ではない。というのも、常に100%正しいものが存在しないように、それも常に正しくはいられないからだ。でなければ、F1はかなりつまらないスポーツになるだろうね」

「だが、私はそれがとても面白いと感じていた。そして、そう思ったのは1チームだけではなかった。それは、タイヤの状況について我々が考えたものを見たチーム側からの反応だ。彼らが実際のデータを入手し、それを見返した時に『ああ、実はそこまで悪くないんじゃないか?』と思ったのだ」

 AWSグラフィックスのデータは容易く否定されがちだが、使用されているプロセス、そしてその中心となるデータの質は高く、膨大だとスメドレーは語る。

 F1マシンに搭載される300個ものセンサーからは、1秒間に110万点以上のデータが生み出されている。またF1は、チームやファンに広く親しまれている各サーキットの3つのセクターだけでなく、さらに細かいタイミング・ループ(サブセクター)にもアクセス可能である。

「ある意味、ここにあるデータセットはとても充実している」とスメドレーは言う。

「サーキットの長さに応じて、25から35のループがある。その中からさまざまな情報を得ることができる」

「F1チームが、3つのセクターから多くのライバルたちの分析結果を得られていると考えれば、25つのループを持っている我々は、桁違いなほど膨大な情報を得ることが出来るということになる」

「しかし全てのデータがそうであるように、大量のデータを使えるようになったら、それをどう使うかも知らなくてはならない。より多くのデータを持っているからと言って、より優れている訳ではない」

「そこで、AWSとの連携が関わってくる。彼らは何十年もデータ分析を行なっており、それに長けている」

「ふたつの企業がひとつになり、双方がデータを理解し、その使い方も理解し、目指すべき目標を理解している。しかし、ビッグデータ分析と機械学習の両方が不可欠だ。それらは互いにシナジーを生み、(F1を)次のレベルへ引き上げてくれるからこそ、重要だと考えている」

TV graphics, Braking performance

TV graphics, Braking performance

Photo by: Formula 1

 F1のTVグラフィックス論争は終わりがない。スメドレーは、F1がグラフィックを追求することをF1マシンの開発と重ね、ひとつの改良で次の改良に向けた扉が開くと考えている。

「疑問が次から次へと噴出してくると私は考えている。それは、私が(F1エンジニアの)仕事を始めた25年前に、ちょっとしたデータを手に入れるようなものだ。少しのデータがあれば、全てが分かるようになる。だがそこから、次のステップ、また次へ、そのまた次へと進めるようになる。それは留まることを知らない」

「知識の絶え間ない発掘であり、決して止めてはならない。一度”聖杯”を掘り当ててしまえば、それが全てを教えてくれて、私の問題を全て解決する何かを作ることができるかも、などと思ってしまうからだ」

「そうする(改良を重ねる)と、知らないことの方が多いことに気づく。知らないことの方が多いほど、(疑問が)どんどん大きくなっていくのだ。正直なところ、それがエキサイティングなことなのだ」

 テレビを通じて観戦するファン、特にF1の世界に初めて触れる人々にとっては、サーキット上で何が起きているのか、そしてそのアクションがその後のレースにどう影響を及ぼすかというデータは確かに有益ではあるが、彼らをF1から遠ざけてしまうような、あからさまに複雑なものであってはならない。スメドレーもこの点を理解しており、F1はバランスの取れた重要な情報だけを選び出す必要があると考えている。

「F1エンジニアがF1エンジニアに、あるいはF1エンジニアがデータサイエンティストに話しかけているような、情報過多にならないレベルを保つ必要がある」とスメドレーは続ける。

「もしそうなれば、これによって恩恵を受け、F1を楽しめるのはごく一部の層だけだ」

 また、分析や統計などのグラフィックスを提供する際に念頭に置かなければならないのは、レースを中継映像を通じて観戦している人たちの”ワクワク感”を損なわないようにすることだろう。

 というのも、もし金曜日のフリー走行の段階で、決勝グリッドを100%正確に予測し、日曜日の決勝レース序盤でピットストップやオーバーテイクのタイミング、そして最終的なレース結果までも正しく予測するグラフィックスが提供されるのならば、F1をライブで観る意味が失われてしまうからだ。

 スメドレーもこうした点を理解しており、テレビに表示されるグラフィックスの意図は、自宅から観戦するファンのユーザー体験を向上させるという点にあり、レース観戦そのものが不要になるものであってはならないと考えている。

「このスポーツが持つワクワク感を損なう訳にはいかない」とスメドレーは言う。

「もし日曜日の朝、ここに我々みんなで座って、『よし、我々は素晴らしいモデルを持っていて、これが決勝の結果だ』と言われたら、ワクワク感は全て消え去るだろう。物事が始まる前に、ネタバレをされるんだ。それでは、すごくつまらない」

Sergio Perez, Red Bull Racing RB16B, Lewis Hamilton, Mercedes W12

Sergio Perez, Red Bull Racing RB16B, Lewis Hamilton, Mercedes W12

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

「グラフィックスが伝えるべきは、『今、目の前で何かが起きているけれど、少し待ってほしい。20周後にも何かが起きるから』ということだ」

 つまりAWSによるグラフィックスは、オーバーテイクの瞬間を予測して先に伝えるネタバレではなく、視聴者の期待を誘うためのトリガーであるということだ。

「F1観戦をしている際は、それがとても複雑に思えてくる」とスメドレーは言う。

「ピットストップがあって、現在進行系のタイヤ戦略もある。その時起きていることを全て把握することはもはや不可能だ」

「自分の目の前で物事が展開していくサッカーを観戦するのとは異なる。(F1では)最後まで待っていないと、戦略が見えてこないこともある」

「だからこそ、我々はグラフィックスを駆使して、沢山のワクワク感や次に起き得ることを伝えようとしている。こうした手段を持っていない限り、(必要な情報を)見極めるのはとても難しいことだ」

「『(バルテリ)ボッタスが(マックス)フェルスタッペンから15秒遅れている』という情報だけでなく、『これだけの周回数を重ねれば、ボッタスは追いつける』とか『オーバーテイクの確率』ということも目にすることができるだろう。我々が伝えたいのは、『これから動きがあるので、期待してほしい』ということだ」

「タイヤについても同様だ。どうなるかは知り得ないから、結果を先に伝えることは出来ない」

「しかし、『このタイヤライフを鑑みて、恐らくピットストップが必要になるかも』とは伝えられる。それによって起きたアクションが(視聴者に)ワクワク感を抱かせるのだ」

「責任と目的を持って、(グラフィックスを)使わなければならない。これから起こることをすべて説明した後に、それが必ず起こるとしたら、ショーが台無しになる気がするからね」

 
 

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