2020年のホンダF1に必要とされる、”劇的”な進歩……王座を獲得するために
2019年にレッドブルと組み、躍進を遂げたホンダ。2020年シーズン、陣営はタイトルを狙うことを目標に掲げていることを公言して憚らないが、そのためにはパワーユニットの”信頼性”が重要な鍵になることは間違いない。
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
2019年、ホンダとのパートナーシップ1年目のシーズンを迎えたレッドブルは、印象的な活躍を見せた。マックス・フェルスタッペンがオーストリア、ドイツ、ブラジルと3勝。さらにハンガリーとブラジルでは、ポールポジションも獲得して見せた。
この活躍もあり、レッドブルは2020年にタイトルを争うことを目標にすると公言している。しかし、相手がメルセデスやフェラーリであることを考えると、僅かでもポイントを失うことは許されない。しかも、ニューマシンRB16は、開幕直後から戦闘力を発揮することが求められる。
■タイトル獲得に重要となる”信頼性”
2017年限りでマクラーレンとの関係を解消し、2018年はトロロッソにパワーユニット(PU)を供給したホンダ。そのホンダの成長を認め、レッドブルはパワーユニットサプライヤーに選んだ。2019年シーズン中もホンダPUの性能は向上したが、タイトルを争うためにはパフォーマンスと信頼性の面で、メルセデスやフェラーリに匹敵する必要がある。
その中でも、特に重要になると思われるのは信頼性だ。
ここ数年、タイトル争いは実に僅差で繰り広げられることが多い。そのため僅かなポイント差が勝敗を分ける可能性があり、シーズン中にPUの投入ペナルティを受けてしまうと、大きな後退に繋がる可能性がある。1シーズン中、ICE(内燃エンジン)、TC(ターボチャージャー)、MGU-H(熱回生システム)は3基まで、MGU-K(運動エネルギー回生システム)、CE(コントロールエレクトロニクス)、ES(エナジーストア/回生エネルギー用バッテリー)は2基までが使用制限数と規定されている。これを超えると、グリッド降格ペナルティが科されることになっているのだ。
2019年のF1ワールドチャンピオンに輝いたメルセデスのルイス・ハミルトンは、1度もグリッド降格ペナルティを受けることはなかった。一方で彼のチームメイトであるバルテリ・ボッタスは、最終戦アブダビGPでグリッド降格を受けている……この事実も、ハミルトンのタイトル獲得を後押ししただろう。
昨年、メルセデスのライバルとなったフェラーリは、シャルル・ルクレールが4基目のICEを、セバスチャン・ベッテルが3基目のCEを投入。それぞれグリッド降格のペナルティを受けたが、それだけ。つまり信頼性の面でも、メルセデスには劣ったとはいえ、かなり高いレベルにあったと言えるだろう。
対照的にレッドブルは、2台共に6基全てのエレメントでペナルティを受け、いずれのマシンもレギュレーションで許されているより2基多いICEを使った。ホンダのPUを搭載したトロロッソはさらに多く、2台のSTR14は1シーズンで7基のICEを使った。
とはいえ、ホンダがF1に復帰した2015年以来、その信頼性は明らかに向上し、年々PUエレメントの使用数が少なくなっている。
2015年以降、ホンダのドライバー別エレメントの使用数の推移は、以下の通りだ。
年 | レース数 | ドライバー | ICE | TC | MGU-H | MGU-K | ES | CE |
15年 | 19 | アロンソ+マグヌッセン | 12 | 11 | 11 | 8 | 4 | 7 |
バトン | 11 | 12 | 12 | 10 | 4 | 6 | ||
16年 | 21 | アロンソ+バンドーン | 8 | 9 | 9 | 7 | 7 | 7 |
バトン | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | ||
17年 | 20 | アロンソ | 9 | 11 | 11 | 8 | 7 | 6 |
バンドーン | 10 | 12 | 12 | 9 | 7 | 7 | ||
18年 | 21 | ハートレー | 8 | 8 | 8 | 7 | 3 | 4 |
ガスリー | 8 | 8 | 8 | 6 | 3 | 3 | ||
19年 | 21 | クビアト | 7 | 7 | 7 | 6 | 3 | 3 |
アルボン+ガスリー | 7 | 5 | 5 | 5 | 3 | 3 | ||
フェルスタッペン | 5 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 | ||
ガスリー+アルボン | 5 | 5 | 5 | 4 | 3 | 3 |
■年々改善する、ホンダPUの信頼性
数字だけで全てを知ることはできない。チームとそのPUパートナーは、信頼性の問題だけでなく、戦略的にPUコンポーネントを交換する場合もあるからだ。つまり、不具合が生じたコンポーネントを交換するだけではない。
あるドライバーが、何らかの理由で後方のグリッドに沈んだ場合、新たなPUコンポーネントを投入してペナルティを受けたとしても、その影響は軽微である。
また、チームにとって”苦手”と言えるサーキットで新PUを投入してペナルティを消化し、今後のレースに備えるということもある。
さらにチームによっては、PUを労って走り、走行距離を延ばすということもある。メルセデスは2019年シーズン、実際にそれを行ない、ハミルトンは1基のPUあたり7イベントを走破した。
対してホンダは、当初から1基のPUで7イベントを走破することを目指さず、追加のPUを投入し、ペナルティを受ける必要があることを享受し、シーズンをスタートさせた。
ホンダのPUの使用数は、過去5年で先に挙げた全ての要因によって増えることになった。しかし、マクラーレンとトロロッソ時代には、エレメントを交換したことによるペナルティが痛手となることはほとんどなかった。そのため、エレメントの使用数が増えるのは明らかなことだったとも言える。
ICEを例に見てみると、2015年のマクラーレン時代には、フェルナンド・アロンソ(一部ケビン・マグヌッセンが代役参戦)が12基、ジェンソン・バトンが11基を使った。それが2016年には8基と6基、2017年には少し増えて10基と9基と推移していった。2018年には供給先がトロロッソに変更され、ホンダPUの信頼性が向上……ただ実験的なスペックを投入したこともあり、ブレンドン・ハートレーとピエール・ガスリーはそれぞれ8基を使った。
その後2019年には、レッドブルの2台はそれぞれ5基のICEを使用。これは信頼性の面で重要なステップだったと言える。ただ、追加のエレメント投入によるペナルティの代償は大きく、フェルスタッペンのポイントに影響を与えた。もしフェルスタッペンが2020年にタイトルを狙うのではあれば、これは是が非でも避けなければならない。
2019年、ベルギーGPではレッドブルのアレクサンダー・アルボンと、トロロッソのダニール・クビアトが、新エレメント投入によるペナルティを受け、スペック4の最新型PUを手にした。このベルギーは、フェルスタッペンの母国から最も近いグランプリだったということもあり、新PUの投入を見送り、次のイタリアGPに先送りされた。フェルスタッペンはこのモンツァで全てのエレメントを新スペックにしたが、リタイア率の低いレースではポジションアップは難しく、8位になるのが精一杯だった。
またフェルスタッペンは、ロシアGPでも新PUを投入。これは、ホンダの母国レースである日本GPで、ペナルティを受けることを避けるべく、前倒しでPUを投入した例だ。
このロシアGPでフェルスタッペンは予選4位となったが、ペナルティにより9番グリッドまで降格。レースではなんとか4位でフィニッシュしたが、再びポイントを失うことになった。
実際には、昨年のフェルスタッペンは、タイトル争いには参加できていなかった。そのため、ペナルティを受けることはあまり重要ではなかった。彼らにとって重要だったのは、個々のレースの結果であり、レッドブルとホンダの組み合わせが、レースに勝てるということを証明することであった。
■ペナルティを受けるか、受けないか……求められる戦略的決断
しかし2020年の目標は異なる。チームは、チャンピオンを獲得することを目指すのだ。しかし史上最多、22戦からなる開催カレンダーは、これまでよりも難しい”挑戦”ということになる。MGU-Kの使用可能基数が3基に引き上げられ、この点ではある程度の余裕が生まれるが、それでも厳しい制限数であることに変わりはない。
中国GPの開催可否が懸念されているとはいえ、ホンダが昨年のパフォーマンスを犠牲にすることなく、7イベント以上を走破できるPUを作ることができるだろうか? それを実現することは、マイレージという面で言えば、2019年シーズンと比較すれば大きな飛躍となるだろう。
もしくは、シーズンを4基で戦うという戦略的な決断をすでに行ない、PUのマイレージの目標を5〜6イベントに減らし、シーズン後半にペナルティを受けることを選ぶのだろうか?
タイトルを目指すことを考えれば、それは重要な選択ということになるだろう。
シーズン中に4基のICEを使うことに、メリットがないわけではない。もしシーズン開幕当初からこの戦略に従ってしたのなら、シーズン後半にさらなるアップグレードを投入することもできる。さらに1基あたり5〜6イベントを走りきればいいことになるため、より負荷の高いモードを使うことができる可能性すらある。
レッドブルの内部では、ホンダの進歩について、前向きな雰囲気がある。
「彼らはとても満足そうだ」
レッドブルのチーム代表であるクリスチャン・ホーナーは、先週そう語った。
「エンジンは昨年を通じて、一定の進歩を遂げた。最新のエンジンは、その進化の次のステップだ」
「彼らはテストベンチで、多くのマイレージを達成した。我々は彼らと、エンジンのシャシーへの統合についても含め、実に密に連携している」
「彼らは、次のステップアップを遂げることに、とても集中している。彼らが成し遂げた改良は、5年前の立ち位置と今を考えれば、驚異的なモノだった。実に印象的だ」
2月19日から、スペインのカタルニア・サーキットで行なわれるプレシーズンテスト。そこで、ホンダの最新PU”RA620H”がどんなパフォーマンスを発揮するのか、そして6日間しかない重要な走行機会からどんなことを学ぶのか……大いに注目されることになるだろう。
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