F1日本GPのテレビ放送に起きた”奇跡”。放送センター、台風の影響で大移動
巨大台風19号は、2019年のF1日本GPに大きな影響を与えた。鈴鹿サーキットに最接近した土曜日は、全てのセッションが中止となり、予選と決勝が日曜日に行われることになった。しかしこの台風の影響は、それだけではなかった。
F1 Broadcast Centre
Formula 1
台風19号の接近に伴い、開催スケジュールが大きく変更された2019年のF1日本グランプリ。台風が鈴鹿サーキットに最接近したのは土曜日だったため、同日に予定されていた全ての走行セッションが中止され、日曜日に予選と決勝を行う変則的なスケジュールとなった。また、予定されていたサポートレースも中止された。
しかし鈴鹿サーキットでは、それ以外にも台風19号について様々な影響があった。そのひとつが、F1のテレビ放送に関する問題だ。今回の放送を実現させるために、ほぼ奇跡を起こすのと等しいほどの努力がなされたのだ。
レースの週末に台風19号の影響が及ぶのは、ほぼ確実視されていた。しかし、それがいつになるのか、そしてどのくらいの期間に及ぶのか、台風が日本列島に近づかない限り分からなかった。
予報の精度が上がるにつれ、サーキットに強風と大雨のリスクが及ぶ可能性が高いことが明らかになってきた。そしてF1が用意する放送センターが、突然懸念の矢面に立たされることになったのだ。
F1チームと同様に、F1の放送システムも世界中を旅している。そしてどんな天候からも、そのハイテクシステムを守るようになっている。例えば鈴鹿サーキットの場合は、最終コーナーの内側に巨大なテントが建てられ、その内部に全ての機器が配置されていた。しかしこの施設は、台風に耐えられるようには設計されていなかった。
これはF1にとっては大問題だった。テレビ放送と、このテクノロジーセンターは、ある意味現在のF1の中枢と言っても過言ではないからだ。
このテクノロジーセンターがなければ、世界中でのテレビ放送はなく、おそらくレースも行われなかっただろう。なぜなら、グランプリの成立に不可欠なシステム(タイミングシステムを含む)は、このテクノロジーセンターに依存しているからだ。台風の被害を受けるわけにはいかなかったのだ。
F1 Broadcast Centre
Photo by: Formula 1
同センターのテクニカルディレクターであるアンドリュー・ジェームズは、これについて次のように語った。
「テレビがなければ、レースをする意味などほとんどないのだ。しかし放送センターは、他にも多くのことを推し進めている。我々はジャンプスタートとピットレーンスピードの検知、オンボードカメラ、タイミングデータなど、その全てを担っているのだ。(台風の被害を受けていたら)全てのことが危うくなっていただろう」
木曜日の遅い段階では、放送センターは金曜日の夜に解体し、全ての機器を安全な場所に移し、その後天候の脅威がなくなり次第、再度放送センターを組み上げるというシナリオが検討されていた。しかし翌金曜日の朝には事態が悪化。サーキットの担当者との会議で、台風が最接近するタイミングが遅く、放送センターを再度組み上げるための十分な時間がないことが明らかになったのだ。
「金曜日の午前8時に、サーキットとミーティングを行った。そして放送センターを一度解体したならば、再度組み上げる時間はないということはとても明確だった」
そうジェームスは語る。
「天候から身を守る必要があることは分かっていた。そしてそのための唯一の方法は、機器を室内に置くことだった。ガレージの中にそれを入れなければいけなかったのだ。そうしなければ放送できないのは明らか……それを実現させるための方法を見つけなければいかなかったんだ」
これに対処するため、彼と彼の部下たちは、鈴鹿サーキットやFIAと協力して、様々な手を尽くした。
彼がしなければいけない最初の仕事は、テレビ放送用の機器を設置するための場所を探すことだった。収納しなければならない機器は膨大。技術用のコンテナ11個を内包し、70人のスタッフが働けなければならないのだ。機器の総重量は80トンにも及ぶ。
この解決策は、放送センターに設置された機器を、より強固な場所に移動すること以外になかった。サーキット内で最も頑丈な場所……それがピットガレージであることは明らかである。
ただF1期間中は全てのガレージを使うのが常。当初はどこにも空きがなかった。しかしそれを少しシャッフルしたことで、いくつかのスペースを見つけることができた。
「FIAの助けを借りた」
ジェームスはそう説明した。
「彼らはガレージを片付けてくれた。そしてオンボードカメラとそれ以外のカメラのワークショップを、そこに移動させた。このサーキットは、ふたつのガレージの間のパーテーションを外すことができたのだ」
F1 Broadcast Centre
Photo by: Formula 1
場所が決まると、その後は全ての機器を移動させる作業が開始された。通常、F1の放送センターを立ち上げるのに、約1日半を要する。そしてそれを片付けるのにも、5〜6時間かかるのだ。このタイムスケールを考えれば、台風が通過した後にセンターを再構築するのは、現実的ではないというのも明らかだろう。
「我々は金曜日の午後4時から、解体作業を始めた。全て手作業だったんだ」
そうジェームスは説明する。
「我々には素晴らしいチームがあり、その全員が今何をすべきかということを理解しているんだ」
「結局2時間半で解体することができた。そしてその後、機器をガレージに運んで配線をしなければいけなかった。放送センターで電源を切ってから、ガレージで電源を入れるまでに、8時間半しかかからなかった。それは信じられないことだ。チームの誰もが、何をする必要があるのかを正確に知っているからこそ、実現できたんだ」
「最高の状態でF1に挑むことができた。我々がそれに立ち向かう時だったのだ。全員が一緒になって、それを実現したんだ」
元々土曜日の午前10時までかかると考えられていた放送用機器の移設作業は、大幅に作業時間が短縮され、実際には午前3時半に終了した。またガレージ内の温度が暑くなりすぎないようにするため、仮設の空調ユニットも設定された。そして全てのシステムがしっかりと機能していることが確認されると、再び電源が落とされ、そして台風19号の接近に備えるべくガレージはしっかりと閉じられた。
日曜日の午前5時には再度電源が入れられ、午前8時にはチェックの手順が実行、そして10時から無事に予選を行うことができた。テレビやインターネット配信で日本GPを見たファンは、金曜日との違いを見分けることもできなかっただろう。
ジェームスは、鈴鹿でのスタッフの仕事ぶりは、十分に現実的な早さだったと指摘。しかしこの早さを毎度求められてはつらいと語った。
「日曜日の朝、チェイス(キャリー/F1のCEO)にそう言ったよ」
ジェームスはそう語った。
「毎レースこんなことができるなんて、期待してほしくないね!」
F1 Broadcast Centre
Photo by: Formula 1
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