F1メカ解説|メルセデスとレッドブル、激戦のタイトル争い……ライバルに打ち勝つための”空力”セッティング
今シーズン、激しいタイトル争いを繰り広げるレッドブルとメルセデス。争いが激化していくにつれ、両チームのセッティングを細かく変更し、ライバルに対する優位性を生み出そうとしている。
写真:: Mark Sutton / Motorsport Images
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
メルセデスのルイス・ハミルトンと、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが熾烈なタイトル争いを繰り広げている2021年シーズン。第15戦ロシアGPが終わった段階でふたりのポイント差はわずか2点差と、近年稀に見る激戦になっていると言えるだろう。
そんな中ロシアGPでは、フェルスタッペンがパワーユニット(PU)交換を決断。このPUは年間の使用制限数を超えたモノであったため、フェルスタッペンはペナルティを受け、グリッド最後尾から追い上げることになった。
このためフェルスタッペンのマシンは、チームメイトのセルジオ・ペレスのモノと比較して、フロントとリヤのウイングがローダウンフォース仕様となっていた。これは後方からの追い上げを実現するためには、レース中にオーバーテイクがしやすい=最高速が伸びるマシンになっていなければならないからだ。
2台のレッドブルRB16Bの違いは外見でも明らかで、フェルスタッペン車のメインプレーンは翼端部分がより薄なった激しいスプーン形状となり、さらにリヤウイング翼端板もペレス車と比較して大幅にシンプルなモノになった。ただバランスを改善するために、フラップの後端にはガーニーフラップが取り付けられている。これは、レッドブルがアゼルバイジャンGPの時に使ったセットアップと非常に良く似ている。
Red Bull RB16B front wing comparison
また2台のフロントウイングの仕様も僅かながら異なっており、ペレスのフラップ後端は、フェルスタッペンのそれよりも複雑に波打つ形状になっていた。これも、マシンの前後バランスを整える策のひとつだと言えよう。
■メルセデス、将来に向けた”実験”
一方メルセデスは、フリー走行の際にドライバーごとに空力のセッティングを変え、それを比較検証していた。これによりチームは、週末に進むべき方向を探るために、多くのデータを得ることができる。ただ、セッションが進むにつれ、それぞれのドライバーが別々のルートを辿ることもある。
これまでの例としては、ハミルトンの方がボッタスよりもローダウンフォース仕様をより好む傾向にある。
Mercedes AMG F1 rear wing comparison
Photo by: Giorgio Piola
ロシアでは、ふたりのドライバーが共にローダウンフォース仕様のリヤウイングをつけて週末の走行をスタートさせた。しかし予選を前に、ボッタスはよりダウンフォースの大きいセッティングに変更……その仕様のまま決勝レースを迎えた。
ただボッタスのマシンのフラップ中央部分は、空気抵抗を減らすためのV字型の切り欠きがハミルトンのモノよりも大きくなっている。
Mercedes W12 front wing comparison
メルセデスは、フロントウイングも複数準備。そしてハミルトンはFP1で、新しい仕様のフロントウイングを試している。これは従来のモノとは若干フラップの形状が変化し、翼端に近い部分が少し跳ね上がるような形となっている。点線をご覧いただくと、その違いがよく分かるだろう。
ただチームは、このデザインのフロントウイングをレースでは使わないことを決定。おそらく、今後のレースに向けたテストだったということだろう。
ロシアGPでハミルトンは優勝を手にしたものの、ライバルであるフェルスタッペンは、最後尾スタートながらなんと2位でフィニッシュ。メルセデスとしては、ポイント差を拡大する絶好のチャンスだと考えていたはずだが、それは叶わなかった。シーズン終了後に振り返ってみれば、このロシアGPの結果は非常に重要だった……と考えることになる1戦だったのかもしれない。
■マクラーレンのウイング
ここ2戦、マクラーレンの躍進が著しい。イタリアGPではダニエル・リカルドが優勝、ランド・ノリスが2位と、1-2フィニッシュを達成。さらに続くロシアGPではノリスがポールポジションを獲得し、レース終盤に雨が降らなければ、優勝すら手に届きそうな活躍を見せた。
ただイタリアGPの舞台であるモンツァと、ロシアGPの舞台であるソチは、それぞれ異なるサーキット特性であるため、要求されるダウンフォース量も違っていた。
ロシアで使われたのは、比較的ハイダウンフォースを生み出す仕様のリヤウイング(イラスト左)、モンツァでは1戦限りの登場になるであろうローダウンフォース仕様のリヤウイング(イラスト右)を使った。
両者の間には劇的な違いが存在しており、超高速のモンツァではそのフラップが薄くなり、さらに高さも低くなっている。前面投影面積も低く、空気抵抗を低減することが目指されている。
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