【F1特集】2021年のF1ルーキーを真剣評価! 角田裕毅やミック・シューマッハーらはシーズンをどう戦ったのか
F1の2021年シーズンには3人のルーキーがグリッドに並んだが、彼らはそれぞれに厳しいシーズンを過ごした。角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)とミック・シューマッハー、ニキータ・マゼピン(どちらもハース)のルーキーシーズンを振り返ろう。
写真:: Charles Coates / Motorsport Images
かつて詩人アレクサンダー・ポープはこう言った。
「何も期待しないものは幸いである。彼らは決して失望することはない」と。
2021年シーズン、FIA F2を卒業しF1デビューを果たした3人のルーキードライバーのうちふたりは、大きな期待を背負ってF1の舞台に立った。
ひとりは角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)。レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであり、ドライバー育成プログラムを率いるヘルムート・マルコから「次世代のF1を担う存在」として大きく期待されている。
もうひとりは、7度のF1ワールドチャンピオンであるミハエル・シューマッハーを父に持つミック・シューマッハー。フェラーリとミハエル・シューマッハーを支えた人々のサポートを受けている。
角田にせよ、ミック・シューマッハーにせよ、どちらもアイルトン・セナやルイス・ハミルトン(メルセデス)、あるいはミハエル・シューマッハーのようなインパクトをルーキーシーズンに残すことはできなかったと言える。
角田はF2参戦1年目でランキング3位、シューマッハーはF2参戦2年目でタイトルを獲得したが、パワーやダウンフォース、そして注目度が圧倒的に大きいF1では苦戦して当然かもしれない。
角田裕毅
Yuki Tsunoda, AlphaTauri
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
評価: もっと良くできるはず
ドライバーズランキング: 14位
ベストリザルト: 4位(アブダビGP)
獲得ポイント: 32pt
以前、「角田はシューマッハーよりもF2で速かった」と語ったマルコが言い過ぎなのではないかと思った人もいるだろう。それでも、ホンダ育成プログラムからヨーロッパ行きのチケットを掴んだ角田は、レッドブルの育成プログラムを通じてマックス・フェルスタッペン(レッドブル)以来の有望株としてF1へたどり着いた。
開幕戦バーレーンGPでは、デビュー戦でポイントを獲得。2016年のストフェル・バンドーン(当時マクラーレン)以来のデビュー戦入賞ドライバーとなった。
スタートでは順位を落としたものの、その後は淡々とオーバーテイクを重ね、レース最終盤にランス・ストロール(アストンマーチン)を抜いて9位をもぎ取った。その豪快な走りは、マルコの言葉を充分に裏付けているように思えた。実際、F1モータースポーツ・ディレクターのロス・ブラウンが角田を「ここ数年で最高のF1ルーキー」と評するほどであった。
ただ第2戦以降、角田はこの鮮烈なデビューと対照的なシーズンを過ごすこととなった。経験豊富なチームメイトのピエール・ガスリーに予選ペースで差を付けられ、それまでとは異なるF1のダウンフォースやピレリタイヤの気まぐれさ、予選は速いが決勝レースではタイヤがすぐに摩耗してしまうマシンに、想像以上に苦しめられた。
後ろふたつの点では、角田と同様に他のルーキーも、性能劣化が進むタイヤを守れるマシンにセットアップを合わせ込まなければならない地点に到達していた。学習と迅速な適応がF1ドライバーには要求されるが、この試練での角田への評価は「ボロボロ」だったと言えよう。
スペインGPの予選Q1で敗退した後、角田はマシン装備での待遇が不平等なのではないかとチームを疑うにまで発展。後に、「自身のパフォーマンスにフラストレーションを抱えていたからだ」と角田は悔恨していた。
シーズン後半では、ハンガリーGPでレースの混乱を切り抜け6位、アメリカGPでは4度目のQ3進出を果たし9位入賞、そして最終戦アブダビGPへと調子を徐々に上げていった。予選でもQ3進出が目立つようになったものの、予選Q2で周囲がミディアムタイヤを履く中ソフトタイヤを選択することも多く、決勝レースの第1スティントでズルズルと順位を下げてしまうこともあった。
レッドブルのリザーブ兼テストドライバーで、角田を陰からサポートしてきたアレクサンダー・アルボンが2022年シーズンからウイリアムズでF1復帰を果たすことから、角田は”独り立ち”を強いられることになる。
角田は、最終戦アブダビGPではフリー走行や予選セッションでガスリーを上回り、決勝レースでも終始力強い走りとオーバーテイクで自己最高の4位を獲得した。来季は最終戦で見せたように、予選でマシンから最大限のパフォーマンスを引き出し、決勝レースでトラブルを起こさず走り切ること、そしてチーム無線での悪態を少し減らすことを継続して行なうことが求められる。角田の改善点は明らかだ。
ミック・シューマッハー
Schumacher impressed with his resilience in battle at the Hungaroring, but there were still plenty of shunts
Photo by: Charles Coates / Motorsport Images
評価: もっと上手くやるべき
ドライバーズランキング: 19位
ベストリザルト: 12位(ハンガリーGP)
獲得ポイント: 0pt
シューマッハーのジュニアフォーミュラでの歩みについては、これまでにも多くが語られてきたので、ここでは割愛させて頂く。シューマッハーはF2でタイトルを取り、F1昇格が決まるとその苗字からF1界内外から大きな注目を浴びたことは言うまでもない。また、かつて父ミハエル・シューマッハーをサポートしていたクルーによる万全の体制と、多くを語らずとも長時間のインタビューにも応じられるという才能も兼ね備えている。
「想像していたよりもずっと良いシーズンだった」とシューマッハーはF1ルーキーシーズンを振り返る。
「レースの面では厳しい1年になることは分かっていたが、チームとして上手くやりこなせたと思う」
控えめに言っても、シューマッハーは驚くべき才能を持っている。
ここ1年半にかけて風前の灯火だったハースは、新レギュレーションへの適応を除き、2020年シーズンとほとんど変わらないマシンで2021年シーズンに臨むことになった。開幕前に導入が予定されていた少量のパーツを除けば、パフォーマンス向上を目的とするアップグレードが行なわれることはなく、シャシーでさえも2021年に引き継がれたのだ。
2021年シーズン用の戦闘力に劣る『VF-21』を速く走らせるためには、限界ギリギリを攻め続ける必要がある。大クラッシュに繋がる可能性が大きい中でもシューマッハーとニキータ・マゼピンが、クラッシュの回数を比較的少なく抑えたことは評価に値するだろう。
一方で、マシンが貧弱が故にシューマッハーの肩にのしかかるプレッシャーは軽減され、同じくルーキーの角田を始め他ドライバーとの厳密な比較はできない。ただ、チーム内バトルという点では、シューマッハーはチームメイトを充分に圧倒したと言って良いだろう。
予選では、常にシューマッハーがマゼピンよりも1秒以上回るパフォーマンスを見せていた。マゼピン陣営は、2020年シーズンのバーレーンGPでロマン・グロージャンが大クラッシュを喫した後に作られた、4kg重いシャシーをマゼピンが使わざるを得なかったからだと指摘している。これは重量だけでなく、バラストによるハンドリング調整にも影響を及ぼすが、これだけによってシューマッハーとマゼピンのタイム差が1秒以上開くことは考えられない。
シューマッハーはマシンの調子が良ければ、印象的な走りを見せた。フランスGPでは最終的にクラッシュを喫するも、初めて予選Q2へ進出した。また、ハンガリーGPではフリー走行3回目でのクラッシュからその後の予選セッションを欠場したものの、上位勢の混乱をくぐり抜けて一時はポイント圏内を走行。後方から追い上げるフェルスタッペンと堂々のバトルを演じた。その後は何度もブルーフラッグに見舞われながらも、アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)を抑えこみ13位(2位ベッテルの失格により12位)入賞を果たした。ポイント獲得はならなかったものの、その走りは印象的であった。
トルコGPでは再び予選Q2に進出したが、シーズン終盤のサウジアラビアGPの決勝レースでは単独クラッシュ。前を行くジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)のDRS圏内に入ろうとしていた際の出来事だった。彼のファイティングスピリットは称賛すべきものだ。そして、ヨーロッパF3とF2では2年目に結果を出していたことを鑑みると、2022年はその期待に応えてくれるかもしれない。
ニキータ・マゼピン
Mazepin had a bruising first year
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
評価: もっと頑張る必要あり
ドライバーズランキング: 21位
ベストリザルト: 14位 (アゼルバイジャンGP)
ポイント: 0pt
「象を食べるには一口ずつ。僕にとってF1は、象と似ているね」と、2021年シーズン最終戦を前にマゼピンは記者団に向かって語っていた。
ルーキーイヤーのマゼピンが注目を集めたのは、私生活よりもサーキットでのマナーの悪さやスピン、クラッシュだった。2016年のヨーロッパF3ではカラム・アイロットの顔面を殴り、直近では2020年のF2スパラウンドのフィーチャーレースで角田に優勝を奪われた際、角田をパルクフェルメにて轢きかけるなど、自制心に欠けるシーンが数多く見受けられただけに、F1でそうした面で注目されるというのはある意味当然と言えば当然のことなのかもしれない。
チームメイトのシューマッハーとの関係は決して良好とは言えないものの、F1ルーキーシーズンの2021年シーズンでは自制心を失うことはほとんどなかった。とはいえ、オランダGPではシューマッハーをあからさまにウォールへ追いやるなど、F2時代の姿に戻りつつあるのも確かだ。
また、予選セッションでタイム計測を行なうために並ぶドライバーを追い越し、隊列を乱したことでも悪評を買っている。F2では認められていることだが、F1では”紳士協定”としてマナー違反だとされているが、セバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)やフェルスタッペンなども、この暗黙のルールは明記されていないため効力はないと示唆している。
そしてマゼピンは、角田やシューマッハーよりもおそらくF1デビューに向けた準備が整っていた。というのも、今季のハースを財政的に支えてきた彼の父は、息子のために2020年シーズン中、2017年のメルセデスF1マシンで大規模なプライベートテストプログラムを実施し、その費用を負担した。ただ、ハースのVF-21は戦闘力に劣るマシンであり、”おそらく準備ができていた”というのが適切な表現だろう。
「2020年にメルセデスのマシンに乗って彼は何かしら学んだとは思うが、我々のマシンはメルセデスほど良くないということも理解する必要がある」
マゼピンが第2戦エミリア・ロマーニャGPのFP1でスピンを喫した後、ハースのギュンター・シュタイナー代表はそう語っていた。
「彼は限界を見つける必要があるが、それは彼自身が見つけるモノであり、我々ではない。我々は2021年を『学びの年』に定めた。スピンの年でないことを願うよ」
小さなステップではあるものの、マゼピンも改善を示している。特に、開幕戦からマゼピンが愚痴をこぼしていた古く重いシャシーから、マゼピンの父が新型シャシーを買い与えた後に一定の効果が表れた。
ブラジルGPの予選Q1では、シューマッハーよりも速いラップタイムを計測できそうなところでミスを犯し、セッション後のインタビューで涙を流した。
マゼピンがシューマッハーの前でゴールしたのはたった3回だったが、意外にもリタイア回数は少なく、しかもそのリタイアの全てが自身のミスによるモノとは言えない。例えば、ハンガリーGPではピットボックスから放たれたキミ・ライコネン(アルファロメオ)がファストレーンを通過していたマゼピンのマシンにヒット。マシンのダメージは大きくリタイアとなった。全体的にみれば、彼は限りあるスキルで戦闘力に乏しいマシンをコース上に留めるよう走っていたという印象だ。
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