有料放映か無料放映か……現代F1の大きな悩みのタネ

2021年シーズンの開幕から続くルイス・ハミルトン(メルセデス)VSマックス・フェルスタッペン(レッドブル)のF1タイトル争いはファンの間でも大きな話題となっており、多くの国で、F1の視聴者数が急増しているという。

有料放映か無料放映か……現代F1の大きな悩みのタネ

 第7戦フランスGPを迎えた2021年シーズンのF1は、近年とは少し異なる様相を呈している。そう、F1のタイトル争いだ。メルセデスを駆る7度のF1世界チャンピオンであるルイス・ハミルトンと新進気鋭のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、ここまで激しいバトルを演じており、タイトル争いの行方はファンの間でも大きな話題となっている。そして、ふたりの激しい争いは、多くの国で新たなF1の視聴者を呼び込むことにも大きく寄与している。

 言わずもがな、モンテカルロの市街地を舞台にしたモナコGPは、F1で最も権威のあるGPレースである。近年最も視聴されるレースのひとつであり、フェルスタッペンがレースを制した今年のモナコGPも多くのファンがテレビを通じて観戦をしたことだろう(昨シーズンは、新型コロナウイルスの感染拡大により開催が見送られた)。

 しかし、近年稀に見る接近したタイトル争いが展開される中、出来る限り多くの国や地域で無料放送を行なった方が、F1が多くの利益を得られるのではないかという議論が再燃している。

 現代のF1は、世界的にも無料放送ではなく有料放送が主流である。F1は独自の配信サービス『F1  TV』を展開し、各国のテレビ放送局やDAZNを始めとするデジタル配信業者が、F1から放映権を買い上げている。F1が有料放送を重視していることについて、先日ハミルトンはこう語っていた。

「有料放送やSky (イギリスに本拠地を置く大手有料放送事業者)などを利用する余裕がない人たちの気持ちはわかる。ただ、それが今の世の中の風潮で、僕らに出来ることは多くない」

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 F1の無料放送、有料放送がそれぞれに抱える長所や短所の問題が議論されるのは、今回が初めてではない。2012年にSkyがF1放送を開始して以来、特にイギリスのファンを中心に意見がふたつに分かれている。

 これまでは、生中継の視聴者数の減少という代償を、有料放送を行なうチャンネル又はストリーミングサービスが支払う放映権料で賄えるかという議論に集約されていた。

 しかし、決勝レースの視聴者数だけではなく、有料放送がもたらす脅威と機会は、はるかに微妙なものというのが現実だ。

有料放送がもたらすプラスαのメリット

Simon Lazenby, Sky TV, on the grid prior to the start

Simon Lazenby, Sky TV, on the grid prior to the start

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 F1の視聴者数がピークに達したのは2008年で、その年の実質的な視聴者数は6億人だったと言われている。

 F1の有料放送化が世界的に進むに連れ、視聴者数は2018年で4億9000万人、2019年には4億7100万人と右肩下がりに。新型コロナウイルスの影響による短いF1カレンダーとなったこともあり、2020年は4億3300万人となった。

 世界的に見るとF1の視聴者数は下降傾向にあるが、一部の市場では順調に数字を伸ばしている。アメリカでは、タイムゾーンの異なるヨーロッパと中東地域でのみ開催された昨年も1%の視聴率向上を果たし、2021年も記録的な数字を出し続けている。

 確かに、無料放送中心のF1に回帰すれば全体の視聴者数が増えるということは火を見るよりも明らかだ。しかし、無料放送に切り替え、見た目上の視聴率を向上させることが、実際にF1というスポーツ全体に利益をもたらすのだろうか?

 こうした問いについて、F1のメディア権利担当ディレクターを務めるイアン・ホームズは特に懐疑的な見方を示している。

 彼は、有料放送よりも無料放送の方が確実に多くの視聴者をF1に呼び込むと理解はしているものの、スポーツ全体にとって何がベストな選択かを理解するのは、更に複雑なことだと考えている。

 有料放送では徹底的かつ包括的な報道や、Skyのような組織によるF1の視聴率向上を目的とした多大なマーケティングなどが可能であり、こうした様々な要素がF1の全体的な露出を高めることに寄与していることを忘れてはならない。

「無料の生中継と有料の生中継を比較しても意味がない」とホームズは言う。

「Skyが例外ではなく、フランスで長年有料放送を行なうCanal+にも同じことが言える。(有料放送に切り替えたことで)彼らがF1の放映権の為にどれだけのマーケティングを行なっているか、そしてどの様にコンテンツを配信するかを知ることができた。生放送の比率などを上回るものだ」

「最初に我々がSkyと契約した際、シーズンが始まる前からそれまで以上の露出を得る事ができた。クルマで走っている時に、大きな広告看板を至るところで目にしていたのを覚えているよ。それ以前には無かったことだ」

「『視聴者数はどれくらいか』ということだけではない。『どのようにこのスポーツを支えるのか』や『どのように売り込むのか』、『どれだけの時間を割くことができるか』がカギとなってくる」

「そうした点を、シーズンをまたいで注視していかなければならない」

「もし生放送のスナップショット(視聴率の比較)から始めれば、もちろん少なくなるだろう。しかし問題は、その数字がシーズン中にどのように成長し、発展していくのかということだ」

「無料なのか有料なのかということよりも、多少意味合いが異なってくる。正直に言うと、オリンピックやワールドカップ、欧州サッカー選手権などの4年に1度のイベントを除けば、無料放送で成功しているスポーツはほとんど無く、それには理由がある」

F1における市場の差異

Lewis Hamilton, Mercedes W12, Max Verstappen, Red Bull Racing RB16B, Valtteri Bottas, Mercedes W12, Charles Leclerc, Ferrari SF21, and the rest of the field away at the start

Lewis Hamilton, Mercedes W12, Max Verstappen, Red Bull Racing RB16B, Valtteri Bottas, Mercedes W12, Charles Leclerc, Ferrari SF21, and the rest of the field away at the start

Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images

 24時間体制で報道し、多くの無料放送チャンネルでは不可能なレベルの露出を提供可能なSkyをはじめとする献身的な放送局や配信サービスの存在は、F1のみならずチームやスポンサー、そしてファンにとっても有益だ。放送局や配信サービスを通じ、6年間で約153億円以上の経済効果が生み出されているという。

 しかし、オークションのように、一番高値で放映権を買う放送局や配信サービスをF1が求めているという訳でもない。取引時には、利益のみならず『F1の為にどう機能するか』を明確にすることが求められる。

 確かに決勝レースの生放送の視聴率に関しては、有料放送の導入は無料放送よりも視聴者を失いかねない。しかし、重要なのはシーズン全体を通しての影響だ。

 また、F1の有料放送導入による代償が大きすぎると判断された一部の市場では、放送チャンネルは変更されず、無料放送が残っている。

「成長途上の市場と成熟した市場では、異なる立場を取る」とホームズは語る。

「シンガポールとインドのような場所では異なる立場をとる。一方は(有料放送導入による影響が)少なく、もう一方は致命的だ」

 それに加え、F1独自のF1TVを始め、デジタルコンテンツの追加パッケージを各国の視聴者のために、付加価値として提供できるかどうかを検討する必要がある。

デジタルコンテンツ

Karun Chandhok, Sky TV, Jenson Button, Sky Sports F1, and Simon Lazenby, Sky TV, on their socially distanced platform

Karun Chandhok, Sky TV, Jenson Button, Sky Sports F1, and Simon Lazenby, Sky TV, on their socially distanced platform

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 視聴者数はスポーツの人気を測る一つの指標に過ぎず、今まで以上にファンがF1に夢中になり、多くのコンテンツに触れたことはない。

 かつてF1の支配人を務めたバーニー・エクレストンは、F1はソーシャルメディアで無料のコンテンツを提供すべきだと提案する人を嘲笑していたが、権限を受け継いだリバティメディアはまったく逆のアプローチを取っている。

 FacebookやTwitter、Instagram、TikTokなどのソーシャルメディアを積極的に活用することで、F1は世界で2番目に速いペースで成長しているスポーツリーグとなった(元々のベースが低かった分、伸び代があったというのも一因だが)。

 昨年、F1関連の動画はインターネット上で50億回近く再生され、チームやドライバー、スポンサーは今まで以上に再生数を稼いでいる。

 また、ソーシャルメディア上でコンテンツを多く発信することで、ファンが有料放送に加入しなくなるのではという否定的な見方もあるが、実際にはこれまでとは異なる層の視聴者を呼び込むキッカケになっているとF1は考えている。

「主要な放送パートナーが買う放映権も、我々(F1)や他の誰かが発信しているコンテンツあってこそだと多くの証拠が示している」ホームズは言う。

「”ファネルの最上部”などというマーケティング的な表現があるが、それは必要不可欠なものだ。(編注:SNSを通じた潜在的顧客のエンゲージメントなどを行なうマーケティング戦略)そして、若年層のことが話題になっているが、レースを観てくれるのは別に彼らでなくても良いのだ」

「生中継のレースを観ることを辞める人はいないが、今やっていることが人々を(視聴者に)変えるだろう。その点は、みんな認識していると思う」

ドイツとブラジルの例から見えるモノ

Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 W10 leads Max Verstappen, Red Bull Racing RB15, Sebastian Vettel, Ferrari SF90 and Alexander Albon, Red Bull RB15 at the restart

Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 W10 leads Max Verstappen, Red Bull Racing RB15, Sebastian Vettel, Ferrari SF90 and Alexander Albon, Red Bull RB15 at the restart

Photo by: Andy Hone / Motorsport Images

 しかし今年は、ドイツとブラジルという巨大市場がチャンネルを変えたことで、F1の放送にふたつの大きな変化をもたらしている。

 このふたつの例は、日曜午後のレースの視聴率を見るだけでは、変更の長所と短所を完璧に把握することは出来ないと示している。

 ドイツでF1の無料放送を行なってきた『RTL』は、全レースの放送から4レースのみの放送に切り替え、全セッションの放送はSkyが取って代わることになった。

 RTLの契約終了はドイツにとって大きな意味を持っていたが、ホームズによると、無料放送からのテレビ広告収入が減少しているという現実から、無料放送を続けることは経済的に無意味だと判断したという。

「これまでの9年間やRTLとの契約更新で目にしてきたものは、放映権の世界における無料放送の現状をそのまま映している」と彼は語る。

「契約更新をする度に、放映権料は下がっていった」

「(無料放送を行なう)彼らもビジネスをしており、かつてのような数の広告をつけることは出来なくなった。広告の(合計)額は恐らく同じくらいだが、現在では異なるメディアに投入されている。古き良きデジタルメディアが益々シェアを伸ばしている」

 ドイツ市場は有料放送に移行する準備が整っているとF1は考えており、実際にドイツの『Sky Germany』の市場における普及率は高まってきている。

 また、RTLが放送しないレースではドイツ国内の視聴率は大きく下がることをF1は受け入れているが、Skyの契約の一環として『Sky Sports News』や『ARD』、『ZDF』で放送される追加コンテンツによって、シーズン全体におけるF1の露出度という点ではバランスが取れていると言えるだろう。

 一方ブラジルでは、長年F1を放送してきた『グローボ(Globo)』から小規模の無料放送事業を手掛ける『バンデイランテス(Bandeirantes)』に変更された。ドイツのように有料放送を行なうメリットがブラジルにはないのだ。

「ブラジルは、市場規模を考慮しても非常に重要であり、部分的な有料放送すら考えられなかった」とホームズは語る。

「バンデイランテスは、グローボに比べて市場シェアでは劣るものの、放映権に対する意欲は非常に大きかった」

「ひとつのチャンネルしかないグローボが、非常に多くの視聴者を抱えるメロドラマに混じり(F1を)放送するのはとても大変なことだ」

「バンデイランテスは、シーズンを通じ全ての予選とレースを放送するという、より広範囲なコミットメントを提供してくれるだろう。方やグローボは、ブラジルを除きアメリカ大陸でのレースを何年も生中継していなかった」

「(グローボでは)全ての予選セッションが、通常別の番組で2分から4分程度の映像にまとめられ放送されていた。しかし、バンデイランテスでは、すべてのレースと予選セッションを無料で生放送することになる」

「バンディランテスは、『バンドスポーツ』(編注:ブラジルのケーブルテレビ)を所有しており、全ての(F1の)フリー走行やF2、F3も放映する。これも重要なことだ」

「また、F1ファンに最高のサービスを提供するべく、F1 TVをブラジル市場に投入することも考えている。それまでは市場には投入されていなかった」

「このような規模の市場では、(放送パートナーの変更が)全体的な露出を大きく変えることはないが、熱心なファンに新たな視聴機会を提供出来るだろう」

「ドイツとブラジルは人口が多いことを考慮すると、たしかに数字は足を引っ張られるだろうが、(世界的に見ても)昨年を下回るような落ち込み方をするかどうかは分からない。他の場所での兆しは非常に良い」

より多くの人々に受け入れられるF1の新たなカタチ

Daniel Ricciardo, McLaren MCL35M, Nicholas Latifi, Williams FW43B, Mick Schumacher, Haas VF-21, and Nikita Mazepin, Haas VF-21, chase the pack at the start

Daniel Ricciardo, McLaren MCL35M, Nicholas Latifi, Williams FW43B, Mick Schumacher, Haas VF-21, and Nikita Mazepin, Haas VF-21, chase the pack at the start

Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images

 理解しておくべきことのひとつとして、テレビビジネスの市場、特に有料コンテンツに対する消費者の意識がここ数年で大きく変化している点が挙げられる。

 かつては「F1のコンテンツが無料放送されていない」と嘆くファンも見受けられたが、サブスクリプションサービスのひとつであるNetflixで放送されている『栄光のグランプリ(英名:Drive to Survive)」シリーズの大ヒットは、コンテンツが無料でなくても成功することを証明している。

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 質の高いコンテンツにお金を払いたいと思う人が増えたこと、特に有料チャンネルがこれまで以上に独占放送を求めるようになったことが、イギリスにおけるSkyの視聴者数に好影響を与えているようだ。

 イギリスで無料放送を行なう『Channel 4』が定期的にレースを生中継していた最終盤の2018年当時、チャンネル4が1レースあたり200万人前後の視聴者を集めていたのに対し、Skyは100万人以下だった。

 今シーズンのF1開幕戦では、Skyは過去最大の視聴者数を記録し、平均198万人、ピーク時には223万人がSkyを通じてレースを観戦していた。

 主要な市場でも成長の兆しが見られ、昨年のF1は中国で43%、オランダで28%、ロシアで71%の成長を遂げた。

時代の流れ

Martin Brundle of Sky TV commentates on Lando Norris, McLaren MCL35M

Martin Brundle of Sky TV commentates on Lando Norris, McLaren MCL35M

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 F1マシンの開発が歩みを止めないことと同じように、テレビのビジネスモデルも常に変化し続けている。

 ここから10年のうちに、SkyやAmazon、Netflix、YouTube、F1 TV、そしてmotorsport.comのようなウェブサイト、あるいはMotorsport.tvのようなOTTプラットフォームでF1を観戦するようになっているかどうかは、定かではない。

 それどころか、今はまだ存在していないメディアを通じて観戦をしている可能性すらあり得る。

 しかし、そこには不変のこともある。F1を始めとする一流のスポーツは、テレビの生中継に最適であり、その魅力に惹かれたチャンネルは最高額を支払ってくれることだ。そのこと自体が、F1の長期的な健全性を高める大きな要因になるだろう。

「今後10年のテレビビジネス業界をどう見るか」とホームズは聞かれると「私はスポーツが依然として優良なコンテンツであるというシナリオが見えている」と答えた。

「多くの価値は、“生”の体験の内にある。(スポーツの他に)臨場感を必要とするものはあまりない。つまりプレミアム・プラスのようなものだ。人々が求めるからこそ、価値を保つことができるのだ」

「我々が最も重要だと捉えているのは、コンテンツを出来る限り良いものにすること。そして、私よりもはるかに賢い人たちが統括しているような、優れたレギュレーションやマシン構造、レースにおける競争性などのコース上でのコンテンツがあることだ」

 

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