【F1メカ解説】ロングストレートと低速区間併せ持つアゼルバイジャン。“最適解”求めた各チームの解決策とは
“フレキシブルウイング騒動”巻き起こる中行なわれたF1アゼルバイジャンGPでは、渦中のレッドブルが高いパフォーマンスを見せた一方で、メルセデスは苦難の週末を過ごした。各チームはリヤウイングやその他パーツに関してどのようなアプローチをしていたのだろうか?
写真:: Giorgio Piola
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
現在のF1で大きなトピックのひとつとなっている“フレキシブルウイング”。高速走行中にウイングがわずかに後ろに倒れて空気抵抗を減らすというこのアイデアを、レッドブルが活用しているのではないかと第4戦スペインGPで話題になったのが騒動の発端だった。それを受けてFIAは、第7戦フランスGPからウイングの“たわみ”を取り締まる耐荷重検査の基準を強化することを決定したため、先日行なわれたアゼルバイジャンGPは、従来の基準のウイングを使用できる最後のチャンスであった。
ある意味アゼルバイジャンGPは、フレキシブルウイングが厳しく取り締まられるようになるまでの“空白期間”と言えた。これに不快感を示していたメルセデスやマクラーレンは、アゼルバイジャンGPで渦中のウイングを使うチームがいれば、抗議することも辞さない姿勢を見せていた。しかし、結局抗議はされないまま今日を迎えている。
というのも、レッドブルはアゼルバイジャンGPに新しいリヤウイングを持ち込んでいた。このウイングは、スペインGPで指摘されたような”変形”は確認できず、その結果として抗議を受けるのを避けられたのだった。
レッドブルが持ち込んだ新デザインのリヤウイングは、メインプレーンの中央部がまるでスプーンのように大きく下に向けて湾曲しており、そこで必要なダウンフォース量を稼いでいる。メインプレーンの両端は、翼端板に近づくに連れて薄くなり、空気抵抗を削減。またメインプレーン上下の圧力差を小さくすることで、翼端渦(圧力の高い側から低い側に、渦のような形で気流が流れる現象/航空機の翼でよく見られる)の発生を抑えようとしている。
これに伴ってレッドブルは翼端板のデザインにも変更を加え、よりシンプルなデザインに回帰。渦を発生させる切り欠きの形状が単純になり、気流を上向きに変えるためのストレーキが存在しないものとなった。(上図参照)
上のイラストでは、アゼルバイジャン仕様のフラップの上部が、翼端板に向かうにつれてカットされているのが確認することができるだろう。この仕様のウイングは実際にバクーに持ち込まれたものの、走行セッションで実際に使われることはなかった。ただ、これはバクーと同じく高速セクションが存在するベルギーのスパで再びお目見えする可能性がある。
またレッドブルは、フラップ上部にガーニーフラップを付けないことを選択した。これはつまり、ダウンフォースを増やすことよりも、空気抵抗を減らして直線スピードを上げることを優先したということだ。
■ドライバーごとに分かれるコンセプト。メルセデスのふたりは全く異なるウイングを使用
レースウィークの中で、各チームがふたりのドライバーの要求に合わせ、それぞれのマシンのセットアップや空力コンセプトを変化させていく様は実に興味深いものだ。
レッドブルのふたり、セルジオ・ペレスとマックス・フェルスタッペンがバクーで使用したリヤウイングに関しては、ほとんど気付かれないレベルの違いしかなかった。フェルスタッペンのリヤウイングの方が、空気抵抗をさらに減らすために端の方がわずかに切り取られている……その程度であった。
一方、メルセデスはライバルであるレッドブルと違い、ルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスとで大きく異なるリヤウイングを採用していた。
メルセデス勢はアゼルバイジャンGP初日から大いに苦戦していた。その初日のデータを分析した結果、ハミルトンのマシンにはDRS作動ポッドに繋がるピラー(支柱)が1本しかない、ローダウンフォース仕様の薄いリヤウイングが採用された。そういった変更もあってか、ハミルトンは予選で2番手タイムを記録し、決勝でも最終盤のコースオフで順位を下げるまでは優勝争いに絡む走りを見せることができた。
一方、ガレージの反対側にあるボッタスのマシンには2本ピラーでダウンフォース量がより大きい仕様のリヤウイングが装着されていたが、予選ではQ3に進出するのがやっと、決勝でもペースが上がらず12位と、メルセデス移籍後最低クラスのレースに終わってしまった。
こういったことは今シーズンのメルセデスにとって決して珍しいことではなく、最近では第3戦ポルトガルGPでもレッドブルに対抗するため様々なソリューションを選択していた。
ハミルトンはバクーでローダウンフォース仕様のウイングを使用したことにより、長いストレートのあるセクター3などで速さを発揮したが、一方で大きなウイングを採用したボッタスは低速区間の多いセクター2で有利になるはずだった。しかしながらボッタスは、タイヤを作動温度領域に入れるのに苦しんだこともあってか、全体的なペース不足に苦しんだ。
今回のレースウィーク中にリヤウイングの仕様を変更したのはメルセデスだけではなかった。フェラーリも最初はスプーン型のダウンフォース量が中間のウイングを装着していたが、土曜に行なわれるFP3を前にして、ダウンフォース量を削ったよりオーソドックスな形状のメインプレーンに変更した。
その結果、フェラーリはシャルル・ルクレールがポールポジションを獲得したものの、決勝ではあまりペースが上がらず順位を落としてしまい、フェルスタッペンとハミルトンの脱落があったにも関わらず4位に終わり、表彰台を逃した。
フェラーリはレッドブルと違って、ローダウンフォース仕様のウイングを採用した際、翼端板の切り欠きやストレーキもそのまま残した。言い換えれば、フェラーリは翼端板で発生する空気の渦を活用し、空気抵抗を減らすことに意欲的だったと言える。
Aston Martin Racing AMR21 new halo fins
Photo by: Giorgio Piola
セバスチャン・ベッテルが2位表彰台を獲得したアストンマーチンも、アゼルバイジャンGPに向けていくつかの小さな変更を施した。ただ、それが先にマシンに落とし込まれたのは、今回もベッテルではなくランス・ストロールの方であった。
その変更とはコックピット周辺に関するものであり、HALOに取り付けられていた整流用のパーツが、より効果的に気流を整えるために小さなふたつのフィンに置き換えられている。
またミラーのマウント部は、メルセデスのようにノコギリの歯のような形状となっており、そこで小さな渦を作ることによって後方に流れる空気を改善しようとしている。
Williams FW43B bargeboard detail
Photo by: Giorgio Piola
ウイリアムズはアゼルバイジャンで新しい仕様のバージボードを投入した。しかし、これもひとり分のパーツしか用意されていなかったため、週末を通してジョージ・ラッセルのマシンにのみ装着された。
主なデザインの変更点は、昨季のマクラーレンを彷彿とさせるようなもので、アルファベットのCのような形をしたエレメントがふたつ、地面と垂直に付いているメインのバージボードと、その上部にある地面と並行のブーメラン型のパーツを繋ぐような形で取り付けられている。
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