F1コスト制限を破るのは何チーム? 多すぎると、予算規則導入2年目にして”茶番劇”になる可能性……
2021年からF1に導入された予算制限。今季はインフレや輸送費の高騰などが特に大規模チームの支出を圧迫し、上限が3.1%緩和されることが決まった。しかしこの制限額を超えれば、ペナルティを科されるチームも出てくるかもしれない。
写真:: Andy Hone / Motorsport Images
2021年から、F1は各チームの年間予算額の上限を設けるレギュレーションを導入した。その初年度は、新型コロナウイルスの影響により、前年のマシンをほぼそのまま使うことになったため、予算上限額はそれほど大きな問題にはならなかったが、新マシン……しかも新レギュレーション下でまったく新しいマシンとなった今季は、各チームがこの上限額に大いに悩まされている。そしてそこに、世界的なインフレや輸送費、エネルギー費の高騰が拍車をかけた。
この世情に合わせて緩和策が採られることになったが、それでもいくつかのチームは支出を上限額以下に収めることができない可能性があると言われている。もしそのチーム数が多すぎるようであれば、この予算制限のレギュレーションは“茶番劇”であると、各方面から嘲笑を浴びせられてしまうかもしれない。
予算制限については、シーズン開幕当初から大きな問題となっていた。しかも世界的なインフレ、さらにはウクライナ情勢などに起因する輸送費やエネルギー費の高騰がこれに拍車をかけ、特に大規模チームは、予算上限額を緩和するよう働きかけを行なった。
ただ予算上限額を設けるのは、F1にとって非常に重要なことである。F1に参戦するための予算は、最近では莫大な金額となっており、以前と比較すれば桁違いである。もし予算制限が導入されていなければ、複数のチームが参戦を断念せざるを得なくなっていただろう。
「この議論が、F1が今では安すぎるということだった」
そう語るのは、アルファロメオF1のフレデリック・バスール代表である。
「私としては、その考えは完全に間違っていると思う。予算上限があるからこそ、F1は良好な状態にあると思うんだ」
「もしこの予算上限を無くすと、我々が今の良い状態を維持できるかどうかはわからない。F1はいつも浮き沈みを繰り返している。確かに今は良い状況になりつつあるが、ある段階では別の状況にもなるだろう」
「結局のところ、我々は2〜3年前には最悪な状況にかなり近付いていたと思う。3チームを失う寸前だったのだ」
Frederic Vasseur, Team Principal, Alfa Romeo Racing, in the team principals Press Conference
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
今季の基本的な予算上限額は、1億4000万ドル(約193億円)である。これに、年間22戦を開催することによる追加予算120万ドル(約1億6000万円)が加算され、1億4120億ドル(約195億円)まで使えることになっている。
しかしオーストリアGPの前には緩和策が合意され、インフレ等への対策として3.1%予算上限を引き上げることができるようになった。3.1%と言えば非常に小さな割合のようにも思えるが、金額に換算すれば430万ドル(約5億9000万円)相当であり、合計で1億4550万ドル(約201億円)ということになる。
ただこの額でも、活動予算を収めきれないチームも出てくるのではないかと言われている。この予算をオーバーした場合のペナルティは、ファイナンシャル・レギュレーションで規定されている。5%(約10億円)以下の超過の場合は「軽微な超過」され、罰金もしくは軽微なスポーティング・ペナルティと規定されている。一方5%以上超過した場合には「大幅な支出超過」とみなされ、コンストラクターズポイントを減算し、さらに罰金や重大なスポーティング・ペナルティが科されることになっている。最悪の場合はランキングからの除外という可能性まであるかもしれない。
Max Verstappen, Red Bull Racing RB18 leads at the start
Photo by: Alessio Morgese
3.1%という緩和率は、多くのチームが”妥協”した算出された数値である。つまり、大規模チームは「より大きな緩和」を求めていたし、小規模なチームは自分たちの競争力を確保するためにも「より小さな緩和」と求めていたということだ。
「調整する必要なしという立場から、より大きな調整が必要だという立場まで、さまざまな意見があった」
そう明かすのはマクラーレンのチーム代表であるアンドレス・ザイドルである。
「最終的には、その中間で決まることになった。それが妥協と言われている理由だ」
「メルセデスやレッドブル、そしてフェラーリなどと同様の問題に直面していたため、我々としても予算額を引き上げることに投票していた。だから、私としてはその額に満足している。特に2022年については解決策を見つけることができたから、我々はとても満足しているんだ」
「結局のところ、そうすることはF1にとって大きな利益になると思う。今季は明確な解決策が講じられたため、予算制限の導入2年目という段階で、いくつかのチームが制限額を破るということはないだろう。今の特別な状況に応じるためには、現在行なわれていることは賢明なことだ」
Andreas Seidl, Team Principal, McLaren
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
フェラーリのマッティア・ビノット代表も、より多くの額が緩和されることを望んでいたものの、最終的に3.1%の増額が許されたことを歓迎している。
「我々が決断を下したのだから、それはポジティブなことだった」
そうビノット代表は語る。
「前回のF1委員会では、多くのことを話し合ったにもかかわらず、何も決定できなかったからね」
「タイミングについては、本当にギリギリだったと思う。一部のチームは今年すでに予算上限を上回っていたから、妥協点を見つけるのが重要だった」
「確かに大きなチームとしては、常にもっと増えた方がいい。でもこの妥協点は、我々に簡潔で新しい目標、新しい挑戦をするチャンスを与えるのに十分だと思う。それはギリギリだけど、我々が決定したんだ」
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も、この緩和率は「もちろん助けになる」と語った。
「妥協点を見つけるためのものだった。いくつかのチームにとっては多すぎるし、トップチームにとっては十分ではなかったと思う」
「妥協点を見つける上での問題だった。そしてこれは今年だけでなく、来年や数年先のことでもある。今回のことは、大いに責任のあることだったはずだ」
Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
ただメルセデスのトト・ウルフ代表だけは、この緩和率に満足していないようだ。
「大規模チームには少なすぎると思う」
そうウルフ代表は語った。
「エネルギー価格や輸送費が高騰し、インフレにもなっているからだ」
「しかし小さいチームには多すぎる。だから、誰も満足していない。ただ、それは良い結果であるとも思う」
「我々が妥協した理由は、我々が小規模チームに対し、以前に戻るつもりではないし、予算制限裁定パネル(CCAP)との何らかの交渉が必要だと言ったからだと思う」
「我々3チームは、その上限をはるかに上回ると思う。つまり、メルセデスのコストを節約する必要があるということなんだ。だからその結果は役に立つと思う。ただ、我々の問題を解決するかと言われれば、それはノーだ」
一時は、最大7チームが予算制限額を上回るのではないかと示唆されることもあった。そしてシーズン終了後……2023年シーズンが始まってから、2022年の結果に罰則が適用されると、それは茶番劇のような格好となり、F1が世界からの嘲笑に晒される可能性もある。そんな状況でも、CCAPは躊躇なくペナルティを科すだろうか?
ただ、予算上限を超えたチームが1つか2つであり、他のチームが上限額をしっかりと守ことができれば、CCAPが予算上限を超えたチームに同情することがないだろう。つまり、しっかりとペナルティを科されてしまうことになるはずだ。ある意味これが、今トップチームが直面している最大のリスクということが言えるかもしれない。
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