F1の正式な”ポールポジション獲得記録”は誰に与えるべきか? 複雑にするミハエル・シューマッハーのふたつの事例
F1のポールポジション記録は、予選最速を記録したドライバーに与えられるのか? それとも決勝のスターティンググリッドに並んだドライバーに与えられるのか? 複雑な問題となっている。その元凶は、ミハエル・シューマッハーにあるかもしれない。
写真:: LAT Images
予選で最速タイムを記録したドライバーが、その達成感を”記録”として得たいと考えるのは、当然のことだ。しかし、予選最速=ポールポジション獲得記録とはなっていないのが現状だ。
たとえば今年(2021年)のトルコGPでは、予選最速タイムを記録したルイス・ハミルトン(メルセデス)は、パワーユニット交換によるペナルティが決まっていたため、彼の”ポールポジション獲得”は正式記録には残らなかった。
ハミルトンはこのことについて、予選後のインタビューでがっかりしたことを認めた。
「でもまあ、僕はまだ、ポールポジション獲得記録は手にできているんだよね。そうだろう?」
ハミルトンはそう語ったが、実際には”否”である。
「違うの? なんてことだ……」
ただ、ポールポジションをグリッド降格ペナルティによって失うのは、F1では真新しいことではない。たとえば2005年のイタリアGPでは、当時マクラーレンのキミ・ライコネンが、予選最速タイムを記録しながらも、エンジン交換のペナルティにより10グリッド降格処分を受けた。
今季から試験的に導入されているスプリント予選レースも、この”ポールポジション獲得記録”に関する議論を深めるきっかけとなった。
2021年のF1では、100kmの短いレースを土曜日に行ない、日曜日に行なわれる決勝レースのスターティンググリッドを決める”スプリント予選レース”が3つのグランプリで試験的に実施されることになった。そしてこのスプリント予選レースのスターティンググリッドは、金曜日に行なわれるノックアウト形式の予選で決定される形ともなった。
当初の計画では、ポールポジション獲得記録はこの”金曜予選”最速のドライバーに与えられるはずだった。ただFIAの規則では、ポールポジションはグリッド最前のドライバーについたドライバーに与えられると正式に定められており、状況が複雑化。その結果、スプリント予選レースの勝者に”ポールポジション”記録が与えられることになった。
これには、メルセデスのバルテリ・ボッタスも異議を唱える。ボッタスはイタリアGPのスプリント予選レースを制したが、パワーユニット交換のペナルティにより、ポールポジションを獲得することは出来なかった。
「スプリント予選レースが行なわれる週末には間違いなく、予選で最も速かったドライバーに、公式のポールポジション・アワードと、記録としてのポールポジションが与えられるべきだと思う」
そうボッタスは語った。
「またトルコでは、ルイスが最速タイムを記録した。彼は実際にはポールポジションだったはずだけど、ペナルティを受けた後は……本当にフェアではないと思う」
Pole man Lewis Hamilton, Mercedes
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
このような状況を受けF1の首脳陣は、スプリント予選レースが開催される週末のポールポジション記録をどうするか、その調整を検討している。
しかしこのポールポジション記録に関しては、ファンの間でも長いこと議論されているモノだ。多くの人は、ペナルティに関係なく、ポールポジションの記録は予選で最速だったドライバーに与えられるべきだと主張する。
ただこれには、ミハエル・シューマッハーに関する実例がふたつ存在する。
ひとつは2012年のモナコGPだ。2006年を最後に、一度F1から退いていたシューマッハーは、2010年にメルセデスからF1復帰。しかし、当時のメルセデスはまだトップチームには届いておらず、苦戦のレースが続いていた。
そんな中、2012年のモナコGP予選では、シューマッハーが最速タイムを記録することになった。ただ、前戦スペインGPでのブルーノ・セナとの接触により、すでに5グリッド降格ペナルティが決まっていたため、実際にポールポジションを手にすることはなかった。結局予選2番手だったレッドブルのマーク・ウェーバーが、公式的にはポールポジションを獲得した。
そのシューマッハーのパフォーマンスは、公式的にポールポジションと認められるのに十分だった……そのことが議論になることはなかった。
Michael Schumacher, Ferrari 248 F1
Photo by: Charles Coates / Motorsport Images
ただ逆の例もある。それは2006年のやはりモナコGP。その時フェラーリのマシンを走らせていたシューマッハーがモナコで行なったことは、予選最速のドライバーにポールポジション記録をもたらすということの危険性を示している。
当時の予選Q3の終盤、シューマッハーはチャンピオン争いのライバルであるフェルナンド・アロンソ(当時ルノー)のタイムを上回り、タイムシートの首位に浮上した。
しかしその直後、シューマッハーはコースの最終セクション”ラスカス”でマシンのコントロールを失ったような形となり、バリアにぶつかる寸前で停止したのだ。シューマッハーはそれ以上動けず、フェラーリ248F1はその場で駐車するような格好となり、当該区間にはイエローフラッグが振られた。その結果後続のマシンはタイムアップすることができず、シューマッハーが最速タイムを記録した状態で予選が終了することとなった。
ただ事はそう簡単には終わらなかった。このシューマッハーの”駐車”については、故意にストップしたのではないかという指摘がセッション直後から多く上がったため、FIAが介入。モナコGPのスチュワードは、シューマッハーが故意にマシンを停めたと結論づけたため、ポールポジションが剥奪され、グリッド最後尾(実際にはピットレーン)からスタートすることになった。
この2006年と2012年のモナコでのシューマッハーの事例を見ると、ポールポジション記録の”授与”に関して、誰をも満足させることができるルールはないと言えるだろう。
スプリント予選レースを行なう週末のポールポジション記録を、金曜日の予選で最速だったドライバーに与えるということについては、賛同する意見が多い。しかし、どんな問題が生じる可能性があるのかについては、それほど多くの可能性が指摘されているわけではない。
とはいえ、たとえばグリッド降格ペナルティを覚悟してパワーユニットを交換した後、そのフレッシュなパワーユニットのメリットを活かして記録したポールポジションは、ポールポジション獲得として許されるべきモノなのだろうか? また科されたペナルティは、考慮するべきなのだろうか?
F1のレギュレーション、そしてペナルティについては、単純なモノはない。実に複雑になっている。そのため、すぐに多くの変更が行なわれるということについては、期待しない方がいいかもしれない。
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