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F1の世界の新たなヒーロー? 各チームのSNS担当者に当たる光

F1は、世界的に見ると若いファンが増えつつあるスポーツと言える。それには、各チームのSNS戦略が大いに寄与しているようだ。

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写真:: Sam Woolley

 F1各チームのソーシャルメディア担当者は、近年ある種のスターになりつつある。ファンは、投稿で取り上げられるF1ドライバーやチームの主要な人物だけでなく、ソーシャルメディア担当者にも注目しているのだ。

 Netflixのドキュメンタリー番組「Drive to Survive(邦題:栄光のグランプリ)」が公開されたことで、F1には新たな時代が到来した。ファンは、それまで滅多に目にすることができなかった、F1ドライバーやチームの首脳陣のプライベートを、目の前で目撃するようになったのだ。カメラはサーキットだけでなく、ドライバールームや彼らが子供の頃の寝室、ファクトリーと連日押し寄せることになった。

 その後、SNSの投稿についての規制が緩和され、各チームのSNS活動が急増。ファンたちは、もっと近くでチームの一挙手一投足にアクセスできるようになった。

 アストンマーティンのSNS担当であるジミー・ホーンは当初、コンテンツの本数が少なかったものの、エンゲージメントに対する需要の高さにすぐ気付いたという。2020年、彼は同チームで初めて選任のSNS管理者となり、4年後に同チームのSNSプロジェクトはグループとなった。それに伴いホーンは、アートディレクターとしてアストンマーティンのSNSを監督する立場になっている。

 しかしホーンは、ファンの興味が配信担当者……つまり”中の人”に向いているとは予想していなかった。この殻を破ることは、コンテンツ制作における後押しになるだけでなく、ファンに個人的な繋がりを感じさせることにもなった。

 ホーンは今では、ファンから”ジミー”の愛称で親しまれるようになった。そして彼の個人的なインスタグラムのフォロワー数も、4万人を超えている。つまり多くのファンが、コースでのホーンの動きを覗き見しようとしている。

 アストンマーティンは、SNS投稿の舞台裏で何が起きているのかという、ファンの好奇心に応えた最初のチームだった。昨年のメキシコGPでは、ホーンがコンテンツをどう撮影し、編集、公開するかの過程を公開したのだ。他のF1チームもこれに追従し、急速にトレンドとなりつつある。

 一方でレッドブルは、別のアプローチをとっている。レッドブルのシニア・ソーシャルマネージャーは、ルーシー・グレイが務めている。彼女は画面の外からドライバーたちに質問するという場面はあるものの、彼女の顔が映ることはない。レッドブルとしては、他のチームの真似をしているようには見せたくないのだろう。

 ただグレイは、自分がまとめるチームに対しては、個性を出すことを推奨している。レッドブルのSNSアカウントは、他のチームをからかったり、Z世代のスラングを積極的に使って、F1に増え続ける若いファンたちと繋がりつつある。

SNSで広がる、若い層のF1ファン

 F1のSNS管理者のほどんどが、急増する若いファンに対応する方法を知っている20代であることは、驚くべきことではない。

 F1のファンは、男性/女性に限らず、かつてないほど若返りを見せている。F1を観戦する女性ファンの数は2022年には8%以上増加。観客全体の40%を占めるほどになった。この年でその数は膨らむばかりだ。

 ヘラルドサン紙によれば、2024年オーストラリアGPに訪れた女性の観客のうち、48%は16歳から34歳で占められていたという。2021年にmotorsport.com、ニールセン・スポーツ、F1が行なった調査では、F1のファンの平均年齢は32歳。その5年前の36歳という平均年齢とくらべると、一気に若返りを見せている。

 北米の4大プロスポーツであるメジャーリーグ・ベースボール(MLB)やナショナル・ホッケーリーグ(NHL)、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)、ナショナル・フットボールリーグ(NFL)はいずれも、観客は高年齢化している、。インディカーやMotoGPの観客も、ほとんどが45歳以上だ。そしてそれらのファンの多くが、F1にも興味を持っている。

 ではそんな仕事に就くためにはどうすればいいのか? ソーシャルメディアでのキャリアは、モータースポーツ業界の他のほとんどの仕事と同様に、人脈が全てだとも言える。

「僕は趣味で写真をやっていて、ある車のイベントに行ったんだ」

 前述のホーンはそう振り返る。

「すると誰かが、『あなたの写真は素晴らしい。もっと撮って!』と連絡をくれたんだ。それから文字通り、人脈と出会いが雪だるま式に増えていった」

 ホーンは母国オーストラリアでメルセデスとランボルギーニの写真を撮影した時、2019年に向けてF1のパドック用コンテンツを探しているF1エージェンシーのオーナーと出会った。

「彼らは『地球の反対側に引っ越すことはできるか?』と言ってきた。僕は『まあいいか』と言ったと思う」

 そうホーンは語る。

「僕は翌日その時就いていた仕事を辞めた」

「その後の3週間は、人生の全てをスーツケースに詰めて、モントリオールとフランスを行き来した。そして最終的にイギリスにたどり着いたんだ」

 イギリスに1年間住んだ後、ホーンは2021年に向けてレーシングポイントと契約。その後チームはアストンマーティンへとブランド変更した。

「旅路の始めから、ずっと彼らと一緒にいたんだ」

 そうホーンは語る。

「文字通りゼロからスタートした旅の一部に加われたことは、本当に特別だ。そして今、僕はここにいる」

期待と現実

 F1ドライバーに近づけるというのは、魅力的な仕事に思える。しかし現実的には、仕事は夜遅くまで続くし、チームによっては厳しい監視を受けなければならない。

「みなさんは、それに伴う計画や調整の量を過小評価していると思う」

 モータースポーツ・コンテンツ・クリエイターのリジー・ブラウンはそう語る。

「時には衝動的に起きることもある。でも私自身も、ひとつの投稿をアップするのにどれだけ労力がかかるか、それを実現するためにどれだけの時間とやりとりが必要かを、過小評価していたと思う」

 ブラウンはかつて、ソーシャルメディアのスペシャリストとして、ジョージ・ラッセルやアルファロメオのSNS管理を担当していた。そこでは、ハッシュタグの承認などを経なければならず、SNSに必要な衝動的な投稿、そして反応する時間を失うことがあったという。

「パドックにいると、SNSコンテンツを作っているシーンを見ることがある。インタビューのことではない」

 F1の技術および政治コメンテーターであるトニー・コーワン・ブラウンもそう語る。

「私としては、少し魔法が壊れている。その多くは自然ではなく、”捏造”されたモノであることに気付いたんだ。誰のせいでもないが、ファンやパートナー、スポンサーを満足させるために、F1のレースウィークエンドの間にどれだけのコンテンツを作る必要があるのかを思い出させてくれた。本物で自然な瞬間なんて滅多にない。そのほとんどは、作られたエンターテインメントなんだ」

 つまり、作られたコンテンツよりも、いかに迅速に投稿できるかどうかが重要視されるわけだ。レッドブルも、厳格に企業的なコンテンツを生み出すということとは逆のアプローチをとっているという。

 レッドブルの広報責任者であるポール・スミスは、チームのSNSを統括するグレイについて「弊社に代わって行動する権限が与えられている」と明かす。

「ルーシーが良いアイデアを思いついたら、すぐに実行できるんだ」

 レッドブルのSNSチームは「思いついたら行動できる」という理念に基づいているという。そのため、F1を使った様々な、そしてこれまでにないようなコンテンツが多数生み出されてきた。しかしレースウィーク中には、映画のように作り込むわけではなく、インスピレーションを最優先している。これが、必要とされる膨大な量のSNSコンテンツを生み出すのに必要なのだ。

「スマホの使用時間を、確認したくはないね」

 ホーンはそう冗談を言う。

「レース後の週末は、昼まで寝て、その後はスマホをスクロールしていることが多い。それは、クリエイティブになるためには必要なことなんだ」

「レースの当日には、基本的には撮影、編集、投稿と、とにかくバンバンバンと実行するだけなんだ」

 またグレイも次のように語る。

「ファンの皆さんは、チームの一員になるのはどんな感じかなど、ドライバーのことを内側から知りたいんです」

「チームの一員になるということは、ファンが気に入ってくださった15秒の動画の背景にあるものを知ることです。そして、たとえばテイラー・スウィフトについて言及すれば、ほぼ確実に視聴回数が伸びるということを理解している人々を知ることなんです。F1ソーシャルメディアの管理者は、一夜にしてスターになりました。しかし、それはインターネット時代に育った単なるひとりの人間だということも理解しています」

 

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