F1 アメリカGP

無線があるなら要らないのでは? 原始的なピットボードが今もF1で使われるシンプルな理由

1980年代からF1チームは無線を使ってドライバーと通信しているが、それでもピットレーンでは今も原始的なピットボードを使って情報を伝えているのはなぜなのか?

Owen Bellwood

公開日時: 2025/10/29 10:43

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Pit board for Lando Norris, McLaren MCL36

 しばしばモータースポーツの頂点と言われるF1。そこには最新鋭のCFD(コンピュータ解析)や風洞、テラバイト単位のデータを収集する多数のセンサーなどが用いられ、まさに技術の粋を集めたスポーツと言える。

 ただ、そんなハイテクにまみれた世界の中で用いられるアナログなアイテムのひとつが、ピットウォールからドライバーに向けて出されるサインボードだ。

 ピットウォールはグランプリウィークエンドの活動の中心だ。ここにはエンジニア、ストラテジスト、チーム上層部が陣取り、レース中のあらゆる判断を下している。そしてそういった判断をチームからドライバーに伝える手段はもっぱら無線である。

 だが、これが唯一の通信手段ではない。ピットレーンとコースを隔てるフェンスの隙間から、チームはボードを掲げて、時速300kmを超えて走るドライバーに情報を伝える。このピットボードは文字や数字を枠にはめ込むシンプルな作りとなっており、レース中の順位、後続車とのギャップ、または前のマシンに追いつくために必要なタイムなどを素早く伝えることができる。

 それにしても、無線通信が発達した今……ましてやステアリングホイールのディスプレイにレースオフィシャルが直接メッセージを送ることすら可能となっている現代において、極めて原始的なピットボードはなぜ現存しているのだろうか?

 その理由は至極単純。ピットボードは壊れないからだ。

The Ferrari crew hang out the pit boards for their drivers Prost and Mansell

The Ferrari crew hang out the pit boards for their drivers Prost and Mansell

Photo by: Motorsport Images

 F1で各チームが無線を使い始めたのは1980年代。今日のF1では無線トラブルは稀になっているが、かつてはあらゆる問題がチーム通信を妨げていた。

 無線が導入されて間もない時期には、アイルトン・セナの無線が現地のケータリングチームの電波で妨害されたこともあった。さらに1998年のオーストラリアGPでは、マクラーレンのミカ・ハッキネンが無線トラブルによって誤ってピットに入ってしまったことで首位から転げ落ち、その後チームメイトのデビッド・クルサードにトップの座を譲ってもらうという出来事もあった。チームは後に、無線をハッキングされたことが原因だと説明している。

 ただ近年も、こういった類のトラブルが一切なくなったというわけではない。2021年には、アルファロメオのキミ・ライコネンが無線の故障を発端にエンジニアと口論になり、2022年のカナダGPではレッドブルのマックス・フェルスタッペンがチームからの呼びかけに応答できなくなっていた。

 機械にも絶対はなく、無線システムが故障する可能性をゼロにすることはできないだろう。その代替となるピットボードは無線ほど詳細なやり取りはできないとはいえ、チームは文字で最低限の情報をドライバーに伝えることができる。例えば現在の順位や、ピットインのタイミング、ペナルティの有無や残り周回数……それらが伝わるわけでもドライバーにとっては大きな意味がある。だからこそ、ピットボードは今も絶滅することなくF1の世界で生き続けているのだ。

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