コラム
F1 プレシーズンテスト

速いだけでは通用しない。角田裕毅が世界の荒波に揉まれる中で手にしたモノとは? 現地で感じた成長と伸びしろ|F1コラム

今年F1デビューから4シーズン目を迎える日本人ドライバーの角田裕毅。群雄割拠のF1で対応力と確かな信頼を手にし、さらなる進化を遂げようとしている。

Yuki Tsunoda, Visa Cash App RB F1 Team

 世界最高峰のモータースポーツであるF1は、単に「速い」だけでは通用しない。過去に速さはあるが、何かが足りなくて、この世界で生き残れなかった者を数多く見てきた。

 その何かとは、対応力だ。

 世界にたった20台しかないF1マシンは、チームによって異なるフィロソフィでデザインされ、同じチームでもドライバーによってセットアップが異なる。そのマシンをいかに速く走らせることができるかにおいて、重要となるのがエンジニアとのセットアップ作業だ。そして、その作業を行なう上で重要となるのが対応力であり、その対応力を積み重ねることでドライバーとして成長する。

 過去3年間のF1生活で角田裕毅が学んだのは、まさにそれだった。デビュー1年目の2021年のスペインGPの予選で16番手でQ1敗退した角田は、無線でこう言った。

「このクルマは信頼できない!」

 あれから3年が経ち、4年目のシーズンへ向けた心境を角田は次のように語った。

「ドライバーとしてだけでなく、ひとりの人間としてもひと回り成長したところを見せられればいいなと。無線での冷静な対応や、チームへのフィードバックもしっかりと行なっていきたいです」

 シーズンごとに角田の成長を感じてはいたが、今年のプレシーズンほどそれを強く実感したことはなかった。それは筆者だけではない。チームもまた同様だろう。

 角田が所属するチームは今年、アルファタウリからビザ・キャッシュアップRBへと名称を変更しただけでなく、体制も大きく変えた。チーム創設時から代表を務めてきたフランツ・トストは去り、新しくフェラーリからローレン・メキーズを招き入れた。メキースはチーム代表に就任した今年1月にさっそくティム・ゴス、ギヨーム・カッテラーニ、アラン・パルメインという3人の大物エンジニアの獲得に乗り出すなど、チームの改革を断行した。

 角田はその変化をチーム内で次のように感じている。

「ローレンは意外とフランツに似たところがあって、ドライバーだけでなく、スタッフひとりひとりへの気配りがすごいです。フランツと違うところは、このチームをトップ3に押し上げようとする実行力です」

「もちろん、フランツもこのチームを強くしようと努力してきましたが、なかなかイタリア人のメンタリティを変えることができませんでした。ローレンはチームに加入するなり、チャンピオンシップで勝利した経験のある大物エンジニアを獲得するなど、即行動に移しました。それは、いままでの『ポイントを取れれば、良し』と考えていたこのチームに大きな刺激になったことは間違いありません」

 その新しいチームで角田のチームメイトとなるのがダニエル・リカルドだ。昨年のシーズン途中からチームに加わったリカルドは、かつてF1で8勝した実績を持ち、角田にとってこれまでのどのチームメートよりも強敵となる。しかし、チーム内でリカルドを優遇する雰囲気はまったく見られない。そのことは、テストの走り始めと、締めくくりとなるセッションで角田にステアリングを託していることからもわかる。

 メキーズは言う。

「ユウキは、われわれにとって、欠かせないピースだ」

Yuki Tsunoda, Visa Cash App RB F1 Team, Laurent Mekies, Team Principal, RB F1 Team

Yuki Tsunoda, Visa Cash App RB F1 Team, Laurent Mekies, Team Principal, RB F1 Team

Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

 その期待に応えるべく、角田は天性のスピードに3年間で得た経験を取り入れつつ、進化を続けようとしている。

「4年目ですが、毎年フレッシュな気持ちで迎えているので、ある意味、今年もルーキーのような感覚です。だから、もっともっと成長できると思っています」

 そう角田は4年目に向けた抱負を語った。いま角田が取り組んでいるのが、新車VCARB 01のポテンシャルをいかに発揮させるかだ。

「クルマが持っているポテンシャル以上の走りはできないので、いかにそのポテンシャルを最大限引き出すかがドライバーの役目。例えば、マックス(フェルスタッペン)がレッドブルのクルマでやっているドライビングをほかのチームでやっても、同じように速くは走らせられないと思います」

 今年、ビザ・キャッシュアップRBはフロントのサスペンションをプッシュロッドからプルロッドに変更した。テストで角田はそのサスペンションのスイートスポットを探っていた。

「フロントサスペンションがプルロッドになって、ステアリングのフィーリングが変わりました。わかりやすく言えば、軽くなったんですが、それとともに、コーナーリング中にフロントがどの部分で食いついてくるのかも変わっていて、その辺を探っています」

 4年前、F1ドライバーとなった角田を初めて取材したのが、このバーレーンだった。当時20歳だった若者は、今年24歳を迎えるが、年齢以上にたくましく成長しているように感じた。しかし、成長を続けているのは角田だけではない。王者フェルスタッペンも、現役最年長のフェルナンド・アロンソも、いまなお成長し進化を続けている。

 角田が2025年以降もこの世界で戦うためには、成長を止めないことだ。

「(2025年以降のことは)まったく考えていないわけではないですが、すべては今年の結果次第だと考えているので、いまは今シーズンの自分の走りに集中して、満足のいくパフォーマンスを出すことを心がけたいです」

 新しくなっていく"角田裕毅"に、期待したい。

 
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