ミハエル・シューマッハーが見せた“最後の輝き”:2012年ヨーロッパGP

2012年のF1ヨーロッパGPでは、フェルナンド・アロンソがキャリア最高のパフォーマンスを見せて優勝した。そんな中、3位に入ったミハエル・シューマッハーにとっては、これがキャリア最後のポディウムとなった。

ミハエル・シューマッハーが見せた“最後の輝き”:2012年ヨーロッパGP

 バレンシア市街地コースで行なわれた2012年のヨーロッパGPは、ここ10年間のF1でも屈指の乱戦であり、フェラーリのフェルナンド・アロンソがその実力を遺憾なく発揮したレースでもある。

 母国スペインの期待を一身に背負ったアロンソは、予選11番手から驚異の追い上げを見せ優勝。表彰台ではスペイン国歌を聞いて涙を流した。その一方で、アロンソの隣に立っていた男もまた、自身が残した結果に酔いしれていた。ミハエル・シューマッハーである。キャリア155回目の表彰台を獲得したこのレースが、彼のキャリアにおける重要なレースとして刻まれるのは、少し後の話である。

 2010年にメルセデスからF1復帰を果たしたシューマッハー。3年目となった2012年シーズンは、ある意味で彼にとって難しいシーズンとなった。

 2010年、2011年と特筆すべき成績を残せずにいたシューマッハーだったが、2012年に新車『W03』を手にしたシューマッハーは過去2年と比べて明らかにポテンシャルがあるように見え、序盤戦からグリッド上位に名を連ねた。しかしながら、彼自身がコントロールできない事象によって結果はなかなかついてこなかった。

 第3戦中国GPでは、チームメイトのニコ・ロズベルグが自身初優勝をマークし、メルセデスにワークスチームとして半世紀ぶりの勝利をもたらした。シューマッハーもロズベルグに次ぐ2番グリッドを獲得し、表彰台も狙える位置で戦っていたが、タイヤ交換のミスによってレースを終えることとなった。

 そして第6戦のモナコGPでは、予選Q3でトップタイムを記録。前戦スペインGPでのペナルティが持ち越されてグリッド降格となったため、ポールポジションにつくことはできなかったが、シューマッハーとW03のパッケージは明らかに速さがあることを証明してみせた。

 しかしながらシューマッハーは、第8戦ヨーロッパGPを迎えた時点でわずか入賞2回、2ポイントしか獲得することができていなかった。確かにキャリアの晩年であり、43歳となっていたシューマッハーだったが、7度の世界王者ということを考えれば不本意な成績と言わざるを得なかった。

Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 W03

Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 W03

Photo by: Andrew Ferraro / Motorsport Images

 迎えた予選Q2でシューマッハーはミスを犯し、12番手に終わりQ3進出を逃した。決勝グリッドの6列目に並んだのはアロンソとシューマッハー。どちらもこのレースの主役になるとは思われていなかった。

 レース序盤、アロンソが快調なペースで飛ばして順位を上げていく一方で、シューマッハーは苦戦していた。ミディアムタイヤでペースが上がらないシューマッハーを先頭とした“シューマッハー・トレイン”が出来上がっていく中、既に1回目のピットストップを終えて後方に下がっていたアロンソはすぐにその隊列に追いつき、彼を攻略していった。

 シューマッハー陣営は当初、ミディアムタイヤで長いスティントを走る1ストップ作戦を計画していたが、バレンシアの高い気温、そしてアロンソのソフトタイヤでのペースの良さを考慮した結果、作戦を変更。シューマッハーを19周目にピットに招き入れ、ソフトタイヤを履かせた。2ストップ作戦である。これでシューマッハーは17番手でコースに復帰した。

 その後28周目にはジャン-エリック・ベルニュ(トロロッソ)とヘイキ・コバライネン(ケータハム)の接触によるデブリを処理するため、セーフティカーが出動。ここで多くのマシンがピットに入ったため、シューマッハーはレース再開時には7番手までジャンプアップしていた。

 そしてシューマッハーは、レースをリードしていたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)がオルタネーターのトラブルでリタイアしたことで6番手、ダニエル・リカルド(トロロッソ)がピットインしたことで5番手に上がった。

Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 W03

Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 W03

Photo by: Andy Hone / Motorsport Images

 マーク・ウェーバー(レッドブル)の追撃を抑えていたシューマッハーは残り16周で2度目のピットストップを行ない、11番手で復帰。フレッシュタイヤでプッシュした。その結果、遅れてピットインしたウェーバーを“アンダーカット”することに成功した。これが後々大きな意味を持ってくる。

 レース終盤、フレッシュなソフトタイヤを履くシューマッハーとウェーバーのふたりは、タイヤのオーバーヒートに苦しむドライバーを次々と攻略していく。ジェンソン・バトン(マクラーレン)、セルジオ・ペレス(ザウバー)、ポール・ディ・レスタ(フォースインディア)……残り2周の時点でシューマッハーは6番手までポジションを上げたが、表彰台には届きそうになかった。

Lewis Hamilton, McLaren, Pastor Maldonado, Williams

Lewis Hamilton, McLaren, Pastor Maldonado, Williams

Photo by: Motorsport Images

 しかし、ここで波乱が起きる。3位表彰台の座を懸けて争っていたルイス・ハミルトン(マクラーレン)とパストール・マルドナド(ウイリアムズ)が接触。マルドナドの半ば強引なブロックによって外に押し出されたハミルトンはタイヤバリアにぶつかってしまった。タイヤに苦しんでいたニコ・ヒュルケンベルグ(フォースインディア)をパスして5番手となっていたシューマッハーは、バリアに刺さったハミルトン車を横目に見ながら4番手に。そしてフロントウイングを失って力なく走るマルドナドを交わしてついに表彰台圏内に浮上したのだ。

 シューマッハーは自分とほぼ同条件であるウェーバーからのプレッシャーに最後まで耐え、3位でチェッカーを受けた。彼にとっては2006年の中国GP以来6年ぶり、復帰後初の表彰台となった。彼は終盤にあまりにも多くのことが起こったため、チェッカー時には自分が3位でゴールしたことに気付かなかったという。

 シューマッハーはチェッカー後のことを次のように語っていた。

「何位でフィニッシュしたのかをみんなに尋ねた」

「終盤にウェーバーのピットボードが見えて、8番手だか7番手だかと書いていた。つまり僕はそのひとつ前のポジションだと思っていた」

「それからチームが僕に『3位だ、表彰台だ』と言ってきた。信じられないと思ったよ! 最後は自分のレースをするのに忙しかったから、そんなことは予想していなかったし、ハミルトンとマルドナドに何か起きた時点で何番手か分からなくなった」

Third place Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 W03 in parc ferme

Third place Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 W03 in parc ferme

Photo by: Andrew Ferraro / Motorsport Images

 長い間ポディウムから遠ざかっていたシューマッハーにとって、このバレンシアでの3位は大きな意味を持っていた。

「こんなに久しぶりに(表彰台に)戻ってきた訳だから、素晴らしい気分だよ」とシューマッハーは語った。

「僕たちは何度かそれに近付いていたけど、ついに劇的な形で、それも追い抜きが難しいトラックで実現したんだ」

「戦略上の違いによって、レースは非常にエキサイティングなものになった。そして今日僕がポディウムに上がるためには、この作戦がベストだったと思う。とてもエキサイティングな方法で表彰台を獲得できたから、とてもハッピーだよ」

「僕がこんなに興奮してここにいるのは、波乱のレースを素晴らしい形でフィニッシュして、最後の最後で3位だということを知らされたからだ」

 当時メルセデス・モータースポーツの代表を務めていたノルベルト・ハウグは、これを機にシューマッハーの表彰台の数が増えることになるだろうと予想していた。

「スピードと信頼性を備えたマシンを彼に与えれば、多くの表彰台をもたらすことになるだろう」とハウグは言う。

「彼はこう言っていた気がする。『僕は91勝もしている。それ以上のことがあるかい?』と。でも彼は今回の結果に本当に喜んでいたし、あの時の考えが今も続いていた訳ではなかったんだ」

「残り2周で彼は5番手だったが、そこから色んなことが起こった。バレンシアで我々は見たものは、彼が持つ本当の速さだった」

 シューマッハーがバレンシアで“真の実力”を見せつけたことで、彼自身も2013年に向けたメルセデスとの契約交渉が進展することを期待していた。しかしながらハウグは「それとこれとは別の話」だとして、契約の話を後回しにした。

 それはもちろん、マクラーレンを離れたがっているハミルトンをチームに迎え入れるという計画が水面下で進んでいたからだ。結果的にシューマッハーは2012年限りでメルセデスを離れることとなり、2度目のF1引退を決めた。

 翌年以降のシートには繋げられなかったものの、シューマッハーは十分な働きをした。バレンシア以降、獲得ポイントが18と失速したロズベルグに対し、シューマッハーは32ポイントを獲得し、チームのコンストラクターズランキング5位に貢献した。

 バレンシアでは聞き慣れたドイツ国歌が響き渡ることはなかったが、シューマッハーの久々の表彰台には多くのF1ファンが喜んだことだろう。それまでに154回も見てきたはずの光景ではあったが、この時の登壇をうんざりした表情で見ている者はほとんどいなかったはずだ。

Kimi Raikkonen, Lotus F1, Fernando Alonso, Ferrari, Michael Schumacher, Mercedes AMG F1 and Andrea Stella, Ferrari Race Engineer celebrates on the podium

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Photo by: Sutton Images

 

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