F1仕事の流儀:セーフティカードライバー編「“慣れ”は禁物。常に高い集中力が必要」
F1サーカスに関わる人間の中で、テレビに映る者はごくわずかだ。このシリーズでは、F1に関わる様々な人々に密着していく。今回はFIAの公式セーフティカードライバーを務めるベルント・マイランダーに話を聞いた。
■私の仕事
F1の全てのレースでセーフティカーを運転している。それはF1に限った話ではなく、F1のサポートレースでも大抵はステアリングを握っている。
セーフティカーはトラック上で何かが起こった時、安全上の理由で出動する。例えば天候が悪かったり事故が発生した場合、またデブリがトラックに落ちていた場合だ。
また我々は毎朝GPSと電光掲示板のシステムチェックも行なっており、ドライバーズミーティングにも全て参加している。もしセーフティカーに関する質問がドライバーからあった時のために、常にそこにいるようにしている。
■レースウィークエンドのスケジュール
基本的には木曜日から仕事が始まる。ただ開幕戦のオーストラリアは、多くのサポートレースが行なわれているので、水曜日から仕事が始まる。トラックテストをするためだ。ただ基本的にトラックテストは木曜日の午後2時から3時に行なわれる。
金曜日にもトラックテストを行なう。F3のマシンがフリー走行を始める前に、2〜3周走る。そして1日の終わりにドライバーズミーティングに出席する。
金曜に(サポートレースなどの)予選がある場合、そして気象条件が特殊な場合は、予選前に走ることもある。コンディションが良くて初めて予選が実施できるので、路面状況などのチェックのために走ったりする。だから予選に向けては常にスタンバイしている。マシンに乗り込んでいなくとも、常にマシンの側で待機している。
土曜の朝にもちょっとしたセーフティカーテストを行なう。セーフティカーが出動する状況になった時のリハーサルのようなものだ。特にマーシャルが正しい位置にいて、正しいフラッグを振っているかどうかは重要だ。そして午後にF1の予選が行なわれ、大抵の場合はその後F2のレースがある。
F2のフィーチャーレース(レース1)の前に、マーシャルが正しい位置にいるかを確認するためセーフティカーで2周走る。トラックの状態は木曜日から日曜日にかけて変わっていくので、こういった形で周回してトラックを確認できるのは良いことだ。F2の後はF3のレースがあったり、ポルシェ・スーパーカップのレースがあったりする。
そして日曜日にはF1のレースがあり、その前にはサポートシリーズのレースがある。
私がサーキットで過ごす時間はとても長い。毎朝7時30分〜45分に到着し、午後6時〜7時の間にホテルに到着する。木曜日はもう少し早く帰れるが、それ以外は早朝に到着して全てのレースが終わった後にサーキットを離れるという形だ。
■私の仕事で最も重要なこと
セーフティカーに乗っている間は集中力を保つことだ。何が起こっているか、全体的な状況を理解して、適切な情報を適切なタイミングで取得しなければいけない。どんなアクシデントが起こっていて、デブリは落ちているのか……それを頭に入れておくのがセーフティカーに乗っている我々にとって非常に重要なことだ。
自分たちでもチェックをしながら走っていることだが、事前に色んな情報を知っていると非常に役に立つ。目の前で何が起こっているかということに焦点を当てなければいけないんだ。
時折デブリが落ちていたり、マシンがコースを塞いでいることがある。我々はそういった時にレースを止めないようにしている。セーフティカーを入れることで、レースを続けようとしているんだ。
また、多くの情報を得て、正しいことを正しい時にしなければいけないので、たくさんの練習が必要だ。
約20年この仕事をやっている。習慣化されていることは非常に役に立つが、これまでに同じ状況はひとつもない。レースはこれまでと同じような展開に見えても、ひとつ何かが起きれば全く違うものに変わる。我々はボケっとすることなく集中していなければいけない。
■これなしでは仕事ができない3つのツール
そうだな……レースディレクターから情報を受け取るための無線は重要なもののひとつだろう。もうひとつはモニターだ。トラックで何が起きたのかを確認するためだ。
あとはトラックのGPSマップだ。これはGフォース衝撃システムに接続されていて、マシンがコース上で大きな衝撃を受けた時にそれを確認することができる。ただ、それでもレースディレクターからの指令を待たなければいけない。
Bernd Maylander, FIA Safety Car Driver and Jo Bauer, FIA Delegate
Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images
■最もよく接する人
レースの間はレースディレクターのマイケル・マシと副レースディレクターのコリン・ヘイウッドと話をしている。無線で会話しているのはこのふたりなんだ。
彼らは私に指示を与え、何が起こっているのか、いつ出動していつピットレーンに戻らなければいけないのかを教えてくれる。私とコ・ドライバーが感じることも重要だが、決定はレースコントロール次第。彼らの方が全体像として状況を把握しているからだ。
私にはリチャード・ダーカーというコ・ドライバーがいるが、彼もまた私にとって非常に重要な人間だ。(状況を把握するための)目と耳が倍に増える訳だからね。私の隣に誰かがいるということは良いことだし、私は彼を100%信頼している。
■サーキットにいない時
私はフリーランスなので、ほとんどは自分のオフィスで過ごしている。次の週末に向けての準備や計画、飛行機やホテルの予約……といったところだろうか。
そして私は妻に双子の子供、そして犬といった愛する家族と時間を過ごすのが大好きなんだ!
スポーツも僕の人生の中では欠かせないものだ。ランニングも好きでよくしている。あとは友人と会ってバーベキューをしたり、皆さんが普段プライベートでしているようなことと変わりないと思う。
Safety Car leads Sebastian Vettel, Ferrari SF90 and Charles Leclerc, Ferrari SF90
Photo by: Lionel Ng / Motorsport Images
■もし私がいなければ……
これまでの21年間で、私が何らかのアクシデントや入院などでトラックにいなかったことが4回あった。そういった時のためにバックアップの手段が用意されている。
もしレースウィーク中に何かあった時は、F1のリザーブドライバーのひとりを(セーフティカーに)乗せるんだ。彼らはもちろん車の扱い方を知っているからね。または、セーフティカーの手順を知っているメディカルカーのドライバーに乗ってもらうこともできる。このように、セーフティカーに乗れる人間が常にいるような状況を作っているんだ。
これをさらに21年間続けたら? 私はそれでも楽しむことができるだろうね。これからの将来、どういうことが起こってどんな変化があるのかを楽しみにしている。
さすがにあと21年は無理かもしれないけど、あと数年は間違いなくやるだろう(マイランダーは現在48歳)。私の同僚には60歳でも恐ろしく速く走れる人がたくさんいるんだ!
■私にとってF1とは
私にとっては、最高のマシンと最高のテクノロジーによる最高峰のレース選手権だと思っている。F1がここ数年どのように変化してきたかを見られてとても幸せなんだ。
特にマックス・フェルスタッペン(レッドブル)のような若いドライバーがF1には必要だと思っている。彼のようなドライバーがこのスポーツを面白くする。そして私も、このスポーツが面白いものになるためのサポートができる立場にいると思う。
F1で働くことができるのは本当に素晴らしいことであり、F1は私の人生の一部だ。僕たち(F1関係者)は1年のほとんどで世界中を旅していて、何だか家族のように感じるんだ。
The Safety Car
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
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