ポルシェと破談……レッドブルF1が見据える次の一手とは。独自路線か新メーカー、それとも”元鞘”ホンダ?
ポルシェはレッドブルとの提携による2026年シーズンからのF1参戦を断念。レッドブルは2026年以降、どのような形でF1を戦うのだろうか。
9月9日、ポルシェはレッドブルとの交渉決裂を発表。確定路線と思われた「レッドブル・ポルシェ」誕生は夢に終わった。ではレッドブルは次世代パワーユニット(PU)レギュレーションが訪れる2026年シーズン以降、どのような形でF1に参戦するのだろうか。
まずは、話を整理しよう。ポルシェは現行レギュレーションでトップに立つレッドブルのF1事業を50%株式取得し、レッドブルが新設したPU部門「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」の次世代PU開発プログラムと提携することを目指した。そしてそのパートナーシップは、ポルシェの名が実際にグリッドに並ぶ2026年から10年間に渡り継続される手筈になっていた。
2026年導入の次世代PUレギュレーションの最終締結が遅れることがなければ、ポルシェとの提携は早くて7月上旬に、レッドブルの”お膝元”でのレースであるオーストリアGPで発表される予定となっていた。
しかしレギュレーション締結は遅れ、その後モナコの反カルテル機関である「コンセイユ・ドゥ・ラ・コンカーレンス(Conseil de la Concurrence)」の発行した法的文書には、“レッドブル・ポルシェ”の正式発表は8月4日と記載されていた。言及するまでもないが、その期日にも発表されることはなかった。
当初はFIAのレギュレーション締結の遅れが正式発表に影響を与えていると思われたが、実は徐々にパートナーシップの雲行きは怪しくなっていたのだ。
レッドブル・レーシングのCEO兼チーム代表で、RBPTのCEOでもあるクリスチャン・ホーナーはサマーブレイクを前に、ポルシェが提携を結ぶためにはレッドブル側の「フィロソフィーとDNA」に合致していることがいかに重要かを訴え、まだ評価プロセスが残っていると公言した。
サマーブレイク明けのベルギーGPでは、ポルシェと同じくフォルクスワーゲン・グループ傘下のブランド、アウディが先に2026年からPUマニュファクチャラーとしてF1へ参戦すると正式発表。アウディは年内にパートナーを発表するとしているが、2023年末でアルファロメオと袂を分かつザウバーへ出資する形でF1に加わると広く噂されている。
ポルシェがイギリス・ミルトンキーンズにあるレッドブルのファクトリーで開発協力を行なうとされていた一方で、アウディはドイツのノイブルクのファクトリーで独自に開発を行なうと宣言していた。
アウディがベルギーGPで参戦表明を終え、続くオランダGPでもポルシェとレッドブルから提携に関する明るいニュースはなく、イタリアGPを前に破談が発表された。
RB Porsche
motorsport.comの調べでは、提携交渉が難航する中でレッドブル側が、望み以上にF1プロジェクトの主導的な役割を担い、商業的、PR的なコミットメントを求めるポルシェの姿勢を嫌ったことが決裂の要因だと推測されている。現行レギュレーション下でライバルを圧倒しているレッドブルの現状を鑑みると、今の”正しい”アプローチを崩したくないと考えるのは客観的に見ても理にかなっていることだ。
イタリアGPに先立ち、ポルシェが発表した短い声明にはこうある。
「ここ数ヵ月の間ポルシェとレッドブルは、ポルシェのF1参入の可能性について話し合いを行なってきた」
「この度、両者は共に、これらの協議を継続しないという結論に至った」
「前提にあったのは、常に対等な立場でのパートナーシップを結ぶことだった。それはエンジンのパートナーシップに留まらず、チーム(運営)も含めてだ。しかしそれは実現できなかった」
「(2026年の)規則変更により、この選手権が我々ポルシェにとって魅力的な環境であるということには変わりない。そのため、今後も注視していくつもりだ」
一方でホーナーはmotorsport.comに対して次のように語っている。
「金銭的な話は一切していない。ポルシェは素晴らしいブランドだが、そのDNAは(レッドブルと)全く異なる。議論の段階で、ストラテジーで整合性が採れないことが明らかになった」
「レッドブルはF1でその力を示してきた。そしてインディペンデントチームでありエンジンメーカーでもある今、シャシーだけでなくパワートレインでも競争できることを楽しみにしている」
Red Bull did not want to give up a stake in its F1 team to Porsche
Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images
ではレッドブルはどう動く?
レッドブルは現在も、2026年以降に向けてRBPTで次世代PU開発に勤しんでおり、サマーブレイクを前にテストベンチでの作業が始まったことを明かしている。
ポルシェとの交渉が決裂した原因のひとつとして、レッドブルはポルシェがF1事業に介入し過ぎる可能性があると判断したことが上げられる。つまり、2026年以降に向けて仮にパートナーを選ぶのであれば、投資をしながらも一定の距離を置く者が理想的と言える。
かつてレッドブルのPUサプライヤーであったルノーがコンストラクターとなったことを受け、2016年から2018年にかけてルノーの代わりにタグ・ホイヤーのバッジを付けてマシンを走らせたようなスタイルの復活も、「金は出すが、口は出さない」という点で魅力的と言える。
あるいは、F1への関与を求めている自動車メーカーと提携を結ぶという選択肢もレッドブルにはある。タイトルスポンサーとしてアストンマーチンと提携を結んだ時と同じようなスタイルだ。
今回の場合は、電気自動車への移行を急いでいる一方、世界ラリー選手権(WRC)が今季から”ラリー1”規定に移ったことでハイブリッド車の開発という方向性も残すヒョンデは、その候補になり得る。
しかし最も可能性として高いと思われているのが、ホンダだ。
ホンダF1は、マックス・フェルスタッペンが初のドライバーズタイトル獲得という形で、2021年末にレッドブルとのパートナーシップを終了し、現在はホンダ・レーシング(HRC)として”RBPT”印のホンダ製PUを運用している。
カーボンニュートラルへのリソースシフトを主な理由としてF1撤退を決めたホンダだが、100%持続可能燃料を使用し始める2026年シーズン以降のF1復帰を否定してはいない。
ホンダF1のマネージングディレクターを務めた山本雅史がRBPTに合流し、レッドブル・レーシングとアルファタウリへのPU供給は、現行PUレギュレーションが継続される2025年シーズン末まで継続されることが8月上旬に発表されたばかり。今季レッドブルが得意とする直線スピードにも大きな役割を果たしているだけに、その蜜月関係が2026年以降も継続される可能性はかなり高い。
HRC Sakura
Photo by: Honda
新たな自動車メーカーと組むか、既存のホンダと再び提携を結ぶか。それともRBPT単体で独自路線を進むか。レッドブルのテーブルに並べられた選択肢は少なくないが、いずれにせよ、RBPTはPUマニュファクチャラーとして次世代PUの導入に向けて開発を進めている。
レッドブルには効果的なスポンサーシップを獲得するために3年間の猶予がある。しかし、ゼロからのスタートとなるポルシェには、もうその余裕はなくなってしまったのだ。
アウディのF1参戦や、破談には終わったもののポルシェのF1への強い関心は、現行F1が持つ自動車メーカーにとっての魅力を裏付けている。
F1のステファノ・ドメニカリCEOも、ポルシェの他にも自動車メーカーが後に控えているとシリーズの健全性を強調していた。
「私から言えることは、ポルシェは2026年に施行される新しいPUの基礎となるルールについて議論してきたグループに欠かせない一員で、今も議論が続けられているということだ」
そうドメニカリはイタリアGPを前に語った。
「我々はポルシェとレッドブルのコメントを読むだけだ。どうするかは彼ら次第だ」
「しかし現在のF1は、とても包括的なプラットフォームであると信じている。またエンジニアの席には、表に出ないことを好む他のメーカーも座っている」
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