「アイルトンが認めてくれた」”悲劇”の1年後、ヒルがサンマリノで勝利した時
アイルトン・セナとローランド・ラッツェンバーガーが亡くなった1994年のサンマリノGP。その1年後、デイモン・ヒルとウイリアムズは、同地で感傷的な勝利を手にした。
Michael Schumacher, Benetton B195 Renault, retired, with Race Winner Damon Hill, Williams FW17-Renault
LAT Images
アイルトン・セナとローランド・ラッツェンバーガーが天に召された1994年のサンマリノGP。F1サーカスは、翌年も同地イモラ・サーキットに戻ってきた。
レース前にはセナとラッツェンバーガーに対して、1分間の黙祷が捧げられた。ドライバーたちはマシンに乗り込む前に、沈痛な面持ちで円陣を組み、ふたりを追悼。そしてスタートラインとトサコーナーの間には、ふたつのシケインが設けられた。そのうちのひとつは、セナが亡くなったタンブレロに置かれた。
Fans pay tribute to Ayrton Senna
Photo by: Ercole Colombo
The drivers stand on the grid, in remembrance a year after the deaths of Ayrton Senna and Roland Ratzenberger
Photo by: Motorsport Images
94年のレースに勝利したミハエル・シューマッハー(ベネトン)がポールポジションを獲得。しかし、フェラーリのゲルハルト・ベルガーは、予選タイムで0.008秒差と肉薄し、2番グリッドにつけた。
「ここではウイリアムズと同様に、フェラーリをも警戒しなければいけないだろう」
シューマッハーはレース前にそう警戒感を示した。当時のフェラーリは、暗黒時代から脱しつつある状況で、徐々に速さを身に付けていた。
3番グリッドにはウイリアムズのデビッド・クルサードがつけ、チームメイトのデイモン・ヒルは4番手。彼はセナが亡くなった当時、チームメイトを務めていた。
「4番グリッドというのは良い順位じゃないけど、明日は追い上げるよ」
ヒルはそう語っていた。
5番グリッドにつけたのはフェラーリのジャン・アレジ。予選順位こそこのポジションだったが、日曜日の午前中に行なわれたウォームアップセッションではトップタイムをマークしており、不気味な存在と言えた。
Michael Schumacher, Benetton B195 Renault, and Gerhard Berger, Ferrari 412T2 start on the front row of the grid
Photo by: Motorsport Images
Michael Schumacher, Benetton B195 Renault, Gerhard Berger, Ferrari 412T2,, David Coulthard, Williams FW17 Renault, Damon Hill, Williams FW17 Renault, Jean Alesi, Ferrari 412T2,, Mika Hakkinen, McLaren MP4/10 Mercedes,, Eddie Irvine, Jordan 195 Peugeot, and Johnny Herbert, Benetton B195 Renault, at the start
Photo by: Motorsport Images
レースは若干湿ったコンディションで始まり、ウエットタイヤを履いたシューマッハーが、ベルガーとウイリアムズの2台を抑え、ホールショットを奪った。
なおこのレースでは、マクラーレンからナイジェル・マンセルが復帰していた。マンセルは1995年シーズンからフル参戦復帰を決めていたが、当初はシャシーのサイズが身体に合わず……チームはモノコックを作り直すことになった。そのため、新モノコックが完成したこのサンマリノGPからの復帰であった。ただ予選は、チームメイトのミカ・ハッキネンから1秒以上遅い9番手だった。
そのマンセルは、スリックタイヤでのスタートを選んだ。他のスリックタイヤを選択したドライバー同様、マンセルも1周目は大いに苦労したが、すぐにコースは乾き、ウエットタイヤスタート勢はすぐピットに戻ることになった。
ベルガーは5周目にピットイン。しかしクラッチを引きずってしまい、再スタートするのに手こずることになった。
Michael Schumacher, Benetton B195 Renault walks back to the pits after retirement
Photo by: Motorsport Images
Michael Schumacher, Benetton B195 Renault walks back to the pits after retirement
Photo by: Motorsport Images
シューマッハーはその数周後にピットイン。しかし彼は、アウトラップでピラテッラ・コーナー手前でスピン! 高速でタイヤウォールに激突してしまった。マシンは大破したが、彼は幸運にもマシンから無傷で脱出することになった。
「スタートは良かったし、もしトラフィックに苦しんだとしても、ベルガーを抑え込むことができた」
そうシューマッハーは語った。
「タイヤ交換を終えてレースに復帰した時、リヤが少し不安定なように感じた。なぜコントロールを失ったのかは分からないから、その理由を調べる必要がある。当時僕はスピードを上げていた。そして怪我をしたと思ったから、幸運だったと思う」
シューマッハーが脱落した後、ベルガーがヒルを従えてレースをリードした。クルサードとアレジは、3番手を激しく争った。
先頭で11周を走った後、ベルガーは再びピットインする。しかしまたもやクラッチに不具合が発生し、エンジンストールしてしまう。なんとかリスタートすることができたが、大きくタイムロスしてしまい、勝利への望みはここで潰えた。
Gerhard Berger, Ferrari 412T2
Photo by: Motorsport Images
Damon Hill, Williams FW17 leads David Coulthard, Williams FW17
Photo by: Sutton Images
「ウォームアップでは、レースカーを1周だけ走らせた。スペアカーとは異なり、ドライのセットアップを施したんだ」
そうベルガーは説明した。
「クラッチの動きが非常に厳しいことに気付かなかった。コースがすぐに乾くのは分かっていたから、このマシンでレースすることを決めたが、クラッチの問題を改善するチャンスはなかった。そしてそのクラッチは、僕を苦しめた」
「ストールしていなかったとしても、ウイリアムズと同じレベルにはなかったから勝てなかったと思う。でも、もしピットストップを終えた後もリードしていれば、少なくとも戦うことを目指しただろう。僕のポジションを守るためにね」
これでヒルが首位に浮上し、アレジとの戦いに決着をつけたクルサードが2番手に上がった。しかしクルサードは、ビルヌーブ・シケインでスピン。さらにピットレーンでの速度違反を犯してしまう。
「僕はスピード制限を超えてしまった」
クルサードはそう認めた。
「僕はギヤを2速に入れてしまったんだ。そしてレブリミットボタンを押した。その後、スローダウンすべきことを全てしたんだ」
David Coulthard, Williams FW17 Renault
Photo by: Motorsport Images
Jean Alesi, Ferrari 412T2
Photo by: Sutton Images
クルサードはアレジの前でコースに復帰し、ヒルがリードを広げることに貢献した。しかしピットレーンの速度違反で、クルサードには10秒のストップ&ゴーペナルティ。ただそれだけではなく、別の問題も抱えていた。
「スピンした時にフロントウイングの翼端板を痛めてしまった。しかし次にピットストップをした時にはそれに気付かず、真ん中のスティントは2秒ペースが遅かった」
そうクルサードは語った。
「ピットレーンの速度違反のためにピットに戻ったが、その時にノーズを変えることはできず、タイヤのグレイニングは酷かった」
結局ヒルは、アレジに18.5秒の大差をつけてトップチェッカー。シューマッハーが獲得ポイントゼロに終わったため、ランキング首位に浮上した。ベルガーは大きく遅れた3位でフィニッシュ。彼はレース終盤にファステストラップを記録し、クルサードの追撃を抑えた。
Race Winner Damon Hill, Williams FW17 Renault
Photo by: Motorsport Images
Jean Alesi, Ferrari, Damon Hill, Williams, Gerhard Berger, Ferrari
Photo by: Motorsport Images
「一生懸命に考え、戦術を駆使して、行方を読まなければいけないレースだった」
ヒルはレース後にそう語った。
「状況の変化、スリックタイヤに交換するためのピットインのタイミング、バックマーカーを抜く時は、非常にリスキーだった。今日は、簡単にミスを犯しそうなレースだった」
「正直なところ、ここは去年酷い時間を過ごした場所だ。でも僕はほとんどの時間、仕事に集中することができた。でも今日は良いレースだったと思うから、アイルトンも認めてくれたと思う」
アレジは2位で満足しつつも、クルサードの攻撃的な走りに苛立っていた。
「クルサードは間違ったやり方で僕をブロックしてきたから、多くの貴重な時間を失った。特にレース序盤、抜かれるのを阻止するために、ジグザグに走行すべきではないんだ」
「クルサードは、ある時点でブロックするために僕に当たってきた。それで、ステアリングアームが少し曲がってしまった。とはいえ、デビッドが僕の勝利を奪ったとは言いたくない。勝ったヒルとの差は、僕が失ったタイムよりも大きかった」
Nigel Mansell, McLaren on the grid
Photo by: Ercole Colombo
Nigel Mansell, McLaren MP4-10 Mercedes
Photo by: Motorsport Images
ミカ・ハッキネン(マクラーレン)が5位に入り、ザウバーのハインツ-ハラルド・フレンツェンが6位で入賞の最後の1席を手にした。
マンセルは復帰戦で10位フィニッシュとなった。彼はノーズを交換するためにピットインしなければならないなど、順位を下げることになってしまった。
「マシンのバランスが取れた時、良い時間を過ごした。その後でいろんなインシデントが起きた。本当にたくさんのことがあって、事態は少し難しくなったんだ」
マンセルはレース後にそう語った。
なおマンセルは次のスペインGPでリタイア。そのレース限りでF1から引退することになったため、このサンマリノGPがF1で最後にチェッカーを受けたレースとなった。
Race Winner Damon Hill, Williams Renault
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Damon Hill, Williams FW17 Renault
Photo by: Motorsport Images
Fans pay tribute to Ayrton Senna
Photo by: Motorsport Images
Nigel Mansell, McLaren
Photo by: Sutton Images
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