2022年のF1レースディレクターは誰になる? マイケル・マシの去就にかかわらず負担軽減は必須
2022年シーズンのF1でトピックのひとつとなっている、現レースディレクターのマイケル・マシの去就。果たしてFIAはどう舵を取るのか?
写真:: Mark Sutton / Motorsport Images
Motorsport.com's Prime content
The best content from Motorsport.com Prime, our subscription service. <a href="https://www.motorsport.com/prime/">Subscribe here</a> to get access to all the features.
2022年シーズンのF1開幕が迫る中、昨年までマイケル・マシが務めたレースディレクターの座に誰が就くのかについて、様々な憶測が飛び交っている。
昨年の最終戦アブダビGPでマシが下したセーフティカー運用に関する判断は、タイトル争いの行方を大きく左右したため論争を引き起こした。マシの判断により、劣勢だったマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が一転して有利な状況となり、最終ラップでルイス・ハミルトン(メルセデス)を交わして逆転チャンピオンを手にしたことから、マシは批判の的に。レース結果を作為的に操作したという陰謀論まで飛び出す始末だった。
上記のこともあり、マシが今季もFIAのF1レースディレクターを続投するかどうかは未だ不透明な状況だ。F1のステファノ・ドメニカリCEOも、ベストな解決策は何かという点に関心を寄せている。
ドメニカリはかつてFIAに在籍していたことがあり、FIAの組織構造をよく理解している。そのため、新会長のモハメド・ベン・スレイエムなどとも密接に連携している。
2017年からFIAの競技事務総長を務め、現在はシングルシーター部門のエグゼクティブディレクターとしてF1により深く関わっているピーター・バイエルは、マシを巡る議論について興味深い意見を述べている。
マシについてジャーナリストに質問されたバイエルはこう語った。
「彼は素晴らしい仕事をした。彼にもそう伝えた」
「しかし、新しいレースディレクターがやってくる可能性があることも伝えてあえう。私は世界モータースポーツ評議会に提案することしかできないが、彼らは間違いなく彼も候補に含めるだろう」
「私はマイケルに、現在の論争に関して連盟がバックアップすることを保証した一方で、『我々は君と仕事を続けたいが、我々がこの問題に対処しなければならないことも理解して欲しい 』と伝えた」
■レースディレクターの負担軽減へ
サーキットを歩くマイケル・マシ(右端)
Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images
バイエルはまた、マシが続投となった場合にも、大きな変化が待ち受けていることを明らかにした。まず、今までマシがやっていた仕事の一部を分担し、彼の負担を減らすという計画があるようだ。
「レースディレクターはスポーティングディレクター、セーフティデリゲート、トラックデリゲートでもあるが、それらの分担が行なわれる」とバイエルは言う。
特にサーキットの視察に関しては、多くの時間と労力が費やされる。マシは2021年シーズンの終盤、サウジアラビアGPの新会場の進捗状況を確認するため、レースの合間に何度もジェッダへ足を運ばなければならなかった。しかしコロナ禍の現在において、移動を増やすことは難題となる。
前任のレースディレクターである故チャーリー・ホワイティングは、仕事熱心なあまり複数の仕事をこなしていたが、マシが就任して以降はレース数も増加の一途をたどっており、単純な比較はできない。
またもうひとつの変化として、チーム代表が無線でレースディレクションに介入できなくなる、ということがある。
従来は各チームのチーム代表、もしくはスポーティングディレクターがレースコントロールと直接やり取りできることになっていたが、メッセージを放送する関係上、昨シーズンはチーム代表の参加が奨励されていた。
しかし最終戦アブダビGPでは、タイトル争いが白熱するあまり、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表とメルセデスのトト・ウルフ代表が行き過ぎたメッセージを送ることもあった。これはマシに余計なプレッシャーを与えてしまうことから、間違いであったとFIAやF1は考えている。
チームの代表者からの定期的な無線連絡も、今後はマシではなくレースコントロールにいる別の人物が対応することになる。
「チーム代表は、このチャンネルに介入することができなくなる」とバイエルは言う。
「ただし、何か質問があった時のために、チームマネージャーはアクセスできるようにする」
「このような問い合わせの対応においては、専用のスタッフを置くことでバッファを作りたい。そうすることで、レースディレクターは自分の仕事に集中できるようになり、気が散ることはなくなるだろう」
そして3つ目の変化は、遠隔での情報提供。各所から目を光らせ、レースコントロールにインシデントの状況を伝達する。レースディレクターはクラッシュの後処理やセーフティカーの対応で手一杯であるため、これは非常に理にかなっている。
■マシ解任の場合、後任の候補となるのは?
では、マシが残留した場合、他に何が変わる可能性があるのか? 2、3人のレースディレクターの持ち回り制にするという手もあるが、スチュワードならまだしも、レースディレクターには一貫性が必要だというのがF1界の共通理解だ。
そこで考えられるのが、現在の副レースディレクターよりも強い発言力を持つ者をマシの隣に据えることで、事実上、決定に対する責任を分担するという案だ。
というのも、もしマシがレースディレクターを解任され、サーキット視察やセーフティデリゲートに専念するとなった場合、誰がその役割を担えるというのだろうか?
FIAにとって、マシの後任を決めるのは容易なことではない。まず第一に、FIAの後任候補の中で23回も行なわれるレースウィークエンド全てに帯同することを受け入れる人はそう多くはないだろう。そしてもうひとつ、レースディレクターという仕事はこれまで以上にリスクの大きいものとみなされている。
マシの後任候補となるような人たちは基本的に、これまでソーシャルメディアで批判の嵐になった経験がなく、リスクの少ないマイナーな選手権で比較的穏やかな生活を送っている人たちばかりだ。だからこそ、彼らは“地雷”を踏むリスクを背負いたくないと思うかもしれない。
現実的な後任候補を挙げるとするならば、20年に渡ってGT選手権やWEC(世界耐久選手権)のレースディレクターを務めてきたエドワルド・フレイタスや、かつてF1の副レースディレクターを務め、現在やフォーミュラEなどで働くスコット・エルキンス、そして現F1副レースディレクターのニールス・ヴィティヒなどだ。
ニールス・ヴィティヒ
Photo by: Alexander Trienitz
他にも優秀なレースディレクターはいるが、有能かつ意欲的な人物はそれほど多くはない。ただ、上記の全員がマシと共に共同でレースディレクションに関わるという可能性もあるだろう。
また、FIAでの経験豊富な人間が補佐やアドバイザーのような形で呼び戻される可能性もある。具体的には、かつてホワイティングの補佐を務めたハービー・ブラッシュには豊富な経験があるが、2016年末にF1を去ってからは2輪の仕事に忙殺されているため、23レースに帯同する意欲はないかもしれない。
それから、ホワイティング時代のチームの主要メンバーであり、FIAのレースコントロールシステムマネージャーを長年務めていたコリン・ヘイウッドもいる。彼はマシの補佐として数年を過ごしたが、2021年初頭に退任。現在もコンサルタントとしてFIAに関わっている。惜しむらくは、昨年のアブダビGPで豊富な経験を持つ彼がいなかったことだ。
外部から人材を確保する線も否定はできないが、まずはチームマネジャーやスポーティングディレクター経験者など、ルールを熟知してFIAのシステムを理解している人物に目を向けるべきだろう。
そういった役職に就いている者は基本的に冷静な性格で、自分の足で情報を集めて迅速な決断を下すことができる。それこそがレースディレクターという役割に求められるものだ。実際、フェラーリのスポーティングディレクターであるローレン・メキーズも、かつてはFIAでホワイティングの後任として育成されていた時期がある。しかし、シーズン開幕を目前にした段階で、FIAが現在チームで働いているスタッフたちのヘッドハンティングに成功するとは考えづらい。
そういう意味では、F1スポーティングディレクターのスティーブ・ニールセンは適任かもしれない。元警察官で、過去にはティレル、ベネトン、ルノーなどでチームマネジャーを務めた彼は、多くの人が理想の選択肢と考えるだろう。
スティーブ・ニールセン
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
ただ、彼は既にマルチタスク(レースディレクターのルール作成への協力など)をこなしている状態であり、2022年末にF1マネージングディレクターのロス・ブラウンが退任した後は、さらにその仕事量が多くなると予想される。そのため、候補に挙がることはないだろう。
一方でアルピーヌの元エグゼクティブディレクター、マルチン・ブコウスキーという線は十分あるだろう。彼は昨年、アルピーヌで実質的なチーム代表を務め、今年1月上旬に退社している。
ブコウスキーもしばらくFIAで技術的な仕事をしていたが、昇進の機会がないことに不満を募らせ、2017年にF1チームでの仕事に戻ってきた。彼の経験とスキルは興味深い。ただ、彼がレースディレクターをやりたがるのか、FIAやF1、チームに受け入れられるかどうかは別問題だが……。
また、ブコウスキーにスポーティングディレクターのような仕事をさせて、マシが現在受け持っている仕事の一部を担うというプランもあるだろう。実際、ブコウスキーは前回FIAを去る前、似たような役割に就くことが決まっていた。
マルチン・ブコウスキー
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
つまるところ、レースディレクターを務めるのが誰になろうと、現在マシが請け負っている仕事をそのまま受け継ぐことは不可能に近いということだ。
アブダビの一件の影響で、今後のレースコントロールの判断には今まで以上に注目が集まるだろうし、ミスはほとんど許されないだろう。バイエルは次のように語る。
「(マシは)個々のチームの攻撃に対して、比較的面の皮が厚い」
「FIAで働く以上、警察のような仕事をしていることを理解しないといけない」
「日常生活と同様に、警察官が同情を買うことはほとんどない。ソーシャルメディア上での反応は耐え難いものだし、ニコラス・ラティフィに対する殺害予告で分かる通り、彼らは手段を選ばない」
「マイケルはソーシャルメディアのアカウントを持っていないが、他の場所でも彼は攻撃されていた」
Be part of Motorsport community
Join the conversationShare Or Save This Story
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
Top Comments