アストンマーチンの空いた一席。F1引退ベッテルの後任ドライバーは誰になる? 候補者をリストアップ!

アストンマーチンのセバスチャン・ベッテルは、2022年シーズン限りでのF1引退を表明。これにより空いた一席に収まるドライバー候補は多岐にわたる。

Sebastian Vettel, Aston Martin AMR22

 7月28日(木)、セバスチャン・ベッテルが2022年シーズン限りでF1を去ることを発表した。これにより、2023年のアストンマーチンに空席ができることとなった。

 ベッテルの突然の引退発表は、2023年に向けて加速していた憶測や眉唾物の噂を含めて様々な情報が飛び交うSilly season(馬鹿げたシーズン)をさらに加熱させ、いくつかのチームに影響が出るシナリオがいくつも浮上してきた。

 まず、アストンマーチンにとってこのニュースは寝耳に水……引退を想定して後任ドライバー候補を確保していた訳ではなかった。

 もちろん、35歳のベッテルはF1世界チャンピオンに4度輝き、今シーズンでF1デビュー17シーズン目を迎え、グリッド上でもベテランの域に達していた。

 彼が引退する可能性はたしかにあったが、ベッテルとチームオーナーであるローレンス・ストロールが契約延長の条件についても話し合っていたこともここ数週間で話題となっていた。ベッテル自身もフランスGPに先立ち、チームには「続投の意思を伝えてある」と語っていた。

 しかしベッテルはハンガリーGPのレース週末を前に引退を発表。ここからアストンマーチンは正式な後任探しを始めることとなったのだ。

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 ドライバーはチーム代表のマイク・クラックやチーフ・テクニカルオフィサーのアンディ・グリーン、スポーティングディレクターのアンディ・スティーブンソン、パフォーマンスディレクターのトム・マッカロウといった首脳陣の意見を聞きながら、ローレンス・ストロールが最終決定を下すことになる。

 アストンマーチンの一席はもちろん、チームオーナーの息子であるランス・ストロールが確保している。そのため後任候補として挙げられるのは、ベッテル獲得の際にローレンス・ストロールが知った「自分の息子に良い影響を与える可能性のあるチームプレイヤー」という特殊な条件をクリアできるドライバーへと必然的に絞られる。

 加えてアストンマーチンは、高級スポーツカーを中心に展開するイギリスの自動車メーカーでもある。後任探しではマーケティングでの効果も考慮する必要がある。

 ベッテル獲得は、4度の世界チャンピオンというポジティブなPR効果を見込んでのことだった。ストロールにしてみれば、できればレースウィナーなどの知名度の高いドライバーを選びたいと思うだろう。


ニコ・ヒュルケンベルグ 

Nico Hulkenberg, Aston Martin

Nico Hulkenberg, Aston Martin

Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images

 前述の考慮事項とは関係なく論理的に考えれば、リストの一番上には2011〜12年、2014〜16年にフォース・インディア時代の同チームでドライブし、現在はリザーブドライバーを務めるニコ・ヒュルケンベルグの名前があるはずだ。

 2020年にはレーシングポイントの”スーパーサブ”として3戦に出場。今季はベッテルの代役として開幕2戦を走った。

 ハンガリーGP終了後に行なわれるアストンマーチンのピレリタイヤテストにも参加が決まっており、刷新された今季マシン『AMR22』でのマイレージをさらに稼ぐこともできる。

 ヒュルケンベルグとなら、翌年へ向けたオプション付きで2023年の単年契約を結ぶことも可能。チームにとっても彼はよく知る人物だ。

 あと3週間も経てばヒュルケンベルグも35歳になるが、最近は40代までレースを続けるドライバーも珍しくはない。

 アストンマーチンは今後数週間、ベストな選択肢を探す中での”バックアップ”として手札に残しておくことも可能になる。ただ本当にチームが望んでいるのはヒュルケンベルグなのだろうか?

フェルナンド・アロンソ

Fernando Alonso, Alpine F1 Team, is interviewed after the race

Fernando Alonso, Alpine F1 Team, is interviewed after the race

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 現在アルピーヌで走るフェルナンド・アロンソという選択肢もあるだろう。

 ローレンス・ストロールは、ベッテルをチームに迎え入れる前からアロンソ獲得に興味を持っていた。彼は2度の世界チャンピオンであり、F1や世界耐久選手権(WEC)、インディカーなどを走る中で得た幅広い知識がチームに利益をもたらし、後任ドライバーに求めるPR効果にももってこいだと言えよう。上記で挙げた条件には合致している。

 アルピーヌとしても、アロンソが離脱すれば空席ができ、昨年のFIA F2チャンピオンでアルピーヌの育成ドライバーであるオスカー・ピアストリを、他チームへの”レンタル”ではない形でF1デビューさせることができる。

 ただアストンマーチン陣営の中には、アロンソが”厄介事”を持ち込むかもしれないということを危惧する者もいる。彼には、自身パフォーマンスを追求するあまりにチームを分裂させることもあるという評価も存在するため、ランス・ストロールと反りが合わない可能性もある。

 とは言うものの、その悪評はマクラーレン時代のモノで、アルピーヌからF1復帰を果たして以降はチームメイトのエステバン・オコンらと非常に良い関係を続けられている。

ヒュルケンベルグやアロンソでなければ誰に?

Daniel Ricciardo, McLaren Mick Schumacher, Haas F1 Team

Daniel Ricciardo, McLaren Mick Schumacher, Haas F1 Team

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 今季末に契約が満期を迎えるビッグネームで、アストンマーチンに好影響をもたらすドライバーのリストは非常に短いが、現在ウイリアムズで走るアレクサンダー・アルボンも、そのリストに載るひとりだ。

 レッドブル時代には苦戦を強いられたが、パフォーマンスは折り紙付き。チームメイトと波風を立てない性格というところもアストンマーチンの条件に沿っている。

 ミック・シューマッハーも今季限りでハースとの契約が満期を迎える。アストンマーチンがシューマッハー獲得に関心があれば、ベッテルは”愛弟子”のチーム入りを後押しするのは間違いないだろう。また7度のF1世界チャンピオンであるミハエルを父に持つ彼の存在は、マーケティングの面でも素晴らしい存在になるだろう。

 しかしシューマッハーはアストンマーチン陣営を納得させるだけの結果を残せているのだろうか? そしてシューマッハー自身はフェラーリとの関係を断ち切ることを望んでいるのだろうか? そのあたりが重要になるだろう。 

 また、候補のひとりとして挙げられるのがマクラーレンのダニエル・リカルドだ。マクラーレン移籍後は2021年のイタリアGPでの優勝こそあるものの、全体的なパフォーマンスが彼のチームメイトであるランド・ノリスに及んでいないことも事実。ザク・ブラウンCEOがリカルドとの早期契約打ち切りに関する条項があると明かしたこともあり、シーズン序盤からリカルド放出は度々噂されてきた。

 リカルドは紙面上では来季末までチームと契約を結んでおり、彼は噂に対して、F1はもちろんのことマクラーレンに残ると声明を出した。しかしマクラーレンによる放出、もしくはアストンマーチンからの”Win-Win”な提案により移籍となる可能性もある。

 仮にこのシナリオが実現した場合、マクラーレンにはインディカーからのF1転向を目指すコルトン・ハータやパトリシオ・オワード、アレックス・パロウなどに対して、望まれたシートが空くことになる。

 リカルドはアストンマーチンが後任ドライバーに求める条件の多くを満たしている。ただチームとしては、マクラーレンで再起を果たせていないドライバーを本当に欲しいと思うだろうか?

 アストンマーチンがアロンソを獲得しないのであれば、ピアストリをチームに迎え入れるシナリオも消える。そのピアストリを乗せるという選択肢もあろうが、ライバルの育成ドライバーを育てて、元アストンマーチン代表のオットマー・サフナウアーの元に戻すという役割を担いたいと、アストンマーチンが思うとは考えにくい。

Nyck de Vries, Test and Reserve Driver, Mercedes AMG, arrives into the paddock

Nyck de Vries, Test and Reserve Driver, Mercedes AMG, arrives into the paddock

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 もうひとり候補になりそうなルーキーがいる。2019年のF2チャンピオンで昨年のフォーミュラE世界チャンピオンのニック・デ・フリーズだ。

 メルセデスのリザーブドライバーを務めるデ・フリーズは今季、ウイリアムズとメルセデスからフリー走行1回目に出走。パドック内での評価も高い。ヒュルケンベルグ不在のレースではアストンマーチンのリザーブドライバーを務めており、チームとは交流もある。

 今季、F1チームはシーズン中ルーキーを2度金曜日のフリー走行で走らせることが義務づけられており、アストンマーチンはまだ1回もこれを消化していない。デ・フリーズをルーキーセッションで走らせることができれば、直接評価することも可能だ。

 アストンマーチンはメルセデス製パワーユニットを使用しており、ストロールとメルセデス代表のトト・ウルフの間には、ドライバー契約に関する取引も痛みなく行なうことができるコネクションはある。

 メルセデスとしても、カスタマーチームであるアストンマーチンに無条件でデ・フリーズを渡すことも容易になる。 

 デ・フリーズは、今季苦戦が続くニコラス・ラティフィの後任として来季ウイリアムズからF1デビューを果たすとの噂もあった。しかしウイリアムズは、育成ドライバーのローガン・サージェントのF2での活躍に注視しており、アルピーヌからピアストリを”レンタル”する選択肢もあるとしている。

 なんにせよ、どのような展開になるのか想像は尽きない。

 
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