2021年フロア規則変更……最も大きい影響を受けるのはレッドブルかメルセデスか?
2021年のF1マシンは、昨年のマシンから開発が凍結されているため、勢力図に変化はないのではないかとの見方が強い。しかしながら、どうも一部改訂される規則には、勢力図に大きく影響を及ぼす可能性がありそうだ。
Ferrari SF1000 rake
Giorgio Piola
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
2020年、新型コロナウイルスの影響により、財政的に大きな打撃を受けた各F1チーム。この状況を打破するため、2021年に予定されていた新規則導入を1年後ろ倒しし、2020年のマシンを引き続きもう1年使うことを決めた。
この2021年用マシンは、基本的な部分の開発が凍結されているため、チーム間の勢力図には大きな影響を及ぼさないと考えられていた。しかしいくつかの部分では開発が可能であったり、規則が変更されているため、これが各マシンのパフォーマンスに大きな”変革”を与える可能性があると言われ始めている。
これに最大の影響を与える可能性があると言われているのが、新しいフロアのレギュレーションだ。同一レギュレーションが長く続いているF1では、年々マシンのダウンフォース発生量が増加……これに伴いタイヤにかかる負荷も増しているため、これを打破すべく、リヤタイヤ直前のフロアの面積を減らしてダウンフォースを減らそうとしているのだ。
そしてこの変化が、メルセデスもしくはレッドブルのコンセプトを揺るがす可能性があるという。
当初はダウンフォースは減るものの、それほど大きな影響はないものと考えられていた。しかし実際には、非常に重要な変化であるという。
アストンマーチン(昨年までのレーシングポイント)のテクニカルディレクターであるアンディ・グリーンは、昨年の段階で新たなフロアの影響を検証した後、次のように語った。
「これは大きな変化だ。信じられないほどだ。フロアに生じる小さな変化は、マシンのパフォーマンスに大きな影響を及ぼす」
「フロアだけを再開発すればいいというモノではない。残念ながら、その影響を補うためには、マシン全体の空力を再開発する必要がある」
レッドブルは、大きなレーキ角(マシンが前傾姿勢になる形。フロアの前端は路面に近く、逆に後端は路面からかなり高い位置にある)を持つ傾向にあるため、今回のフロア規則の変更の影響を最も大きく受けるのではないかと考えられていた。しかし一部では、レッドブルよりメルセデスの方が、このレギュレーション変更の影響を大きく受けるのではないかと言われている。
■2021年には一体何が変わるのか?
Floor rules comparison 2020-2021
Photo by: Giorgio Piola
まずは、何が変わるのかということを理解することが重要である。前述の通りこのレギュレーション変更は、年々増加の一途を辿るダウンフォース発生量を削減するための策だ。
FIAは、リヤタイヤ直前のフロアを斜めに切り欠き、それによってダウンフォースを減らそうとした。このレギュレーションでの目標値は、ダウンフォース発生量の10%削減。しかしフロアを斜めに切るだけでは、この目標を達成できないことが徐々に明らかになった。
その結果FIAは、リヤのブレーキダクトに取り付けることができるウイングレットの幅の縮小、そしてディフューザーのストレーキの高さを制限するなど、追加の変更を決定。さらにフロアに、周囲が完全に囲われた”穴”を設けることも禁止された。
その変更が行なわれる間に、ピレリも新たな構造のタイヤを準備。より低い内圧で走行できるように改善されたタイヤを開発し、フリー走行で各チームが実際に試している。
Mercedes AMG F1 W11 tyre check
Photo by: Giorgio Piola
これらのことは、各チームが新たな空力レギュレーションに対処するだけでなく、新しいタイヤにも対処しなければならないということを意味するため、とても重要な変更だと言えるだろう。これらの変更によって未知数の部分が生じるため、空力面における課題が大幅に増加することになる。
リヤタイヤの前のフロアが変更されるため、このリヤタイヤがどう作動するのかをいうことだけを考えればいい……というわけではない。フロントタイヤのことも考えなければならないのだ。
フロントタイヤは、その後方に乱気流を生み出す。しかもタイヤは、内部に空気が充填されたゴム製のパーツであるため、負荷がかかると変形する。すると後方に発生する乱流の形状も変わるため、マシンのリヤ部分に大きな影響を及ぼすことになる。これを処理する方法も、レギュレーション変更に伴うパフォーマンスへの影響を取り戻すために、非常に重要になるのだ。
つまり、レギュレーションが変更される部分だけでなく、その影響を受ける部分のパーツも、チームは開発しなおさなければならないのだ。そしてその必要があるボディワークは、マシンのほぼ全体に及ぶと考えられる。
■”レーキ”の影響
Ferrari SF1000 rake
Photo by: Giorgio Piola
今回のレギュレーション変更により、レーキ角はどんな影響を受けるのだろうか?
2009年以降レッドブルのマシンは、いずれもレーキ角が大きく、かなりの前傾姿勢となっていた。こうすることで、フロア全体をディフューザーとして使い、ダウンフォース発生量を高めようとしているはずだ。
フロアで発生するダウンフォースは、後端に取り付けられたディフューザーによってフロアと路面の間の気圧を下げることによって生み出される。レーキ角をつければ、マシンのリヤ部分の方がフロントと比較して路面との間に存在する空間が広く、気圧が低くなるということに繋がり、ディフューザーの効果が増すということになる。
ただマシンの側面などから乱流がフロア下に入ってしまうと、ダウンフォースの発生量に大きな変化を及ぼすことになるため、レーキがデメリットになる可能性がある。そのため各チームは、フロアの両端を複雑な形状にし、フロア下を流れる気流と、外界の乱流とを遮断……安定したダウンフォースを生み出そうとしていた。
これが、レッドブルが2021年レギュレーション下で苦しむことになるだろうと考えられた理由だ。リヤタイヤ直前のフロアを斜めに切り取られることで、これまでフロア下の気流を”守って”きた空力パーツの多くを失うことになってしまうからだ。
しかし全てのチームは、フロアのリヤタイヤ直前部分だけでなく、フロアの両端に開けられた、長い”周囲を囲われた穴”によって作られたエアカーテンにより、フロア下の気流を保護していたのだ。
Ferrari SF1000 floor
Photo by: Giorgio Piola
前述の通り、この”周囲を囲われた穴”は2021年シーズンから使用が禁止されることになった。これが、レッドブルよりもメルセデスに大きな影響を与えると考えられるのだ。
レッドブルは大きくつけられたレーキ角により、フロア全体をディフューザーのように使った。一方でメルセデスは、ホイールベースを長く取り、その結果ディフューザーの前のフロアの面積を大きくして、強大なダウンフォースを得てきたのだ。そのフロアが乱流の影響を受けてしまえば、せっかく持っていたメリットが削がれてしまい、マシンもパフォーマンスを発揮できない可能性がある。
レーキ角が小さいというコンセプトは、メルセデスが長年踏襲してきたものだ。そして2014年にフリック(前後のサスペンションを油圧で繋ぎ、車高のバランスを調整するシステム)が禁止された際、その対策としてロングホイールベースのコンセプトが採用された。ただおそらくこれにより空力的に敏感になり、2017年には扱いにくいマシンになった。
メルセデスはそれ以降問題を解決してきた。しかし今回のレギュレーション変更によってフロアの仕様が変わることで、それらの解決策が無に帰してしまう可能性があるのだ。
■最も大きな影響を受けるのは誰だ?
両者を整理すると、ショートホイールベース+ハイレーキ(レッドブル)と、ロングホイールベース+ローレーキ(メルセデス)という形に、コンセプトが二分されることになる。
しかしパフォーマンスにどれほどの影響があるかといえば、それは両者がフロア両端の”周囲を完全に囲われた穴”にどれほど依存しているかということにかかっている。
FIAは冒頭で紹介した通り、ダウンフォースの10%削減を目指して今回のレギュレーション変更を行なった。しかし、全てのチームが均等にその影響を受けるということではない。
ただそれは、”周囲を完全に囲われた穴”にだけ言えることではない。例えばブレーキダクトのウイングレットだけが制限されることになったとしても、チームによってその影響の大小は変わってくるはずだ。
現時点では、今回のレギュレーション変更により、どのチームが一番大きな影響を受けるのかは分からない。しかし、少なからず影響があることは間違いなく、メルセデスとレッドブルだけが大きく抜け出す……そういう2020年の構図が変更され、全チームが一団となる可能性もあると言えよう。
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