【F1分析】レッドブルに選ばれたのはフォード! ポルシェとは実現できなかった”理想の関係”
フォードとレッドブル・パワートレインズの提携が発表されたことで、レッドブルはアメリカ市場においてより大きな力を得ることになった。これはポルシェがもたらすことができない、重要なメリットのひとつだ。
レッドブルF1が2023年シーズン最初の一歩を、ニューヨークで踏み出したのはふさわしいプロモーションだったと言えるだろう。
たとえ発表された新車『RB19』が昨年のマシンであるRB18とほぼ同じで、カラーリングに大きな変更がなかったとしても、世界で最も知名度の高い大都市で発表を行なうのはマーケティング的に理にかなった動きだった。
というのも、この発表会ではレッドブルは2026年に向けて、フォードとの提携が発表されたからだ。レッドブルF1チームは、フォード傘下のジャガー・レーシングをレッドブルが買収して生まれたチームであり、両者が自由の国でタッグを組むことになったのは象徴的な出来事だと言える。
しかしレッドブルの当初の計画では、そのパートナーはフォードではなくポルシェだったのは公然の秘密となっている。8ヵ月ほど前、レッドブルは次世代パワーユニット(PU)が導入される2026年に向けて、ポルシェとの提携を発表する寸前までいった。
その発表は、レッドブルのホームレースであるオーストリアGPで発表される予定だったが、用意されていたプレスリリースが下書きフォルダから出ることはなかった。
ポルシェとの提携によってチームの体制を維持するために必要な”自律性”が、チーム代表であるクリスチャン・ホーナーをはじめとしたレッドブル側に与えられないのではないかという懸念が広がったことがその原因だと考えられており、9月にはこの提携が完全に見送られたことが確認された。
ホーナーはポルシェとの意見の対立に関して、次のように語った。
「レッドブルは常に独立したチームだった。それが我々の強みのひとつであり、我々が達成してきたことのバックボーンであり、迅速に行動するために必要な能力でもある。それは、我々のDNAの一部なのだ」
「企業として運営される組織ではなく、レースチームとして運営されることが、我々の強みのひとつだ。これは将来的に絶対必要な条件だ」
ポルシェの契約が決裂したのは、レッドブル・パワートレインズが2026年仕様のエンジン開発の本格的なスタートが目前に迫り、レッドブルの共同創業者であるディートリッヒ・マテシッツの健康状態が悪化している時期のことだった。
ポルシェを失ったレッドブルが、その将来を確実にするためにどうやって大規模な投資の確保するのか、様々な憶測が飛び交うことになった。ホンダとのパートナーシップを更新したことも、話題のひとつになったわけだ。
フォードはレッドブルにとって適切な条件をすべて満たしており、その逆もまた然りだ。F1は、Netflixのドキュメンタリーが牽引する世界的なブームの真っ只中にある。特にアメリカではマイアミとオースティンに加え、2023年にはラスベガスGPが復活予定。1シーズンに同国で3戦ものレースが開催されるのだ。
アンドレッティがゼネラルモーターズ(GM)と提携し、F1への新規参入を目指しているのは、このアメリカ国内での人気の高まりが理由であり、GM最大のライバルであるフォードも狙いは同じだ。
F1が2030年までに二酸化炭素排出量ゼロを目指すというのも、2トン超の電動トラックを市場に投入するというフォードの本質的な矛盾を解決する上で一役買っている。
そんな中でフォードがレッドブルへのアピールに成功した理由は、フォードが何をもたらし、何に関与しないかが大きかったと言える。ポルシェはレッドブル・アドバンスド・テクノロジー(レースチームの運営部門)の株式50%を取得し、10年間の契約でパワートレイン部門を支援するための資金を準備中であった。
しかし、フォードがそこまで多額の資金を提供することはないだろう。その代わり、PU開発プログラムにのみ投資すると考えられている。その見返りとして、有名なブルーオーバルが今後レッドブルのマシンのエンジンカバーに描かれ、主要レースでフォードの著名人が登場し、レッドブルのプレスリリースにフォードの名前が引用されることになるだろう。
レッドブルのホーナー代表と、モータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコが突然脇に追いやられることもないだろう。この点も、ポルシェとは違う。2005年以来多くの成功をレッドブルにもたらしてきた無駄のない経営構造を希薄にすることを心配する必要はないのだ。
フォードには、ある意味でこうした”手抜き”のサポートに関する経験がある。世界ラリー選手権(WRC)ではMスポーツと提携しており、そのマシンには誇らしげにレッドブルのカラーリングが施されている。ただ、開発の舵取りをするのはフォードではなく、チームだ。エンジニアリングの専門家たちが、比較的自由に開発を進められるように配慮している。
この無干渉こそ、レッドブルが望んでいるものだ。ポルシェのアプローチが根本的に間違っているわけではないが、特殊なパートナーシップを機能させるためには全く相容れないモノだったのだ。
また、フォードがレッドブルのパワートレインにまったく関与しないということではない。ポルシェが望むよりも明らかに軽いタッチになるだろうというだけだ。フォードが関連技術の経験を持っている場合、それはレッドブルのPUに引き継がれることになる。
この自由度の高さは、フォードが過去にF1で犯した失敗を繰り返そうとしているわけではないだろう。有名な話だが、2000年代初頭にレッドブルがジャガーブランドのチームを買収する前、デトロイトの経営陣はなぜ『Mr. E. アーバイン』に数百万ドルも支払うことになっているのか知らない状態だったのだ。
それから20年経ち、現フォード社長兼CEOのジム・ファーリーは、グッドウッドでフォード『GT40』を走らせたりするなどモータースポーツを良く知っている。F1はもはやヨーロッパのニッチな活動ではなく、フォードは自らのブランドイメージを近代化するためにそれを利用することができる。
今回のプロジェクトはアメリカのフォード上層部の目にしっかりと留まり、レッドブルが夢見た自由を与えてくれるはずだ。
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