F1参戦3年目で迎えた正念場。ウイリアムズのラティフィが僚友アルボンの後塵を拝し続ける理由とは?
ウイリアムズのニコラス・ラティフィはここまで無得点。チームメイトのアレクサンダー・アルボンに後れを取る中で、その苦戦の理由を語った。
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
ウイリアムズのニコラス・ラティフィは、2022年シーズン序盤で上手くいっていないことを認めている。それは今季のマシン『FW44』に対する自信のなさが原因だという。
今季のラティフィは、新加入のチームメイトであるアレクサンダー・アルボンよりも新マシンに対する適応が遅れ、その活躍の影に隠れている。
加えて、ここ4戦でクラッシュを3度喫していることから、チームはスペアパーツの補充に追われ、予定通りのアップデート投入が困難になった。
一方で、昨年の彼は全てが上手くいっていたように見えた。シーズン後半には勢いを増し、チームメイトのジョージ・ラッセル(現メルセデス)にもしばしば拮抗する走りも見せていた。実際、ウイリアムズがダブル入賞を果たしたハンガリーGPでは、ラティフィはラッセルの上、7位でチェッカーを受けている。
ただ最終戦アブダビGPでは、レース終盤にクラッシュ。それにより出動したセーフティカーにより、タイトル争いの結末に大きく影響した。その後、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)の戴冠に不服なファンが、ソーシャルメディア上でラティフィに対し非難や殺害予告を行なうにまで発展した。
彼の身に起きたことは間違いなく辛いことであり、F1参戦3年目となる2022年シーズンに向けて彼の心を揺さぶったに違いない。
それ以上のクラッシュは避けたいところ……しかし、今シーズンは早くも第2戦サウジアラビアGPの予選でクラッシュ。決勝レースでも精彩を欠き、再びクラッシュを喫した。
アクシデントは相次ぎ、第3戦オーストラリアGPの予選ではランス・ストロール(アストンマーチン)と接触。FIAの裁定でストロールに非があると認められたものの、マシンは再び壊れてしまった。
オーストラリアGPではアルボンが大胆なタイヤ戦略もあり10位入賞を果たした一方で、ラティフィは16位に沈んだ。今季のウイリアムズはパフォーマンスの面でライバルから後れを取っているものの、エミリア・ロマーニャGPでもアルボンが印象的な走りを見せたことで、ラティフィのF1キャリアを案じる声も少なからず出てきている。
プレッシャーがかかる中で限りあるチャンスを活かし、結果に結びつけることはラティフィにとって容易なモノではないだろう。
「これは頭脳戦だとは思わないか?」
そうウイリアムズのチーム代表であるヨースト・カピトは語った。
「彼はとても速く走ることができるし、正しいポジションにいればアレックス(アルボンの愛称)と同じラップタイムを出すことができるだろう
「昨年よりもマシンは若干難しくトリッキーになっているから、彼はそれを理解する必要がある」
「もちろん、ミスを2回もすれば、自信を取り戻さなくてはならなくなる。でも彼はチームから全面的なサポートを受けられるし、必ずや戻ってくるだろう」
Nicholas Latifi, Williams FW44
Photo by: Williams
またカピトは、アブダビでの一件がラティフィのドライビングに影響を与えていたと認めた。
「昨年、彼に最も影響を与えたのは、ソーシャルメディアでのコメントや脅迫だったと思う。我々は彼がそれを乗り越えられるよう手助けを行なった」
「もちろん、彼が何度か喫しているアクシデントは、以前も述べた通り彼の自信にはつながっていない。しかし、我々は彼の自信を高めるために、彼と共に取り組んできた。その点で彼は良くなってきていると思う。彼は学ぶ必要があるし、良い方向へ進んでいると思う」
イモラ・サーキットで行なわれた第4戦エミリア・ロマーニャGP。レース序盤、ラティフィはアルボンの後ろを走っていた。アルボンはコースが乾いてきたことで、いち早くスリックタイヤに交換。ラティフィも他のドライバーと同様に翌周ピットへ飛び込んだ。
ピットストップのタイミングは1周しか変わらなかったが、アルボンが数ポジションを上げ11位でチェッカーを受けた一方で、ラティフィは16位となった。
結果的にタイヤ交換タイミングがこの差を生むこととなったが、その判断にはスリックタイヤへの早すぎる交換によって、ミスに繋がることを避けたいというラティフィの不安も関係していた。
「観ての通り、最初のスティントで僕らはとても接近していた」とラティフィはレース後に語った。
「ピットアウトした時、彼の姿が見えなかったから、最初は僕が彼の前にいると思っていた」
「コースは見るからにスリックタイヤでいける状態になっていたと思う。でも、マシンの感触がまだ良くなくて、自信が持てなかった。真っ先に(ピットに)行きたくはなかったし、他のドライバーに行かせて、問題ないかを確かめたかったんだ。ただ結果的に、コース上でタイムを多く失ってしまった」
「ピットストップが遅れたことで、タイムを失ってしまったんだ。僕としては、今回のペースはポジティブなモノだった。でも今の僕らとしては、11位だろうが、12位だろうが、18位でも何の違いもない」
F1ドライバーが、自信のなさが戦略的な意思決定に影響を与えたと認めることは稀であり、チームメイトの方がより良い仕事をしていると認めることもあまりないだろう。だがラティフィが自らの改善点を語る時、彼は常に清々しいまでに素直だ。
「サウジアラビアGP以降、(オーストラリアでの)クラッシュの前も含めて、マシンの感触があまり良くなかった」と彼は言う。
「どんなドライバーだろうと、乗っているマシンの挙動を信頼できなければ、とても危険だと思うだろう」
「安全性という意味じゃなくて、マシンが自分を追い詰め、アクシデントを引き起こし、限界まで攻められないという意味だ」
「だからペースが比較的良い時、もしくは強い時でも、『よし、感覚には満足だ』とは必ずしもならない。時間が経てば分かってくることだと思うんだ」
Nicholas Latifi, Williams FW44
Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images
そのマシンに対する感覚は、特定の条件下においてではなく、全体として違和感を感じているとラティフィは言う。
「どこでもそうなんだ。ストレートで全開じゃない限り、そう感じる。アレックスの方が明らかに、マシンに慣れている」
「マシンのペースに関係なく、ダウンフォース不足とバランスの問題で苦戦していることも僕らは理解している。これは明確なことだけど、彼はそれを上手にコントロールできているんだ」
「僕もそのレベルに達しないといけない。ドライビングスタイルとか、ブレーキングが遅すぎるとか、スピードが足りないとかそういうことではなく、僕としては純粋にマシンの感触と自信が問題だ」
「マシンに自信が持てないと、より技術的な部分に取り組めないし、それはどんなことにも関わってくる。まず自信を持つこと、他のことは二の次でいいんだ」
では、ラティフィの問題とは何なのだろうか? ウイリアムズのマシンパフォーマンス責任者であるデイブ・ロブソンは、今年のマシンは従来のマシンに比べてブレーキング時の挙動が大きく変化したため、ドライバーがその不慣れな感覚に適応する必要があると語る。
「ここ数年のマシンは、リヤがかなり上がっていた」とロブソンは言う。
「そうするとフロントウイングが地面に近づき、ブレーキングしてターンインするコーナーでのバランスがかなり変わってくる」
「このマシンはリヤが低くて剛性が高い。だから、とてもフラットな状態を保っているのだ。これはどうしようもないことで、リヤが低く硬いマシンだと空力的にこうなってしまうのだ」
「だから他の方法を見つける必要がある。それにはマシンのメカニカルセットアップの組み合わせと、ドライバーのある程度の学習が必要になる。それが今のマシンなのだ。(リヤを)高くして、柔らかくして走らせることもできるけど、速くはならない」
ラティフィとしては、ピーキーなマシンではなく許容値の広いマシンが自分に合っているとして、FW44に合わせてアプローチを調整することと、自分に合った効率的なセットアップを見つけることが課題だと考えている。
「確かに、その両方が必要になるだろうね」とラティフィは言う。
「もちろん、ガレージの向こう側にいるドライバーがマシンのハンドリングに満足していなくても、少なくとも彼が上手くマシンをコントロールできているのなら、僕もそのレベルに達するため努力が必要だと言える。それは確かなことだ」
「でもサウジアラビアGP以降、それができていない。正直に言って、毎ラップ進歩できているとは感じられていないんだ」
「もう少し僕向きに近づけるための変更が必要なのは間違いない。マシンを安定させるという意味ではないよ。それは僕らがすべきことじゃないからね。オーストラリアでそれをやって、上手くいかなかったし」
Nicholas Latifi, Williams FW44
Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images
「もっと許容値の広いマシンにするために、いじれるパラメーターは他にもある。それが今後考えるべきことだ」
アルボンは昨年までのチームメイトであったラッセルとは異なるドライビングスタイルとアプローチを持っている。しかし新しいチームメイトを迎えることで、マシン開発やセットアップの選択が違ってくることは、自分のマシンにとって不利はないと考えている。
「(不利は)全くないよ。マシンのベースとして、バーレーンに着いた時から僕らの弱点はハッキリしていた。まだ新しいコースに行く度、その限界値にかなり悩まされている。あるコースではより多く、あるコースでは少なく……でも限界は確実にあるんだ」
「個人的には、マシンで厳しい時間を過ごしているし、ここ2年のマシンよりも苦戦している。相対的なペースとかそこらは関係ないよ。どのマシンも遅くなっているのは当たり前だからね」
「でもマシンの純粋な感覚やハンドリングの傾向、限界までプッシュする時の自信は、たとえバランスが悪くても、無い訳じゃない。ただ今はまだ、それが必要なレベルに達していないだけだ」
イモラを終え、次は初開催のマイアミGP。その次のスペインGPを除き、モナコGP、アゼルバイジャンGP、カナダGPとランオフエリアのない市街地サーキットや非常設サーキットでの開催が続く。マシンの信頼が全てであり、ミスの許されないこのグランプリが、ラティフィにとっての正念場となるだろう。
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