マクラーレン、“ミニDRS”禁止でも痛くも痒くもない? ライバルF1チームが望む戦闘力低下になり得ない理由とは
話題を呼んだマクラーレンの“ミニDRS”は禁止された。ただ、F1タイトル争いへの影響はわずかかもしれない……。
Oscar Piastri, McLaren MCL38
写真:: Glenn Dunbar / Motorsport Images
F1アゼルバイジャンGPで話題を呼んだマクラーレンのリヤウイングのデザイン。車速に応じてフラップが後方にたわみ、スロットギャップ(メインプレーンとフラップの隙間)が拡大していたことから“ミニDRS”と呼ばれるようになった。
このマクラーレンのミニDRSは空気抵抗を低減し、直線スピード向上に寄与していたと考えられているが、翌戦シンガポールGPでFIAが“待った”をかけ、チームはこのデザインコンセプトの修正を求められた。
シーズン後半戦にかけて、マクラーレン、レッドブル、フェラーリによるF1コンストラクターズタイトル争いは白熱し、ポイント差はわずか。それぞれのマシンパフォーマンスに小さな違いが出ただけでも、最終的に大きく結果に影響する可能性もある。
マクラーレンのライバルたちはミニDRS問題でアドバンテージを早々に潰すことができたようにも見える。しかし実際には、シーズン終盤戦になっても最終的な結果はあまり変わらないだろう。
低ドラッグ仕様サーキット
マクラーレンのリヤウイングをめぐる騒動において理解すべきは、シーズン当初からマシンに搭載されていたアイデアでも、全てのレースで投入されるモノでもなかったということだ。
このミニDRSはサマーブレイク前のベルギーGPで投入されたアイデアで、低ダウンフォース/ドラッグのサーキットでのみ使用される予定だった。
このアイデアは、他のダウンフォース/ドラッグレベルのサーキットで活用されることはなく、低ドラッグ仕様のウイングとして特別に設計されたモノだった。
Lando Norris, McLaren MCL38, in the pit lane
Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images
例えばシンガポールGPでマクラーレンはこのコンセプトを採用せず、高ダウンフォース仕様のリヤウイングを使用する。そのため、FIAの介入はマリーナベイ市街地サーキットでのチームのパフォーマンスに全く影響を与えない。
ベルギーGPからアゼルバイジャンGPにかけて使用されたリヤウイングの選択に関して、マクラーレンは公式文書で次のように説明していた。
「テンポが速いサーキットを想定して、今大会ではより空力負荷の少ないリヤウイングを投入し、効率的にドラッグを減らすことを目指した」
マクラーレンはこのウイングをベルギーGP、イタリアGP、アゼルバイジャンGPで使用。各レースのオンボード映像を見返すと、アゼルバイジャンGPで多くの人々が注目したのと同様に、DRSフラップのたわみが確認された。
ミニDRSを廃止に追い込んだマクラーレンのライバルたちにとって悪いニュースと言えるのが、このウイングが再投入される可能性があったのはラスベガスGPだけだったということだ。
ラスベガスGPの市街地コースは長いストレートと低速コーナーを繋いだ低ダウンフォース/ドラッグレベルのサーキット。他は中ダウンフォース(アメリカGP、サンパウロGP、カタールGP、アブダビGP)と、高ダウンフォース(シンガポールGP、メキシコシティGP)に分けられる。
つまりミニDRSの影響によるゲインがどれほどのモノであれ、マクラーレンからアドバンテージを奪うことができたのは、残り7戦のうちわずか1戦ということだけだ。
Oscar Piastri, McLaren MCL38
Photo by: Sam Bagnall / Motorsport Images
利益の最大化
仮にライバルチームがベルギーGPでマクラーレンのリヤウイングに注目し、サマーブレイク中にFIAに詳しく調査するよう働きかけていたら、イタリアGPとアゼルバイジャンGPのマクラーレンのパフォーマンスに影響を及ぼしていただろう。その結果、2戦の結果が変わっていたかもしれない。
フェラーリのフレデリック・バスール代表は、既にマクラーレンがミニDRSから恩恵を受けていたことに苛立ちを感じていると語った。
「モンツァの状況を思い返すと、少しフラストレーションを感じるよ。100分の2秒(実際は0.075秒)差で5台が並んでいたんだから」とバスール代表は言う。
「100分の2秒の差で1、2番手から5、6番手になってしまうんだ。バクーでは、ターン1で10周連続でサイドバイサイドになった。フラストレーションが溜まっているのは想像できると思う」
マクラーレンからすれば、天才的なトリックが露呈してしまったことに少なからずフラストレーションを覚えているだろう。しかし同様に、好機を逃さず他を出し抜き、例年特に苦戦してきた低ダウンフォース/ドラッグレベルのサーキットで好成績を収めたことに胸を撫で下ろしていることだろう。
マクラーレンのザク・ブラウンCEOは、Sky Sports F1の取材に応じて、次のように語った。
「F1のエンジニアたちは非常に賢く、過去10年間、非常に素晴らしいレーシングカーを開発してきた。そして(FIAの適合)テストにも合格した。ハイパフォーマンスなモノを編み出した我々のチームは素晴らしい」
「チャンピオンシップにとっては素晴らしいことだ。我々は(コンストラクターズランキングで)首位を走っているし、我々のレースカーには明らかに上手く機能しているモノがある。みんながみんな、スピードを高めようとしているし、同時に我々を遅くしようとしている。それがF1だ」
Zak Brown, CEO, McLaren Racing
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
FIAの分析
今後注目されるのは、マクラーレンが自分たちのリヤウイングだけが特別視されることを不公平に感じているかどうかだ。
アゼルバイジャンGP以来リヤウイングの挙動に注目が集まっているマクラーレンは、情報筋によると、ライバルチームのデザインにも目を光らせており、レギュレーションの限界を超えていると考えられるモノがあるという。
情報筋によると、少なくとも他2チームがスロットギャップやリヤウイング全体の回転を含む巧妙な空力トリックを実行している可能性があるようだ。
マクラーレンは声明の中で、FIAが他チームにも目を向けることを望んでいると言及したのは注目に値する。
「FIAがリヤウイングのコンプライアンスに関して、他チームと同じような話をすることも期待している」とマクラーレンは示唆している。
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