創立メンバーのシュタイナーを更迭したハースF1。その損失は大きいのか?
ここ数年、F1チームの代表は前例がないほど入れ替わりが激しかった。しかしギュンター・シュタイナーがハースF1チームを突然去ったことは衝撃的だった。
F1はまさに激動の時代となっている。この2年で、メルセデスとレッドブルを除く全てのチーム代表が交代。ギュンター・シュタイナーがその最新例であり、今後は小松礼雄がハースF1の代表を務めることになる。
今やF1においてチーム代表は、サッカーにおける監督のような立場になった。パフォーマンスの責任の全て背負うようになったのだ。F1は様々な要素が複雑に絡み合うスポーツであり、代表に就任したとしても、その効果が発揮されるまでには長い時間がかかる。にもかかわらず、大きな責任を一身に受けるわけだ。
ただシュタイナーが他の更迭されたチーム代表と異なるのは、ハースF1はシュタイナーがアイデアの部分から作り上げてきたチームであったということだ。
なぜシュタイナーは更迭されたのか?
シュタイナーはジャガーやレッドブルで働いた後、アメリカのノースカロライナ州に渡り、コンボジット関連の事業を始めた。その頃、アメリカ発のF1チームとしてUS F1のプロジェクトが進められていたが、うまくいくことはなかった。しかしシュタイナーは思いとどまることなく、新しいF1チームを立ち上げる計画を練り上げていった。
シュタイナーはフェラーリと提携することで、レギュレーションで許されている最大限のパーツをフェラーリから仕入れ、自チームでの設計や製造を減らし、コンパクトな形でF1チームを運営するアイデアを思いついた。
ただアイデアはあっても資金はなかったため、それに出資する人物を探す必要があった。そこで登場したのが、NASCARで成功を収め、工作機械のビジネスを世界中に広めたいと考えていたジーン・ハースだった。
そしてそのプロジェクトをまとめ、F1への参戦を実現した。現在マイケル・アンドレッティが苦労している、F1参入プロセスを自力でまとめ上げたのだ。
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
Gene Haas and Guenther Steiner during the 2022 F1 season
この他にも、ジャガー時代の同僚に声をかけ、F1撤退を決めたマノーのファクトリーを購入し、そのチームで働いていた人たちも子様した。さらにロータス/ルノーで数多くの表彰台を獲得していたロマン・グロージャンを獲得。グロージャンと共に小松もチーム入りした。
F1に参戦を開始したハースF1チームは、デビュー戦オーストラリアGPの予選では後方に沈んだものの、決勝ではグロージャンが粘り強い走りを見せて6位入賞。続くバーレーンGPではグロージャンが5位に入った。
ただこれを上回る成績は、その後ほとんど記録できず。唯一2018年のオーストリアGPでの4位(やはりグロージャン)だけが、1年目を上回る成績だった。コンストラクターズランキングでは、8位から10位の間を行き来していた。
またスポンサー関係でも失敗が続いた。2019年にはリッチ・エナジーとの契約で揉め、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受け、ウラルカリとの契約も破棄せざるを得なかった。
Photo by: Dirk Klynsmith / Motorsport Images
Haas had a memorable debut thanks to Romain Grosjean
またミック・シューマッハーとニキータ・マゼピンというルーキーふたりを起用したことで成績は低迷。その後、ニコ・ヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセンという経験豊富なラインアップとしたにも関わらず、2023年にはまたもランキング最下位を味わうことになった。オーナーのジーン・ハースとしては、代表であるシュタイナーを更迭するのが、明白な解決策だったのもかもしれない。
ジーン・ハースは、F1公式Wwbサイトに次のようなコメントを寄せている。
「何がいけなかったのか? 結局のところそれは、パフォーマンスの問題だ。私はもう、10位になることに興味はない」
ジーン・ハースのこの決断は正しかったのだろうか? シュタイナーはエンジニアリング、そして技術面について確かな背景を持っている人物だ。仕事を成し遂げるために何が必要かということも、よく理解している。そしてチーム代表は、スタッフ全員にインスピレーションを与え、メディアにチームの顔をして露出、FIAやF1、そしてその他のチームとの交渉役でもある。シュタイナーはそのいずれでも、理想的な人物であった。
ガラスの天井に突き当たったハース
大局的に見れば、ジーン・ハースとシュタイナーはチームが前進する方法という点で意見が対立していた。このスポーツは急速なペースで進化しており、2018年にチームがランキング5位になったときに機能していたものは、もはや十分ではない。
当面のライバルであるザウバー、ウイリアムズ、アルファタウリは、先行するチームとの差を縮めようとインフラや人材に多大な投資を行なっているが、ハースはフェラーリとダラーラへの依存によって手を縛られ、停滞している。
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
Other small teams like Williams and Sauber have been pulling away from Haas
予算に上限が設定されたことで、どのチームも研究開発費や製造費を削減するために非情なまでに効率性を追求せざるを得なくなったが、ハースは主要サプライヤーに決められた価格を支払うことになっている。
バンベリーにある、かつてマノーのモノだったファクトリーは、2016年にチームがF1に参入した時点ではギリギリ使用に耐えるものだった。製造が別の場所で行なわれているという事実を考慮しても、それでも時代遅れになっている。パドックのホスピタリティ施設でさえ、どのチームよりも基本的なものだ。
与えられた予算に対しては常に効率的になるよう取り組んできたシュタイナーだが、他チームに後れを取らないようアップグレードすることを熱望していた。しかしチームのマネジメントや出費に関する意見に食い違いがあるのは明らかだった。
「我々はまだ予算を超えていないが、上限にはかなり近づいている。ただ、私はもっとも効果的な使い方ができていないと思っている」と、ジーン・ハースは語っている。
シュタイナーは、手を縛られることに明らかに苛立っていた。オーナーとの定期的な論争にもかかわらず、必要だと思われる改革を追求できないまま、続けていくのは困難な状態だった。
ある時点で、ハースは長期的にその状態を続けるのかどうか悩んだかもしれない。最終的に、ハースはシュタイナーについて決断を下した。
今にして思えば、このビジネスが立ち上がる際に、シュタイナーが持ち株を持つことを主張すべきだったという意見もあるだろう。というのも、チームの価値を考えれば、今なら大金を手にすることができるかもしれないからだ。
一方でハースがF1参戦に動いていた当時は、F1チームは財政的に厳しい状態に置かれていたため、その判断難しかったかもしれない。
シュタイナーの今後は?
ポジティブな男であるシュタイナーは、すぐに次のステップに進むだろう。オットマー・サフナウアーのように、チーム代表の座が彼に再び巡ってくるかどうかはまだわからない。仮に他チームでマネジメントの仕事をオファーされたとしても、ハースのような全体的な責任と権力を享受することはないだろう。
Netflixのドキュメンタリーで注目度が高まったことで、シュタイナーには様々なチャンスが広がっている。彼はすでにNASCARで解説を行なっているようだ。F1組織としては、彼をパドックにとどめ、Netflixのカメラに映るような役割を見つける方が賢明だろう。
一方でシュタイナーはハイテクカーボン複合材の設計および製造会社であるファイバーワークス・コンポジットを2009年に創業しており、現在は彼が去ったばかりのハースF1チームよりも多くの従業員を抱え、インフラも充実している。
ひとつ確かなことは、我々はまだ彼の口から、どうするかを聞いていないということだ。
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
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